『蕃書調所書籍目録寫』「建築類」に見える洋学書たち~幕末の洋式築城術の実態をわんつか知るための個人的メモ~

はじめに

相変わらず縄文に箱館戦争に戸切地陣屋にとバタバタしておりますが、そういえばnoteさっぱり使ってなかったなあと思い出し。

てなわけで最近、戸切地陣屋関係(まあこちらはかなり大きな進展があったので6月半ばの講座でそのあたりを話せればと思っていますが)で幕末の洋式築城に係る文献がどれだけ日本に入ってきたのかな?ってのを個人的にちまちまと調べていまして。

まあその中で国立国会図書館蔵の『蕃書調所書籍目録寫』より、「建築類」に所収されている『目録寫』の中ではカタカナ記述に起こされててどれがどれだかわかんねーよ!という文献たちについて、ある程度の特定が済みましたので折角なのでシェアしようかと思います。

国立国会図書館の原ページは↓こちら。

https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1086054

元々の記載が年号順でもなく著者順でもなく重複もありという状態ですので、そのあたりは少し整理しています。意訳についてもDeepLくんと辞書を首っ引きでなんとかニュアンスをつかまえた程度ですのでそのあたりはご勘弁下さい。では前置きはこれくらいで。

【凡例】

(著者ごとに項目立て)
『目録寫』内著者名 / 著者名スペル
・『目録寫』内文献名[目録内 出版西暦]
"原著名"
・『訳題』
・備考
 の順になります。
 ※同一著者で複数文献が所収されている場合はまとめてます。
 ※同じ文献が重複してる場合もまとめてます。基本原著所収順。

(1) N.Savart文献

 サハルト著 / Nicolas Savart(仏)

・一、フルステルキングスキュンスト [自千八三六 至千八三七]
"Beginselen der versterkingskunst"
 ※Frederik Petrus Gisius Nanning(蘭)訳、
  仏語原題 "Cours élémentaire de fortification"
・『訳題:築城術の原理』
・後に矢田部卿雲により『警備術原』として邦訳(1853)。

(2) J.G.W.Merkes文献

 メルケス※著 / Johannes Gerrit Willem Merkes(蘭)
 ※「メルキュス」の表記ブレあり

・一、ヘスチングホウキュンデ※[千八二五]
 ※「一、インレイディング トット デ ベウーフヱニング デル
  フェスティング ボウキュンデ」として別項あり
"Inleiding tot de beoefening der vesting-bouwkunde"
・『訳題:要塞建築実践入門』

・一、フルステルキングスキュンデ[千八三四]
"Bijdrage tot de kennis der versterkings-kunst"
 ※発行年は一致
・『訳題:築堡技術の理解のために』

・一、アルゲメーン オーフル シグト ベテレッケレーキ ヘット ボウウヱン ファン ゲレーディング スミューレン[千八四二]
"Algemeen overzigt van verschillende, zoo oude als nieuwe, praktijken, betrekkelijk het bouwen van bekleedingsmuren"
・『訳題:擁壁実例新旧総覧』

(3) Kerkwijk文献

 ケルキウェーキ / G.A. van Kerkwijk(蘭)

・一、ハンドレーヂング トット デ フルステルキュンスト [千八四三]
・"Handleiding tot de versterkingskunst, voor de kadetten van alle wapenen"
・『訳題:下士官向け築城術教本』

一、ケンニス ファン デン ヘスチングホウ [千八四八]
"Handleiding tot de kennis van den vestingbouw, voor de kadetten der genie en artillerie"
・『訳題:工兵隊・砲兵隊士官候補生のための城塞教本』

(4) Asperen文献

 ハンアスベレン / C.J. van Asperen(蘭)
 
※本文と関係ないけど、この手の「どこまで名前に含めていいんだべ か…」的迷いのある表記ってちょっと萌えるよね。

・一、コンストリクチイ ハン ミリタイレ ウァクトホイセン[千八二五]
"Bekroonde prijsverhandeling, betreffende de constructie van militaire wachthuizen"
・『訳題:衛堡建設の定法に係る問答集』

(5) Stieltjes文献

 スチイルチイス※著 / G.J. Stieltjes(蘭)
 ※「スチールレイス」の表記ブレあり

・一、フレシキルレンデ ソールテン ハン バッテレイェン [千八三三]
"Handleiding tot de kennis der verschillende soorten van batterijen"
・『訳題:砲台築造教本』
 
・一、ハンドレーヂング トット デ ケンニス デル フルレキルレンデ ソールテン ハン ハッテレーン [千八三二]
"Handleiding tot de kennis der verschillende soorten van batterijen"
・『訳題:砲台の多様化のための教本』

・一、ハンドレイディング トット ベウーフェニング デル ボニトンニールス ウェーテン スカッペン[千八四二]
"Proeve eener handleiding tot beoefening der pontonnierswetenschap, voor officieren van alle wapenen"
・『訳題:全将校向けポンツーン(浮桟橋)運用教本』

(6) Pel文献

カムハヘル※著 / C. M. H. Pel(蘭) 
※「ペル」表記のブレあり。このイニシャルを強引に読んじゃうあたり好き。「吉母波百児」とか最高にイカれててイカすよね。

・一、ハンドレイディング トット デ フルステルキングスキュンデ[千八五二]
※「一、ハンドレイディング トット フルステルキングスキュンデ」の表記ブレあり。さてどこが違うか探してみよう
"Handleiding tot de kennis der versterkings-kunst"
・『訳題:(下士官向け)築堡術教本』。みなさまおなじみ大鳥圭介『築城典刑』(1864)のタネ本。いつの間にか日本にある稜堡式築城全部のネタ本みたいな扱いになってるけどタイトル通り下士官向けマニュアルなんで五稜郭はこれだけじゃあ作れないぞ。

(7) H. A. S. Obreen文献

ファンデルスヘッキ著 / Hendrik Adriaan van der Speck Obreen(蘭)
※よりによってそこ(van der Speck)使うのかよ!となって特定に手間取りました。このやろう。

・一、アーンレイデイング トット デ ケンニス ファン ヘット ベストウェンデ ゲラールテ デル シケーブ スボウキュンデ[千八四(空白)]
・" Aanleiding tot de kennis van het beschouwende gedeelte der scheepsbouwkunde" (1840年刊)
・『訳題:海軍運用に係る思索的見地の紹介』

(8) D. J. S. Buysing文献

ストルムホイジング著 / Duco Johannes Storm Buysing(蘭)

・一、ワーテルボウキュンデ [千八四四]
"Handleiding tot de kennis der waterbouwkunde"
 
※これも本文とは関係ないんですけれど、全文頑張ってカナ起こししてる 文献とこれみたいに一語だけ抜き出してる文献の気合の入れ方の差はなんなんでしょうね。「ムラッ気」でもついてるんですかね。
・『訳題:水力工学の手引き』

(9) Engelberts文献

エンゲルベルツ著 / J. M. Engelberts
※『目録寫』ではカタカナなんですが、彼の当て字袁厄爾白而都なんですよ。なかなか武者頑駄無みある(個人的感想)。

一、ブルーヘエー子ル フルハンデリング オーフルデ キュストフルテヂーギング [千八三九]
"Proeve eener verhandeling over de kustverdediging"
・『訳題:沿岸防衛論』。後に西村茂樹が『防海要論』として邦訳(1864)。幕末期の海防関係ではおなじみの文献ですね。

・このほか明確な著者名はないものの、
「一、エンゲルベルツ ハンドブック[千八三八]」が2件所収。
おそらくはFedor Eugen von Hackewitzとの共著である"Handboek der bevestigingskunst"かと思われます。訳題としては『要塞強化術ハンドブック』あたりになりますかね。

(10) その他著者不詳あるいは欠の文献

エフセヱルフールス」著
・一、ケレイグスキュンディゲレールキュルシュス [千八三九]
・"Krijgskundige leercursus(下士官向けの…)"
オランダ王立陸軍士官学校から発行されていた下士官向け教本シリーズの共通タイトルで、そのうちのいずれかではあると思われますが著者および内容については不明です。
・同時期にそれらの教本に寄稿している者としてはKerkwijk, F. van der Poll, J. J. van Mulken, F. C. R. Boersらの名が確認できますが、可能性としては「イニシャル強引読み」が発動したとしてF. C. R. Boersが高いかな、といったところです。

・著者欠
・一、ボウキュンヂヘ ハンドブック[千八四二]
Willem Christiaan Brade著、" Theoretisch en practisch bouwkundig handboek"かと推定されます。発刊年号は一致。
・『訳題:築堡実践マニュアル』

・著者欠
一、ボウキュンディゲ ベイダラーゲン [年号欠、および自千八四三・至千八四四]
・「Maatschappij tot Bevordering der Bouwkunst」発刊の"Bouwkundige bijdragen"と推定されます。
・発刊者を直訳すると「建築振興協会」。訳題は『建設に係る予算について』。あ、これひょっとして世知辛い中味のやつなのでは

・著者不明
・一、ベスコウウィンゲン オーフル ヘット アウェストディセ デルボウキュンスト[千八五三]
・"Beschouwingen over het aesthetische der bouwkunst"
・『訳題:建築の美学についての回顧』
・書名、発刊年ともに一致しましたが、著者は判然としませんでした。

和書名(おそらくはこれもなんらかの洋書を訳したものかと思われます)もありましたが、原著が判然としないため省きました。とりあえずカタカナ表記されていたものについてはその身元が明らかにできたと思います。

今回調べた範囲のものはほとんどがデジタルアーカイブとして公開されていましたので、中身が気になる方は是非探してみてください。まあそういう時も、原著名が分かれば色々と調べやすくなるかなあ、と。そんな感じでまとめてみました。ご活用いただければ幸いです。

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