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【エッセイ】そうして私は、ホットペッパービューティーを開いた。

美容院で、髪を切ってもらうのが好きだ。

耳元で小気味よいリズムを奏でながら動くハサミ。シャンプーの時にゆっくりとされるマッサージ。徐々に頭が軽くなっていくあの感覚。すべてが、本当に気持ちいい。太陽のような美容師さんに照らされて、暗い私の内情を根掘り葉掘り聞かれるイベントは正直苦手だが、総合して「やっぱりお金を払った甲斐があったな」と思うくらいには髪を切られることが好きだ。

「髪の毛に血が通ってなくて良かった。もし通っていたら女は失恋で失血死している」
…なんて言ってたのは、誰だったか。たしか人気の女性アーティストだった気がする。
失恋で髪を切る、というのはベタな行動で、女性が髪を切った時に「失恋?笑」と冗談交じりに周囲が話しかけたりするのはよくあることだ。実際に失恋で髪を切る人が本当にいるのかは定かではないが。私の知る限り、そんな人はいない。今のところ。

でも、気持ちはよくわかる。髪を切るって、それだけで気分転換になるのだ。
私は生まれてからずっとショートヘアで、短い髪に抵抗がない。というのもあって、割と暇つぶし感覚で髪を切ってしまう。だから、予約はいつも突発的だ。基本、前日の夜か当日の朝に、高円寺の行きつけのショートカットが上手いヘアサロンをweb予約をしている。
こう、気分がもやっとして、なんとなく自分を100%好きになれないな、っていうときは傷んだ髪のせいにして、それを切ることでもやもやと別れたつもりでいるのだ。

ヘアカットは別れだけじゃない。新しい自分との出会いもある。「いつもと同じで」とオーダーしてもほんのちょっとニュアンスは変わって仕上がる。これが本当にいいことなのかはわからないが(本当に上手い美容師は完璧に「いつもと同じ」にしているのかもしれないが)、私はこの変化をとても気に入っている。
たまに、大きな変化を自ら取り入れることもある。
髪を染めてみちゃったり、パーマをかけてみちゃったりして。
できあがった姿を鏡で見て、喜んだり、イメージとのギャップに落胆したりして。落胆を、美容師さんに悟られまいとひきつった笑顔で退店したりして。

店を出る時に、よく「これからどこか行かれるんですか~?」と美容師さんに聞かれるけれど、高確率でどこにも行かない。だって暇つぶしに髪切りに来てるんだもん。暇なんだもん。
でも、せっかく綺麗にセットしてもらった髪を誰にも見られず家帰って風呂で崩しますよなんて言えるわけもなくて、「ええまあ、このあとちょっと…笑」とか何とか言って、あてもなくぶらぶら街歩きしたあと、結局ひとりでラーメン食べて帰る。

ネイルの色を変えるよりもちょっとだけ変化へのドキドキが大きいヘアカット。
帰り道は、通りすがりのショーウィンドウに映る自分を執拗に見てしまう。

…そろそろ髪を切りたいな。


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