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コーヒーマンボ

コーヒーの味を知ったのっていつだっけ?
開高健か遠藤周作が枯葉散るログハウスで深まる秋に暖炉前でダバダ〜だっただろうか、昔アラブの偉いお坊さんが恋を忘れてきた哀れなドジっ娘の私に一杯差し出したわけでもなく、まともにドリップしたコーヒーで初めて美味しいと感じたのはヒルトンホテルのデザートブッフェで出されたコーヒーでした。

その後だったかその前だったか、高校時代の友人の一人が近くのコーヒー焙煎場兼喫茶店を訪れて余りの別世界に惚れたという話だったか。そのお店は極近所なのでその都度気になってはいたものの入ったことは無かったのです。

それから早20年近い歳月が流れオトメと入籍した頃だった。出会った頃のオトメはコーヒーが飲めず喫茶店もほぼ入らない。スタバやタリーズやドトールなど以ての外。
全てが紅茶ホテルのフロントマンの経験もあるオトメの飲み方は英国紳士然としていたが、その時の服装が一歩間違えばちょっとオネエな飲み方をしていたかもしれない。

しかし外見とは不思議なもので、コーヒーを頼む私と紅茶を頼むオトメなのにオーダーを受けて同じ店員にもかかわらずテーブルに配膳される頃にはオーダーがよく逆転していた。
もう手慣れたもので黙って笑顔で店員の可愛い系女子を見送ったあとは連携プレーでコーヒーと紅茶の器は時計回りに手渡しされた。

ある日、まだ娘が生まれる前の二人きりの頃にとある用事でホテルまで来ていた。
その初めて訪れたホテルのラウンジで用事も済ませたので一旦休憩することになった。
ラウンジでいつも通り紅茶とコーヒーを注文し、暫く待ってきっと高い年代物の器でやってきた琥珀色のそれはドリップしている頃からあの独特の心とろけるような香りが観葉植物の植え込みを挟んだ調理のカウンターから香りの帯でもあったら間違いなくあのカウンターだよね、って具合で漂ってきた。

もう紅茶も素晴らしい筈なのにコーヒーの香りに負けたオトメが
『ちょっと試しに飲ませて』と珍しく自ら言ってきた。
いつもならコーヒーを一口含んだだけで気持ちが悪くなるオトメ。すぐに口直しようの水の入ったグラス(グラスまでバカラ使ってたんだぜ〜)を側に置き顔色を伺った。

オトメの眉間からシワが伸びなんというか悟りを開いたかのような額の開き具合に目はキラキラとして、すわ、マーライオン化手前か?!と構えてハンカチを渡そうとしたら

『飲めるよ…へなちょこ…』という言葉のあとに私の頼んだホテルオリジナルブレンドのコーヒーを一気飲みした。
あーオトメさん、オトメさん、あなたの言葉が一瞬ファーストガンダム最終話のアムロのセリフとかぶったわ。

それからのオトメのコーヒーに注ぐ快進撃が無双だった。入籍時に夢の産物と諦めていた某メーカーの卓上のコーヒーメーカーがトースターの横に鎮座して毎朝自分でコーヒーをセットするようになったこの世界の変わりようが何よりもオトメ自身が驚いたことだと思う。
最初に記述したコーヒー焙煎場兼喫茶店のお店にも20年以上経ってようやく行けた。
コーヒー飲みにたまの贅沢に利用してます。今ではスタバもタリーズもドトールも解禁ですよ、ヒャッホー♪

#コーヒー

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