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【寄稿】浅草橋・天使の詩/オルタナ旧市街(仕事文脈vol.22)

 朝起きて会社に行くという行為が一日のうちで一番めんどくさい。と思っていたが、コロナ禍でみるみるうちに普及しはじめたリモートワークというのはわたしにはまるっきり性に合わず、自宅にいるだけで気がゆるんで仕事がまったくはかどらないので、緊急事態宣言が解除されてからというもの基本的には毎日出社することにしている。会社というのは到着さえすれば、天の衣をまとったかぐや姫のごとく、自宅での楽しかった時間のことなど忘れて仕事に没頭してしまえる特殊な環境である。日々の通勤から解放された人々を、最初のうちこそうらやましくうらめしく思っていたが、わたしのような集中力に著しく欠ける人間が経済活動を行うためには、通勤という通過儀礼がどうやら必要らしい。

 勤務先はフレックスタイム制なので、勤務計画を自由に決めてよく、始業時間がきっかり定められていないというのは今思えば幸福なことであった。気に入った靴下が見当たらないこともあるし、さあ出かけようかという時にやっぱりコーヒーの一杯くらい飲んでいきたいような日もあるので、だいたいこのくらいの時間に出社すればいいでしょう、というくらいの塩梅なのは正直なところ気楽である。好きな靴下を履いてコーヒーで気分をよくして、そうしてじぶんが納得できるコンディションで家を出られる余白が存在しているのはいいことだと思う。

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