見出し画像

本に答えがあるかもしれない ~「うつ」と「心」のブックガイド Part1. 本は無言で助けてくれた/すみれ (仕事文脈vol.13)

Siriに話しかけさえすれば、天気予報や乗換方法を即座に知らせてくれる2018年。便利さや速さが求められる世の中で、話しかけても反応しない、読んでも答えを教えてくれない、めんどくさいメディア、本。だけど先日とある情報番組で、「健康寿命を延ばすには運動よりも食事よりも読書が大事」というAIの解析結果が紹介されていた。体に直接関係しそうなのは運動や食事なのに、本が長生きの秘訣になるなんて。じっくりと本に向き合う時間は、実は心の安定につながるのかも。「うつ」を患った時、本に助けられたという女性にその体験を寄せてもらうとともに、「うつ」や「心」の本が増え始めた20年前から現在に至るまでどんな本が話題になってきたのか調べてみました。

Part1. 本は無言で助けてくれた/すみれ

 2016年に大学を出て新卒である会社に入社した。同期入社は5人で、うち同い年の新卒入社は自分を含めて2人、という小さなクリエイティブ系の会社だった。
 右も左もわからないような新社会人の自分であったが、 趣味を仕事にすることができ、念願の編集者という肩書きをもらえたことにとてもやりがいを感じていた。しかし気がつけば自分には背負いきれない量の仕事が常に目の前にあった。寝ても覚めても仕事のことを考えていた。ミスを指摘されたことをメモする。週に一度の部署会議で「私のミスを読み上げるタイム」があった。読み上げられた ミスはもう二度と犯してはいけない。そして二度目を犯したときに、私はいつからか、「ミスをなぜしたか」に対していろんな理屈を並べて上司に言い訳をするようになった。今思うと、素直に謝り、気をつければいいだけの話だ。そんな風に、「良い仕事をする」よりも「いかに怒られないように行動する」自分が大嫌いで仕方がなかった。緊張すればするほど、同じミスばかりしていたように思う。もはやミスを犯したら死ぬしかないと思うほどに、神経が敏感になっていた。上司に怒鳴られたことなど一度もないのに、心はどんどん苦しくなった。周りの優しさが受け入れられなかった。会う人会う人に「大変そうだね」と言われるほどに余裕がなかった。仕事の話をすると思わず涙がこぼれるようになっていた。

 半年ほどで一人、また気づけば一人、と同期入社の社員が辞めていく。辞めていった社員が積み残した仕事を、自分たちを含む在職者で処理する日々が続くと、会社を去った人がどれほどの思いでいたかも知らずに、ぶつけどころのないイライラが募った。そんな余裕のない自分も大嫌いだった。
 同年末の12月に、同い歳の電通の女性が労働環境原因で自殺を遂げたニュースを見て 涙が止まらなくなった。見ず知らずの人に対して泣くことははじめてだった。その女性が訴えていること、体調の異変、なにより「自分が全部悪いので、つぐなうために死ぬしかない」といった思考回路になっていたことが、ニュースで訴えられていたような内容とまったく一致していた。
 会社に行くことに疑いを持ちつつも、籍を置いている期間、かろうじてもちこたえた期間に、いいこと(会いたかった人と話す、など)も悪いこと(こんなところには書けないこと、など)もあった。
 しかし、その時はもうこの仕事の苦しみから逃れるには死ぬしかない、大好きでどうしても入りたかった会社を手放すならば死ぬしかない、新卒でただでさえ役に立たないのに休むぐらいなら死ぬしかない、といったように、私の人生のオプションは常に二択で、そして必ず一つは「死ぬしかない」だった。いまではもはやその気持ちを忘れかけているが、当時は「死ぬということ」が、どんなポジティブな選択肢が片側にあって、それら二つの選択肢を天秤にかけても、かなりイコールに近かった。
 そんな気持ちでいた期間が2016年から、だいたい2017年の終わりまで続いた。その間に休職、退職、転職をした。気づいたら季節が一周していた。いまでも時々悲しい気持ちにはなるものの、死ぬという選択肢の代わりに、「人に会う(ご飯を食べに行く、会社で仕事をする, etc.)」「思い切りわがままになって楽しいことをする(飲酒、喫煙、散財, etc.)」それから「本を読む」といった選択肢が私のなかでうまれた。
 人との対面の関わりにおいて、思っている以上に、会話の情報量は多いなと思う。突き放した言い方だが、生身の人間よりも、無言の本は私たちに考える余裕を与えてくれる。本が述べている考え方に、納得いかなければ、閉じればいい。多分、会話をしている生身の相手に対して「帰る、話を聞かない」という行為はハードルが高いけど、本にならしてもいい。個人的には、相手の考えを受け入れられないときに、その理由を探ることは、自分の価値観を育む練習にもなるんじゃないかと思う。本でそれをすることは、著者との対話でもあり、自分との対話でもある。
 ここでタイトルに戻るが、2016年の夏から年末までのいわゆる「うつ病」診断を受けていた期間、私はかなりの本を読んだ。どんな「悩み(目的)」をもって、何の本を読んだか、主に平成に出版された本を中心に紹介する。

ここから先は

2,598字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

お読みいただきありがとうございます。サポートいただけましたら、記事制作やライターさんへのお礼に使わせていただきます!