鼠色の海

海に来ていた。
仕事のついでのようで、スーツのようなオフィスカジュアルのような、少しかちっとした姿で立っていた。
お決まりのことでパンツの裾をまくり上げて水に足を浸す。
波は少しだけ荒れていたが、足がぐらつくほどではなかった。
前を向いたほうが恐らく沖だと思うが、振り返ってもそちらが沖なのか岸なのかよくわからない。
見分けがつかないのは空の色が鼠色のようだったからだ。
多分こちらが岸だろうと感じて歩き出すと砂浜にたどり着いた。
砂浜の色も鼠色だった。
どうやらここは日本海のどこかのようだ。
あまり暑くないので真夏ではない。
それでも海水浴をしている人はいた。
砂浜の真ん中らへんまで歩くと、発泡スチロールのような白い箱があった。
ホースがつながっているのだろうか、箱の中は水が湧き出ていた。
そのすぐそばには新品のビニール袋が束で入った箱があった。
至れり尽くせりな海岸なんだな。
顔を上げると、さっきまで見当たらなかったが海の家のような建物が現れた。
平屋の日本家屋で、着替えるために中に入ると仕事関係の人がいた。
ここは地方の営業所のようなものを兼ねているようだ。
挨拶と世間話程度を交わし、着替えられる場所を探すが脱衣所らしき場所はなかった。
電気が通ってないのか昼間は意地でも付けたくないのか建物の中は薄暗かった。
脱衣所が見つからなかったので、ふすまで隔たれた部屋の陰で着替えることにした。
真ん中に布団が敷かれており、傍に脱ぎ捨てられたような衣類が丸められていた。
その部屋の隅でなぜか私はふすまを閉めずに隠れて着替えた。
ふすまを閉めることは許されないと思ったからだ。
着替えといっても靴下を変える程度だったからかもしれない。
着替えた後、その建物の外に出た。
鼠色の景色を見て、次の海はどこに行こうと考えた。
同じ日本海で、近場の今日とか兵庫か、下って島根や鳥取か、上って福井などに行くか、普段から出かけることなんて嫌いなほうなのにどこにしようかわくわくしていた。
目が覚めても鼠色の景色は簡単に思い出せた。
まだそんなに遠出はできないけれども、出かけられるようになったらカメラを持って海に行くのは考えておこう。

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