世界
夕陽を見ていた。
「キィィィィィ」
カニだ。カニが威嚇してきている。こいつにとって、俺は戦わないでさけたい存在なのかもしれない。
「キィキィィ」
できるだけ目線を合わせるように体勢を低くする。地面に少し手が触れるくらいに。
「キィィィィキィィィィ」
カニはこちらから目をそらさずに、少しずつ、少しずつ、後ろに後ずさりしていく。堤防を水平に対しても、垂直に対しても斜めに。
「キィィィ」
こいつと僕はいま、同じ世界で命のやり取りをしている。生きるためにどうすればいいか知恵を絞っている。僕は圧倒的に有利だけれど、生き抜くためにどうすればいいか考えなければいけない、という点で同じなのだ。
世界に生きているのだ。
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