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木の形

僕らが皮をむいて裸にした曲がった木たちを、AR建築の専門家の住友さんが吊るして3Dスキャンしてデータにしてくれた。
ハンディ型の3Dスキャナを手に持って木との一定の距離とスピードを保ちながら、時間をかけて少しずつ、舐めるように、でこぼこした曲がり木の有機的な形をなぞる。住友さんが舐めとった木の形がデータになってケーブルを通ってPCにおさまっていく。僕らが何度も見て写真も撮って、触って運んで皮までむいてよく知っていたはずの木の、本当の形を知る。木全体の三次元のねじれ具合や、木肌の細かい襞などを、PCのディスプレイ越しに再認識する。

「木は二度生きる」という言葉がある。一度目は森に生えている時。枝を伸ばし、葉をつけ、幹が太くなって大きな木へと成長しやがて朽ちて倒れる。二度目の命は、伐採し木材として利用される時。木材として生きる。
ただし、一度目の命の時にどのような形をしていても、その形はほとんど活かされず、二度目の命を使ってもらうために、真っ直ぐ平らに加工される。
曲がり木の3Dスキャンは、一度目の命の形を二度目の命に継いでいく試みだ。

「一定の距離とスピードを保ちながら」3Dスキャンするのは思った以上に大変だ。吊るした丸太の下に潜り込んで3Dスキャンする時は、中腰のまま、上を見上げたまま、腕をあげたまま、少しずつ動く。体幹が鍛えられる。
マガジンハウスの健康&運動情報誌『 Tarzan』によると、「体幹トレと筋トレを同時にやると、想像以上に効率的」らしい。木の皮をむくのは筋トレで、3Dスキャンは体幹トレになるので、丸太の皮むきと3Dスキャンの一連の作業をジムに通っている人にお金をもらってやってもらったらいいのではないかと思う。そのくらい大変な作業。

「木を見て森を見ず」どころか、僕らは木さえ見えていない。群盲象を評す如く、一部を見てわかったつもりになっている。木だけではなく、例えば、身近なよく知ってるつもりの恋人や夫婦でも。互いの体や心を3Dスキャンできるなら、これまでその人が生きてきた形を活かすことができるかもしれない。一定の距離とスピードを保ちながら根気よく丁寧にやる必要がある、大変な作業だけれど。

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