現代の性的同意におけるナビゲーション: オーストラリアの若い異性愛男性の経験と課題

この研究は、オーストラリアの若い異性愛男性が性的同意をどのように理解し、ナビゲートしているかを調査しました。
18歳から35歳の男性30名を対象に半構造化インタビューを実施し、解釈的現象学的分析を用いてデータを分析しました。

主な発見として、参加者は性的関心のシグナルを認識できるものの、その解釈に不確実性を感じていることがわかりました。
多くの男性が、#MeToo運動の影響を受けて、性的な出会いにおける自身の行動をより慎重に考えるようになっていました。

また、言葉による同意の確認を試みる一方で、それが時として相手に否定的に受け取られる場合があることも明らかになりました。
参加者は、安全で同意に基づいた関係を確保することと、性的な自発性や情熱を維持することの間でバランスを取ることに苦心していました。

この研究結果は、現在の同意教育が実際の性的相互作用の複雑さに十分対応できていない可能性を示唆しています。
今後の性教育では、同意の認識だけでなく、性的な状況における曖昧さや不確実性をナビゲートするスキルの開発にも焦点を当てる必要があることが示唆されます。

Waling, A. (2024). “Take It Easy, I’ll Tell You if There’s Something Wrong”: Young Cisgender Heterosexual Men and Sexual Communication During Casual Sex in Australia. Sexuality Research and Social Policy, 1-17.

はじめに

#MeToo運動と性的同意の議論への影響

2017年に注目を集めた世界的な#MeToo運動は、オーストラリアにおけるセクハラと暴力の問題に大きな注目を集めました。
この動きは、主に男性によって行われる合意のない性行動の蔓延と有害な結果を浮き彫りにしました。
その結果、肯定的で熱心な性的同意に関する重要な会話が巻き起こり、特に異性間の性的行動に対する社会的な意識変革の必要性が強調されました。

オーストラリアの学校における同意教育

性的同意の問題や、少年や男性からの暴力に直面している少女や女性の継続的な経験を受けて、オーストラリアでは2022年4月から、初等・中等教育カリキュラムにおいて同意教育の義務化が実施されました。
この決定は、人生の早い段階でこれらの問題に取り組み、尊重と理解の文化を育むというコミットメントを反映したものです。
この教育イニシアチブは、男女間の健全かつ公平な関係の促進を優先する様々な国家戦略や枠組みに沿ったものです。

法改正とアファーマティブ・コンセント

アファーマティブ・コンセント（肯定的同意）の概念は、近年、オーストラリアにおける州法や法律の改正につながり、支持を集めています。
たとえば、ビクトリア州では2021年3月に性的犯罪およびその他の事項に関する法律（Sexual Offences and Other Matters Act）として知られる新しい同意法が導入されました。
この改革により、性暴力の法的定義が「ノー」の不在から、明確かつ熱心な「イエス」の同意の要件に移行します。
その目的は、性暴力への対応を改善し、被害者／遺族への支援を充実させ、熱心で肯定的な同意の文化を促進することです。

若い男性が直面する同意を理解する上での課題

調査によると、若い男性は性的同意を理解するのに苦労する可能性があります。
彼らが直面する課題には、以下のようなものがあります：

1. 同意について話し合うことへの不快感

2. コミュニケーションスキルの欠如

3. 男らしさや異性愛に関する社会的期待に従わなければならないというプレッシャー

性的コミュニケーション、性的同意、女性の性的権利をめぐる社会的期待が進化し続ける中、若い男性がどのように性的関係に関与し、こうした規範の変化を乗り越えていくかを検証することは極めて重要です。

同意をナビゲートする: 現代の性的コミュニケーションにおける課題と論争

性的同意の理解： 研究と課題

性的同意とコミュニケーションに関する研究は、社会科学、法学、犯罪学、公衆衛生学、心理学など様々な分野に及びます。
研究では、性的同意に関する若者の理解を、関係スタイル、コミュニケーション、同意に関する情報源に焦点を当てて調査しています。
若い男性の性的同意に対する理解不足の要因としては、ポルノグラフィーのようなメディアの影響や、正式な性教育が不十分であることなどが挙げられます。
調査によると、男女ともに、特にカジュアルな出会いにおいては、非言語的な形の同意に依存する傾向があるとのことです。

ジェンダーのダイナミクスが性的同意に与える影響

ジェンダーとそれに関連する力関係は、特に異性間の性的コミュニケーションと性的同意において重要な役割を果たします。
伝統的な概念では、女性は性的な門番であり、男性は性的な自己主張が強いと位置づけられることが多く、性的同意の認識に影響を与えます。
このようなダイナミクスは、女性の拒否は本来性を欠くかもしれないとか、抵抗に打ち勝つ責任は男性にあるというような、問題のある思い込みにつながる可能性があります。
これらのジェンダー化された期待は、男女双方にとって、欲求を表現し、同意を導く上での課題を生み出します。

言語的同意と非言語的同意に関する議論

性的同意がどの程度口頭で表現される必要があるのかについて、学術的な議論がなされています。
多くの人は、性的同意に関する現在の理解はあまりにも二元的で、性的コミュニケーションにおけるニュアンスや曖昧さを許容していないと主張しています。
批評家たちは、性的同意を単純な「はい」か「いいえ」かのモデルに縮小することは、性的動機や経験の複雑さを捉えることに失敗すると指摘します。
研究者の中には、単なるダメージコントロールにとどまらず、性的コミュニケーションの豊かさを考慮した、より包括的なアプローチを提唱する人もいます。

肯定的で熱狂的な同意の概念

このような課題に対して、肯定的同意（affirmative consent）や熱狂的同意（enthusiastic consent）といった概念が支持を集めています。
肯定的同意は性行為への積極的な意思確認を必要とし、熱狂的同意は同意だけでなく強い熱意を重視します。
しかし、これらのアプローチは批判に直面しています。
男女の二元論を固定化し、自信に満ちた性的自己を演じることを女性に過度な負担を強いるという意見もあります。
批評家たちはまた、これらのモデルが両価性や欲望を表現することの難しさを説明しない可能性があり、ある種の性的経験を許されないものにする可能性があることにも言及しています。

性的主体性の枠組みに向けて

現在の性的同意モデルの限界を考慮し、性的主体性の枠組みを提唱する研究者もいます。
このアプローチは、性的な意思決定を、様々な選択肢、願望、考慮事項をナビゲートすることを含む、複雑で文脈依存的なプロセスとして捉えます。
人が性的な場面で意思決定する能力は、学習された行動や社会構造に影響されることを認めます。
この枠組みは、性的コミュニケーションと性的同意について、よりニュアンスのある理解を提供することを目的としており、単純化されたモデルを超えて、現実世界の性的相互作用の複雑さに対処することを目的としています。

方法

方法論の概要

本研究は、オーストラリア研究評議会（Australian Research Council）のディスカバリー若手研究者賞（Australian Research Council Discovery Early Career Researcher Award）の助成を受けた、オーストラリアにおけるデート、セックス、親密さを調査する大規模プロジェクトの一環。
研究の目的は、性的同意と#MeTooに関する現代の言説を記録し、オーストラリアの若い異性愛者の男性がこれらの言説をどのように解釈しているのかを探り、彼らの人間関係と性的親密さのナビゲーションを調査し、性的暴力の防止における社会運動の有効性に関する知識を深めることです。
この研究は、主体性に関するポスト構造的理解を採用し、欲望、身体化、快楽、主体性に注意深く注意を払いながら、性的暴力やジェンダー化された暴力に関する研究を否定しないことを目指しています。

研究デザイン

本研究は、解釈的現象学的分析（IPA）技法と感情的反射性を用いた半構造化インタビューを組み合わせた質的アプローチを利用。
この方法は、若い男性が性的コミュニケーションと性的同意をどのように理解し、体験しているかを探るために選択され、彼らの身体的、言語的実践と感覚的プロセスに焦点を当てています。
IPAは、特定の文脈の中での生きた経験に焦点を当てるために選択され、感情的反射性は、男性の認知プロセスを振り返る能力を調べるために採用されました。

参加者の募集と選定

2021年5月から9月にかけて、オーストラリア全土に住む18歳から35歳の若い男性30名を対象に半構造化インタビューを実施。
参加者はFacebook広告で募集し、参加資格調査に誘導。
参加資格は、シスジェンダーの異性愛者で、過去5年以内にカジュアルなデートやセックスをしたことがある男性。
214人の対象者のうち、41人が登録を完了し、30人がインタビューを選択。

データ収集プロセス

インタビューは、COVID-19のロックダウンのため、またオーストラリア全土からの参加を可能にするため、Zoomを介して実施。
参加者は、ビデオ、音声のみ、インスタントメッセージによるインタビューのいずれかを選択。
インタビューに先立ち、参加者は情報提供書と署名入りの同意書を受け取りました。
各インタビューの開始時に、参加者はプロジェクトと性暴力の開示に関する報告要件についての説明を読みました。
必要であれば、参加者がサービスにアクセスできるようサポートするために、インタビュー後に報告プロトコルが使用されました。
参加者には50ドルのギフト券が贈られました。

倫理的配慮

本研究は、ラ・トローブ大学Human Research Ethics（HEC2010）の承認を受けました。
参加者には、メンバーチェックを通じて、分析前に自分の記録を確認する機会が与えられ、7人の参加者がこのプロセスに参加しました。
未成年者を含む性的暴力の潜在的な開示に対処するための義務的報告声明が含まれました。

データ分析

分析は、各インタビューの後にリサーチ・ダイアリーを作成することから始め、IPAの技法に従いました。
演繹的コード化と帰納的コード化の両方を用いてコードブックを作成。
トップレベルのコードには、デート体験、性的親密さ、性的同意、性的健康、性教育、#MeTooがデート／セックスに与える影響などが含まれました。
最初のコーディングにはNVivoソフトウェアを使用し、その後、新たなテーマやパターンを探るために手作業によるコーディングを行いました。
分析の焦点は、若い男性が性的な出会いの中でセックスと親密さをどのようにナビゲートしているかを理解することであり、彼らの経験と理解における矛盾と緊張に特に注意を払いました。

結果

関心の解釈と出会いのきっかけ

参加者は、女性の潜在的な性的関心を測るために使う、さまざまな微妙な言語的・非言語的合図について説明しました。
アイコンタクト、表情、声のトーンの変化などです。
しかし、これらのシグナルを認識しているにもかかわらず、多くの男性は、不確実性や誤解を恐れ、出会いのきっかけを作ることに消極的であることを表明しました。
たとえば、デクラン（28歳）は、関心があると感じていたにもかかわらず、自分から行動を起こすのをためらった状況について述べており、伝統的な性別による期待とパワー・ダイナミクスの意識との間の緊張を浮き彫りにしています。

手がかりを読む能力への疑念