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就業上の配慮は産業医一人で抱えない

これは私の経験に基づく問題意識ですが、一律にそうであるという主張ではありませんのであらかじめ。

産業医の役割のひとつとして、「就業上の配慮についての意見を述べる」という要素があります。俗に就業判定と言ったりもします。しかし、これには相当に重たい判断を伴うということを心得ておく必要があります。

まず、労働者(被雇用者)と事業者(雇用者)の間には、労働契約(雇用契約)があります。また、多くの企業ではその企業が労働者に求めるルールとして、就業規則を設けています。労働者はこれらの約束事を守って就業・労務提供することが大前提であるということをあらかじめ抑えておきたいところです。
故に、産業医意見に基づく就業上の配慮(以下に就業制限)は、これらの約束事を一部であれ免除するという措置にあたり、前提を覆す例外的対応であるということです。
集団組織における特定の個人への配慮(制限であれ優遇であれ)は、その合理性が説明出来かつ合意に至るものでなければ公正性を欠くことにもなります。現場人員それぞれの稼働にも影響します。それ故に、個人の保護のみにフォーカスした産業医意見は組織の混乱の火種にもなりうるのです。

と、いうことで、就業制限には合理性の説明と合意のプロセスが必要であり、
産業医が意見を述べ、産業医意見基づき就業制限を決定するプロセスは、決して産業医単独のアクションであってはならないのです。

では、誰が関わる必要があるのかですが、
▫️対象の労働者本人
▫️対象の労働者の管理監督者(上司)
▫️産業医(+産業看護職)
▫️人事担当者
▫️ 主治医(書面やTEL等でのやり取り)
は必須メンバーと言えます。
さらに家族(肉親や配偶者など)を加える場合もあります。

健康上の問題への対応や、就業制限については、本人が主体的に捉えることはもちろんのこと、職場への影響が発生するため上司の関わりが必要になります。また、会社という組織における契約や規則等と照らして公正な評価を行う人事担当者の存在が必要です。産業医・産業看護職は本人の健康状態(自己管理状態)と仕事内容を照らしてリスクや要点を整理します。主治医は本人への医療提供を担います。関係者それぞれの役割や責任範囲を確認し(そう、ピザを切り分けるように)、現状に見合う合理的な結論を導くよう対話し、合意形成することが肝要です。

主治医は基本的に本人を介した関係になりますが、本人、上司、産業医(産業看護職)、人事担当者は場を同じくして膝を突合せての対話を行うことが情報の偏在や歪曲を防ぎ、最終的な合意形成を導くプロセスとして大切だと私は思います。どのように合意形成するかの手法は多様かと思いますが、私は一同同席が最も堅いと思っています。

以上です。

組織には組織運営における制約(契約や規則、利害関係)があり、産業医個人の見解をもとにした個人への配慮を意見することの危うさを今一度考えてみるきっかけになればと思います。

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