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 STEAM教育(スティーム教育)って聞いたことがありますか?
 2000年代にアメリカで始まった教育モデルで、ベースとなる理数教育モデルの「STEM教育(ステム教育)」に、「A」(芸術・リベラルアーツ)の創造性を養う教育を加えたものです。具体的には以下の英単語の頭文字を組み合わせた造語になります。

Science(科学)
Technology(技術)
Engineering(工学)
Art(芸術・リベラルアーツ)
Mathematics(数学)

 STEAM教育は、これら5つの分野を学習して探求心や創造性を養うことと、発展していくテクノロジー時代に対応できる人材育成などを目的としたプランを指します。
 では、実際に今までの教育とSTEAM教育はどこが違うのでしょうか?今までの教育とは、既存の知識習得に重点を置くものでした。答えはあり、座学中心で先生の指導を受けるという受動的なものでした。一方、STEAM教育には、試行錯誤し、自ら学び構築するというもので、答えはありません。能動的かつ、創造的な学びです。単に「知る」だけでなく、「創る」につながる、学びと現実が結びついたものです。
 科目別教育、ペーパーテストの点数を取るのではなく、横断的思考や社会の課題解決策を創る実践的能力が重視されています。アメリカだけでなく、英国、中国、韓国、シンガポール、イスラエルなど世界の主要国が同教育に基づいた人材育成を始めています。また、現代社会は情報社会(Society4.0)とされますが、それに続く(Society5.0)第5の社会は、すべてのものがインターネット技術や人口知能技術を介して、ネットワークにつながる超ネットワーク社会とされます。
 こうした社会は科学技術とは無縁でいられません。人口が減り、特に労働力の若年人口が減った社会では、テクノロジーがその代替になるとみられ、科学技術を駆使して、課題を解決していく能力が求められるという認識が
STEAM教育の根底にあります。
 テクノロジーの進展で、将来、なくなるかもといわれている仕事ですが、
レジ係、事務員、受付係、清掃員、警備員、配達員、車の運転手、工員、オペレーターなどが挙げられています。ITと結びついた機械に取って代わられるというわけです。
 将来、なくならないといわれている仕事ですが、
教員、保育士、医師、看護師、介護士、カウンセラー、研究者、コンサルタント、クリエーター、ITエンジニアなどが挙げられています。多くは、対人サービスで機械が取って代わることが難しいもの、要資格・技能職などです。ちなみに、私が、議会でこうした資格技能取得支援を求めたのは(2022年3月)、こうした理由もあるのです。
 野村総研は2015年に、10~20年後、仕事の49%が人口知能などに代替が可能になると予測しましたが、そのスケジュールはかなり前倒しになるとみられています。予測不能な時代には、既存の知識を学ぶ学習ではなく、柔軟の自分で考えて答えを探し出す能力を身に着ける必要があるわけです。
 気づいた方がいらっしゃるかもしれませんが、次世代の情報技術に、同技術に精通した課題解決能力を持つ社会人が多くなると、新たなサービスは、社会の人々がつくり上げる(ウィキペディアのようなもの?)共同創造の社会が到来する、なんて予測が可能ですね。
 
 それでは、学校現場でのSTEAM教育についてみてみましょう。 
 文科省でSTEAM教育に関する提言がなされたのは2019年です。初等中等教育段階において、同教育について、「総合的な学習の時間」「総合的な探求の時間」「理数探求」などにおける問題発見、課題解決を内容とする学習活動の方針が示されました。
 一方、2017年に小学校4年生からプログラミング教育を導入した石川県加賀市では、中学2年生ではSTEAM教育として発展させています。自ら考えた課題を解決するために、例えばテクノロジーを使ったり、地元企業や地域の人へ協力してもらったりと自由な発想で課題解決に向けて取り組み、その成果を発信するといったように、実社会での課題解決を重視した授業を行っています。
 2023年から、同市では、小中一貫のSTEAM教育の体制構築を始めました。

加賀市HPより


加賀市HPより


 では、高校での動きはどうでしょうか。STEAM教育は「総合的な探求の時間」「理数探求」「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」などの教科で行われ始めています。情報Ⅰでは、プログラミングの実践に加え、基本的なネットワークやITリテラシー、ビッグデータの活用方法なども学びます。実際の内容は、さまざまで「スマート一輪車の開発」(旭川農業高)、カンボジアの社会問題の解決(徳島商業高)、「ハンドベルの演奏に映像を加える」(玉川中・高)など。こうした事例は、経済産業省のみらいの教室「STEAMライブラリー」で共有されています。
  内閣府の「Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ」では、小学生から理数関連の好奇心を養い、高校生からは本格的なSTEAM教育の学習を実施する流れが示されました(2022年6月)。同教育についてこれまでは、一部私立高や私立中高が先駆けて始めたという状況でしたが、県が予算を組み、県内高校で推進したりという動きも出てきました。

STEAM教育の当面の取組(文科省資料2022年5月)

 一方、先端的な理数教育を行う高校として、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)が文部科学省によって指定されています。SSHの指定を受けた学校では、科学技術系人材の育成のため、各学校で作成した計画に基づき、独自のカリキュラムによる授業や、大学・研究機関などとの連携、地域の特色を生かした課題研究など様々な取り組みを積極的に行っています。
埼玉県では、以下の6校が指定されています。


 学校教育にとぞまらず、社会教育にもSTEAM教育を拡げようとしている自治体が現れています。兵庫県加西市です。学校教育だけではなく、地域イベントや社会教育も実施。キャッチフレーズは、「加西市変えちゃうやつかもね。加西市は、本年4月STEAM教育のマスタープランを策定しました。変化しつづける時代、一生学び、自分らしく生きる未来を応援するという趣旨です。

加西市HPより

 自治体単位でのSTEAM教育は、加賀市、加西市のほか、徳島県松茂町、佐賀県有田町などでも推進されています。今は、黎明の時代かもしれませんが、そのうち、全国で広がるかもしれませんね。こうした教育を受けた世代やこれを支える大人たちに、次の時代を切り拓いていただきたい、と、エールを送ります。

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