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egword Universal 2

あのEGWordが復活した──と書きたいところだが、EGwordを使ったのは帆風という製版会社に勤務していた頃に、何度か製版フィルムを出力するために起動した程度だ。覚えていないが、きっと「ワープロ入稿なんて無謀なことをするものだ」と思ったはずだ。

1997年ごろ、Quark XPressかAdobe Illustratorで保存したPostScriptファイルでなければ、まともな製版フィルムなんて出せないというのが常識だった。毎日10件から20件ほど出力していたのだが、その中には必ず、Wordperfect や Microsoft Word などのワープロ、Lotus 1-2-3 や Excel のような表計算ソフト、IllustratorではないCorel DrawやCanvasなどのドローソフト、FileMakerやClarisWorksのデータベースなどが一つか二つ混ざっていて、ほとんどが出力できなかった。そういえばHyperCardからはうまく出力できたりもするのだが、ほとんどのソフトから書き出したPostScriptは印刷用の版下にならなかった。

EGWordもそんな出力不能ソフトの一つだった──はずだ。もしまともに出力できていればHyperCardのように記憶に残っただろう。EGWordという日本製のワープロがある、以上。それが僕の認識だった。EGBookという、Quark XPressのような割付ソフトがあったはずだが、これも記憶違いかもしれない。

存在を意識し始めたのは、自分自身もアプリケーション開発に携わるようになった2003年ごろからだ。NeXTに乗っ取られたAppleがIntel製CPUを搭載するようになり、IntelとPPC用の両方のバイナリを同梱したUniversal Applicationを開発するためのツールも提供し始めていた。レガシーのあるソフトウェアにとっては相当に面倒なことだったのだが、歴史あるEGWordの開発陣は果敢に挑んでいるようだった。それを見て、この人たちは信頼していいと思い始めたが、それでもEGWordを買うことはなかった。

会社員だった僕が製品を売るために書いていた文書は、必ずDTP用のツールか、CSSでレイアウトしなければならなかったからだ。ワープロなんて必要なかった。まさか小説を書くようになるなんて思ってもいなかった。

復活したegwordはとても気に入っている。

僕の使い方はとても偏っている。Scrivernerで書き出したプレーンテキストを開いて、縦書きのレイアウトグリッドで書いたり推敲したりして、File -> 書き出しで元のテキストに上書き保存する。egword形式で保存することはない。⌘+Sのショートカットも、書き出しに書き換えてあるほどだ(egwordはOS X標準のショートカット変更に対応している)。

OS Xの作法に則って作られたegwordは、ライブ変換を搭載したOS Xの標準日本語入力を使うのに最高のエディタだ。縦書きのレスポンスも最高にいい。WebKitの縦書きよりもTextEditの縦書きよりもずっと美しい組版を実現しているegword Universalの方が軽快に感じるのは驚きだ。

もちろん、全て満足しているわけじゃない。egword Universalは内部構造こそ最新のOS Xに適合しているけれど、10年前に作られたアプリケーションだ。今やdocで世界を汚染したWordですらHTMLを開けばHTMLで、RTFを開けばRTFで保存する時代だが、egwordの「保存」は独自形式しか許されない。.txtを開いたら「保存」は同じ形式の.txtになって欲しいよ。Autometerのワークフローは作りにくいし、ルビや傍点などのコントロールコードをアプリケーションのユーザインターフェイスで編集できなかったりするのも、仕方がないことだけど惜しい部分だ。

だけど、10年止まっていたことはegwordの伸びしろにもなる。テキストエディタやワープロの立ち位置も、デスクトップツールの価格帯も変わった。獲得できるユーザーの数も変わった。

物書堂はそんな時代にチャレンジしようとしている。頑張れ!


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作家/1971年生セルフ・パブリッシングの『Gene Mapper』を経て早川書房より『オービタル・クラウド』『Gene Mapper -full build-』を刊行。

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