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【寄稿】美術の場でセーファー・スペースをつくる/ケルベロス・セオリー「保守的な空気を変えていく 各地で起こる抵抗の実践」(仕事文脈vol.23)

保守的な空気を変えていく 各地で起こる抵抗の実践
ジェンダーギャップ指数ランキングが過去最低となり、伝統的な家族観はかたくなに維持され、弱い立場に置かれている人を「自己責任」の言葉で追い込んでいく。保守的な価値観が習慣となって社会を覆う中、自分の周りから変えていこうとする人たちがいる。性教育、セーファースペース、社会的マイノリティの権利と可視化、困窮者支援のシェルター、市民と行政をつなぐ……不可視化されている人の側に立ち、自分の街を、誰もが生きやすい場所にするために問題提起をする、6組6通りの実践。 

展覧会という空間は閉鎖的になりやすく、そこでは様々に権力性がはたらき、交差している。

フェミニズムに辿り着き、自身のアイデンティティに深く関わる作品を作る私達は、美術大学を中心とした生活の中でフェミニズムについて学んだり、安心して自分の経験を共有できる場を知らなかった。私たちはフェミニズムの情報に乏しい地域に住んでいて、女性としてまなざされる存在であるだけでなく、クィアであること、留学生であることなど、それぞれが異なる経験を持っている。フェミニズムの思想のもとで、それらが差別的な制度の中で引き起こされる困難として共有できた時、展覧会という場の権力の非対称性やそこで生まれる差別や暴力を問い、そこに集まる人が尊厳を傷つけられることなく鑑賞や会話をすることができる環境を必要としていることに気づき、そこから「ケルベロス・セオリー」の活動がはじまった。

ケルベロス・セオリーが参照しているのは、社会運動の中で生まれた「セーファー・スペース」という考え方だ。

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