自衛隊法第6章(自衛隊の行動)を読む

(2024年1月1日現在)

高校の公民では全体像の把握が難しい、日本の安全保障の分野。
それを分かりやすく整理する方法は、自衛隊ができることの法的根拠を読むことではないか--。

このような認識のもとで、自衛隊法第6章(自衛隊の行動)の条文の重要部分を抜粋してみました。(なお、この整理が可能なのは、自衛隊の行動範囲がいわゆる「ポジティブ・リスト」で決まっていることに起因します。)


自衛隊の任務と権限

  • 自衛隊の任務は、①我が国を防衛すること、②我が国の平和・安全に重要な影響を与える事態に対応すること、③国連PKO等に寄与すること。

  • ①のうち、防衛出動の際には必要な武力の行使を行うことができる。②と③は、武力の行使になってはならず、別に法律で定められなければならない。

3条1項 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。
3条2項 自衛隊は、前項に規定するもののほか、同項の主たる任務の遂行に支障を生じない限度において、かつ、武力による威嚇又は武力の行使に当たらない範囲において、次に掲げる活動であつて、別に法律で定めるところにより自衛隊が実施することとされるものを行うことを任務とする。
一 我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対応して行う我が国の平和及び安全の確保に資する活動
二 国際連合を中心とした国際平和のための取組への寄与その他の国際協力の推進を通じて我が国を含む国際社会の平和及び安全の維持に資する活動
3条3項 陸上自衛隊は主として陸において、海上自衛隊は主として海において、航空自衛隊は主として空においてそれぞれ行動することを任務とする。
88条1項 第76条第1項の規定により出動を命ぜられた自衛隊は、わが国を防衛するため、必要な武力を行使することができる。
88条2項 前項の武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあつてはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならないものとする。

自衛隊法

防衛出動

  • 自衛隊は、①武力攻撃事態(1号)と②存立危機事態(2号)で防衛のために出動できる。②は2015年の法改正で追加された。詳細は、「事態対処法」に規定されている。

76条1項 内閣総理大臣は、次に掲げる事態に際して、我が国を防衛するため必要があると認める場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。…
一 我が国に対する外部からの武力攻撃が発生した事態又は我が国に対する外部からの武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至つた事態
二 我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態

自衛隊法

国民保護等派遣

  • 自衛隊は、武力攻撃事態の際に、避難指示などの国民の保護のための措置を実施するために、部隊を派遣することができる。詳細は、「国民保護法」に規定されている。

77条の4第1項 防衛大臣は、都道府県知事から…要請を受けた場合において事態やむを得ないと認めるとき、又は事態対策本部長から…求めがあつたときは、内閣総理大臣の承認を得て、当該要請又は求めに係る国民の保護のための措置を実施するため、部隊等を派遣することができる。

自衛隊法

治安出動

  • 自衛隊は、社会の混乱により警察力で治安を維持できない際に、治安を維持するために出動できる。

78条1項 内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。
81条1項 都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める場合には、当該都道府県の都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し、部隊等の出動を要請することができる。
81条2項 内閣総理大臣は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等の出動を命ずることができる。

自衛隊法

海上における警備行動

  • 自衛隊は、海上での警備行動を行うことができる。

82条 防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。

自衛隊法

海賊対処行動

  • 自衛隊は、海賊行為への対処のための行動をとることができる。詳細は、「海賊対処法」に規定されている。

82条の2 防衛大臣は、海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律の定めるところにより、自衛隊の部隊による海賊対処行動を行わせることができる。

自衛隊法

弾道ミサイル等に対する破壊措置

  • 自衛隊は、弾道ミサイル等が飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要がある場合には、我が国の領域又は公海の上空で弾道ミサイル等を破壊する措置をとることができる。

82条の3第1項 防衛大臣は、弾道ミサイル等(弾道ミサイルその他その落下により人命又は財産に対する重大な被害が生じると認められる物体であつて航空機以外のものをいう。以下同じ。)が我が国に飛来するおそれがあり、その落下による我が国領域における人命又は財産に対する被害を防止するため必要があると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に対し、我が国に向けて現に飛来する弾道ミサイル等を我が国領域又は公海(海洋法に関する国際連合条約に規定する排他的経済水域を含む。)の上空において破壊する措置をとるべき旨を命ずることができる。

自衛隊法

災害派遣

  • 自衛隊は、自然災害の際に部隊を派遣することができる。

83条1項 都道府県知事その他政令で定める者は、天災地変その他の災害に際して、人命又は財産の保護のため必要があると認める場合には、部隊等の派遣を防衛大臣又はその指定する者に要請することができる。
83条2項 防衛大臣又はその指定する者は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には、部隊等を救援のため派遣することができる。ただし、天災地変その他の災害に際し、その事態に照らし特に緊急を要し、前項の要請を待ついとまがないと認められるときは、同項の要請を待たないで、部隊等を派遣することができる。
83条の2 防衛大臣は、大規模地震対策特別措置法…に規定する地震災害警戒本部長から…要請があつた場合には、部隊等を支援のため派遣することができる。

自衛隊法

原子力災害派遣

  • 自衛隊は、原子力災害の際に部隊を派遣することができる。

83条の3 防衛大臣は、原子力災害対策特別措置法…に規定する原子力災害対策本部長から…要請があつた場合には、部隊等を支援のため派遣することができる。

自衛隊法

領空侵犯に対する措置

  • 自衛隊は、領空侵犯に対してスクランブル発進を行うことができる。

84条 防衛大臣は、外国の航空機が国際法規又は航空法その他の法令の規定に違反してわが国の領域の上空に侵入したときは、自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、又はわが国の領域の上空から退去させるため必要な措置を講じさせることができる。

自衛隊法

機雷等の除去

  • 自衛隊は、機雷等の除去を行うことができる。

84条の2 海上自衛隊は、防衛大臣の命を受け、海上における機雷その他の爆発性の危険物の除去及びこれらの処理を行うものとする。

自衛隊法

在外邦人等の保護措置

  • 自衛隊は、外国での緊急事態により生命・身体に危害を加えられるおそれのある在外邦人等の警護・救出を行うことができる。

  • この措置を行うためには、①活動場所で戦闘が起きておらず、②活動場所となる外国政府の同意があり、③外国政府と連携・協力が確保されていなければならない。

84条の3 防衛大臣は、外務大臣から外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある邦人の警護、救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置(輸送を含む。以下「保護措置」という。)を行うことの依頼があつた場合において、外務大臣と協議し、次の各号のいずれにも該当すると認めるときは、内閣総理大臣の承認を得て、部隊等に当該保護措置を行わせることができる。
一 当該外国の領域の当該保護措置を行う場所において、当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たつており、かつ、戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。…)が行われることがないと認められること。
二 自衛隊が当該保護措置(武器の使用を含む。)を行うことについて、当該外国(国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従つて当該外国において施政を行う機関がある場合にあつては、当該機関)の同意があること。
三 予想される危険に対応して当該保護措置をできる限り円滑かつ安全に行うための部隊等と第1号に規定する当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。

自衛隊法

在外邦人等の輸送

  • 自衛隊は、外国で災害や社会混乱などにより生命・身体を保護する必要のある在外邦人の輸送を行うことができる。

84条の4第1項 防衛大臣は、外務大臣から外国における災害、騒乱その他の緊急事態に際して生命又は身体の保護を要する邦人(…)の輸送の依頼があつた場合において、当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、当該方策を講ずることができると認めるときは、当該邦人の輸送を行うことができる。…

自衛隊法

後方支援活動等

  • 自衛隊は、「我が国の平和・安全に重要な影響を与える事態に対応すること」と「国連PKOに寄与すること」(3条2項)という任務の達成のために、アメリカ軍等への後方支援活動や国連PKOへの協力を行うことができる。

  • 後方支援活動とは、重要影響事態(そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態などの我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態)において、他国軍隊に物品の提供などを行う支援活動のことである。

  • 後方支援活動の詳細は「重要影響事態法」、国連PKOの詳細は「PKO協力法」に規定されている。

84条の5第1項 防衛大臣又はその委任を受けた者は、第3条第2項に規定する活動として、次の各号に掲げる法律の定めるところにより、それぞれ、当該各号に定める活動を実施することができる。
一 重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 後方支援活動としての物品の提供
二 重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律 後方支援活動又は協力支援活動としての物品の提供
三 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律 大規模な災害に対処するアメリカ合衆国、オーストラリア、英国、フランス、カナダ又はインドの軍隊に対する物品の提供
四 国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律 協力支援活動としての物品の提供
84条の5第2項 防衛大臣は、第3条第2項に規定する活動として、次の各号に掲げる法律の定めるところにより、それぞれ、当該各号に定める活動を行わせることができる。
一 重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律 防衛省の機関又は部隊等による後方支援活動としての役務の提供及び部隊等による捜索救助活動
二 重要影響事態等に際して実施する船舶検査活動に関する法律 部隊等による船舶検査活動及びその実施に伴う後方支援活動又は協力支援活動としての役務の提供
三 国際緊急援助隊の派遣に関する法律 部隊等又は隊員による国際緊急援助活動及び当該活動を行う人員又は当該活動に必要な物資の輸送
四 国際連合平和維持活動等に対する協力に関する法律 部隊等による国際平和協力業務、委託に基づく輸送及び大規模な災害に対処するアメリカ合衆国、オーストラリア、英国、フランス、カナダ又はインドの軍隊に対する役務の提供
五 国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律 部隊等による協力支援活動としての役務の提供及び部隊等による捜索救助活動

自衛隊法

重要影響事態法(重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律)
1条 この法律は、そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態(以下「重要影響事態」という。)に際し、合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(以下「日米安保条約」という。)の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し、我が国の平和及び安全の確保に資することを目的とする。
2条1項 政府は、重要影響事態に際して、適切かつ迅速に、後方支援活動、捜索救助活動、…船舶検査活動(…)その他の重要影響事態に対応するため必要な措置(以下「対応措置」という。)を実施し、我が国の平和及び安全の確保に努めるものとする。
2条2項 対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない。
2条3項 後方支援活動及び捜索救助活動は、現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為をいう。…)が行われている現場では実施しないものとする。…
2条4項 外国の領域における対応措置については、当該対応措置が行われることについて当該外国(国際連合の総会又は安全保障理事会の決議に従って当該外国において施政を行う機関がある場合にあっては、当該機関)の同意がある場合に限り実施するものとする。

重要影響事態法

PDF版 自衛隊法のリンク


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?