記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。

新クトゥルフ神話TRPG【悪霊の家】新米KPメモ

先日はじめて「新クトゥルフ神話TRPG」(CoC)をキーパーとして遊ばせていただいた際の記録と反省点を、後日の参考のためにまとめてみます。

※本記事はクトゥルフ神話TRPG『悪霊の家』のネタバレを含みます。ご注意ください!


1, はじめに

 『悪霊の家』は、長年CoC入門として愛されてきたシナリオです。
 街での聞きこみ、文献の調査、そして幽霊屋敷でのアクションと、クラシカルなCoCをたっぷりと楽しめます。

 このシナリオを遊ぶにあたり、今回はルールブックの第10章「ゲームをプレイする」を参考に準備することにしました。

 この章には、キーパー向けのアドバイスが沢山あげられています。これを自分なりに噛み砕くと、事前準備には以下の4点が必要なようでした。

○シナリオの読みこみ
○時代背景の下調べ
○プレイヤー資料・NPCの用意
○ルールの把握


2, シナリオの読みこみ

 シナリオの読み方について、ルールブックの「出版されたシナリオを使う方法」(P.217)では3つのステップに分けて解説がされています。

 まず、全体をざっと見て概要をつかむ。次に、文章を最初から最後まで徹底的に通読する。3回目は、メモを取りながら読む。
 実際にこの読み方をやってみると、シナリオが細部まで把握できたように思いました。

 しかしここで一つ問題にぶつかりました。このシナリオは、かなり余白が大きいのです。

 悪霊ウォルター・コービットはなぜ屋敷に執着するのか?
 「黙想チャペル」の陰謀とは?
 結局、この事件の裏にはどんな宇宙的恐怖が潜んでいたのか?

 こういった疑問に対する答えはシナリオでは明示されていませんし、本篇にも関わってきません。とくに「黙想チャペル」については、キーパーが続きを考え出してね! と、シナリオ末尾にも書いてあります。

 ある意味で『悪霊の家』は、初心者を引きずりこんで連続キャンペーンを遊ぶための「第一話」として設計されているとも言えます。

 ですが今回は単発セッションで、プレイヤーさんの中には初心者の方もいらっしゃいます。   
 せっかくならこの一話でがっつりと宇宙的恐怖に挑んで、達成感を味わっていただきたい……!

 そうこう悩んだ末、今回は少しだけ独自設定を付け加え、セッション前にプレイヤーさん達に許しを請うことにしました。

 元のシナリオは改変せず、なるべく不自然にならない形で……となるとやはり、

・黙想チャペルがとある邪神の復活を企んでいて、
・コービットが倒されると、裏ボスとしてその邪神がちらっと出てくる

というのが楽しそうです。

 それでは、どの神格においで願うか。
 シナリオによると、黙想チャペルは「闇の中で待つもの」という神格を信仰しているように思えますが、その正体は不明です。
 私としては、その邪神が宇宙的恐怖を感じさせつつ、探索者の工夫次第で容易に退散いただけるなら、シナリオの締めとして文句なし……となれば候補は絞られます。

 こうした次第で、今回はシナリオに以下のような設定を追加することにしました。


2-2, シナリオ追加設定

【概要】
コービットは「輝くトラペゾヘドロン」を保管しており、地下室で「闇をさまようもの」の復活を待っている。
「闇をさまようもの」は、光によってのみ退けることができる。

【背景】
「黙想チャペル」はカルト教団「星の知恵派」の分派であり、邪神の復活を狙っている。

1865年前後、星辰の位置が教団に不利になったため、彼らはアーティファクト「輝くトラペゾヘドロン」を隠すことにする。
そこで目をつけたのが、在野の魔術師ウォルター・コービットだった。

コービットは不死の研究を行っており、より優れた魔導書を求めていた。

教団のマイケル・トーマス師は彼に取引を持ちかけ、魔術的知識と引き換えに、地下室でトラペゾヘドロンの守り手となるように依頼した。
これを承諾したコービットは、アンデッドとなって日のささない地下に籠り、星辰が正される時まで宝玉を守り続けることになった。

【シナリオへの追加要素】
○家主の状況 (導入)
 ノット氏は、自分では覚えていないものの、一度、屋敷の様子を見に行っている。そしてその際にコービットの《支配》の呪文を受けた。
 その後すぐ屋敷から逃げ出したお陰でまだ完全には支配されていないものの、呪文は彼の心を蝕みつつある。

 そのため、例えば探索者が屋敷を取り壊すように説得を試みても、彼はとりあわない。
 もしも探索者が屋敷の調査に時間をかけすぎれば、彼はやがて完全なるコービットの傀儡になるだろう。

○マカリオ氏の聖書(場面7)
 ヴィットリオ・マカリオ氏はすがるように「ヨハネの福音書」第1章の冒頭を読んでいる。ここには「闇は光に勝たなかった」という記述がある。

○コービットの日記(屋敷1階:部屋1)

 研究記録の末尾に、万聖節にトーマス師の訪問を受けた旨が記されている。暗い部屋で宝玉(輝くトラペゾヘドロン)を覗いたところ、真の知識を授かったという。ここで日記は途切れている。
 コービットは「闇をさまようもの」とコンタクトしたことにより神話知識を獲得し、それ以前の素朴な研究記録は無用のものとなった。そのため、日記はこのような場所に捨て置かれたのだ。

○トーマス師の手紙(屋敷2階:部屋3)

「黙想チャペル」のトーマス師が、コービットに「教会の心臓」の保管を依頼した手紙。万聖節に持参するため、くれぐれも部屋を暗くしておくように、といったことが書かれている。

○輝くトラペゾヘドロン(地階:部屋4)
コービットの首にかかった鎖に繋がっている。詳細はルルブP.263参照。


○闇をさまようもの
コービットが倒れると、宝玉から煙のようなものが吹き出し、地下室の壁を越えて無限に翼を広げていく。その中心に、三つに分かれた燃える眼が見える。正気度ロール1D6/1D20。

この怪物は時ならぬ目覚めに対処するため、拠点であるプロヴィデンスへ飛び去ろうとする。そしてこの際、ついでに探索者たちを殺そうとする。探索者たちが断固たる抵抗を示さなければ、触手での巻き込み(100%)に襲われることになる。

この怪物には物理的な攻撃が一切通用しないが、光には弱い。そのため今回は、次の2通りの方法で退散させることが可能とする。

①怪物に光を照射し、累計5ポイント以上のダメージを与える。

相手が巨大であるため、技能ロールは不要。
ロウソクや銃火器のマズルフラッシュは1ポイント、懐中電灯などは1D6ポイント。

狂気に陥っている探索者も、〈幸運〉に成功すればこの「攻撃」に参加できる。

②輝くトラペゾヘドロンに光を照射する。

宝玉は、怪物の目のあたりに浮かんでいる。これを狙って光を当てるには、DEXなど適切な能力or技能での成功を求める。

①, ②いずれかに成功すれば、怪物は探索者に興味を失い、宝玉を持って飛び去ってしまう。そして加護を失ったコービットの亡骸は塵となる。
報酬の正気度回復に追加で+1D6。

退散に失敗した場合、怪物はボストンの街を蹂躙した後、プロヴィデンスへと飛び去ってゆく。

神格の詳細は『新マレウス・モンストロルム2』P.184を参照。

……追加設定を作ってみたら、思ったより多くなってしまった!
 
 とはいえニャルラトテップの化身がクライマックスに登場したら楽しそうなので、今回はこの設定で遊ばせてもらうことにしました。


3, 時代背景の下調べ

 さて、お次は時代背景についてです。私も探索者にならい、インターネットと図書館で調べてみました。

 今回の舞台は1920年のボストン。   
 2年前に第一次世界大戦が終結、年始には禁酒法が施行されて、いよいよ「狂騒の20年代」が始まろうとしていたころです。
 シナリオ中でも、コービット屋敷の周りに新しいオフィスビルが立ち並んでいるという描写があるので、街は好況に湧いていたと言えるでしょう。

 また貨幣価値については、当時の1ドル≒今の2000円、とすることにしました。
 ルルブと『クトゥルフ2020』の〈信用〉支出額を比べてみると、ゲームとしてはこのくらいの感覚がよさそうです。
 このレートなら、家主のノット氏が探索者に支払う前金25ドルは約50,000円。けっこう気前が良いですね。

 ちなみにボストン・レッドソックスのヒーロー、ベーブ・ルース選手は、前年末にヤンキースへ移籍してしまっていたそうです。ちょっと残念。


4, プレイヤー資料・NPCの用意

 ある程度シナリオの雰囲気が見えてきたところで、プレイヤー資料とNPCの用意をすることにしました。

 そこでまず、ボストンの地図を用意することにしました。
 以前、自分がプレイヤーとして「悪霊の家」を遊ばせていただいた際、キーパーの方が街の地図を用意してくださっていました。そしてその上に、図書館など関連施設の写真を置いておくのです。

 この方法は初心者の私としても、街の中のどこが重要ポイントなのかを示しやすい上、物語の舞台に入り込める感じがして、絶対にマネをしたいやり方でした。
 そこで観光ガイドを購入して地図をコピーし、プレイヤー資料もシナリオからコピーして切り抜きました。

 また背景写真とNPCについては、おばけの神秘堂さまのデータセット「【ココフォリア素材】悪霊の家KPセット【フリー素材】」をお借りしました。

https://booth.pm/ja/items/4530413

 こちらの素適な画像のおかげで、NPCの人となりのイメージも広がり、とてもロールプレイしやすかったです。
 この場を借りてお礼申し上げます……!


5, ルールの把握

 さて残すはキーパーの大事な仕事、ルールの把握です。

 CoCはプレイヤーとして何度も遊ばせていただき、ルールにも慣れているつもりでしたが、いざキーパーをするためにルルブを読み返すと、よく分かっていなかったことが多くて驚きました。

 これを踏まえて初心者プレイヤーの方のため簡単なルールサマリも作り、いよいよ本番です。


6, セッション当日

 今回のセッションは、いつもお世話になっている、神田のテーブルトークカフェDaydream様にて開催しました。

 セッションには4人のプレイヤーさん――初心者の方がお2人、経験者の方がお二人――がご参加くださいました。

 実際に定刻になって皆様のお顔を見ますと、準備は十分にしてきたつもりでもやはり緊張してしまい、ルール説明がややバタついてしまいましたが、経験者の方々のフォローのお陰で無事にセッションを開始できました。

 家主の依頼を受けて、いざ探索が始まると、予想以上に皆様が積極的に、どんどん面白いアイディアを出してくださるので、キーパーとしては緊張する間もなくなり、楽しく進行できるようになりました。

 医師が見張りの気を引いている間にマッチョ軍人が家探しをしたり、
 ヤバめの刑事がパトカーで子供たちを懐柔して話を聞き出したり、
 公文書館での探索が捗らないことに業を煮やした英国紳士が、図書館から司書をスカウトしてきて手伝わせようとしたり。

 プレイヤーの皆様が、探索の方法に頭をひねり、資料をもとに推理を交わしているところを見ていると、キーパーの楽しさがしみじみと感じられました。

 さてそうして情報をそろえて屋敷に入った一行は、満を持して地下室に踏みこみます。ここまでは大体シナリオ通りに進行できました。
 なぜか刑事は片手に手錠をブラブラさせているし、軍人は松明を掲げて突入してきましたがたぶん問題はありません。

 しかしここでふと腕時計に目を落とすと、なんと終了予定時刻まで30分もありません。セッションが楽しすぎて時間管理が疎かになっていたのです。

 慌てて頭の中で計算しますが、これではコービット戦が終わるかも微妙なところです。その後に「闇をさまようもの」を登場させる余裕などとてもありません。

 前半にさんざん「闇をさまようもの」の情報をほのめかして、いろいろ推理していただいたのに、邪神顕現のくだりはカットするしかないのか……と、申し訳なさと不甲斐なさで内心、頭を抱える思いでした。

 しかしここで再び、プレイヤーの皆様に助けられました。

 地下室でウォルター・コービットが立ち上がった瞬間、探索者たちがなんとショットガンと拳銃を立て続けに貫通(エクストリーム)させ、《肉体の保護》の呪文ごとアンデッドを粉砕してしまったのです。

 まさか呪文ひとつ使う間もなく倒されようとは、コービット氏も私も思いもしませんでした。
 しかしお陰で、真打ち登場には願ってもない流れです。

「ウォルター・コービットが倒れると不意に、その首にさげた黒い宝石から煙のようなものが噴き出しました。その煙はみるみるうちに黒い翼の形に広がっていき、やがて地下室の壁を超えて、果てしない夜の闇そのもののように全てを覆いつくすかと思われました。そしてその巨大な翼の中心には、赤い火が3つに分かれて輝いています。それらはまるで、皆様を見つめる燃える眼のようでした……」

 もしこの邪神様に待機していただいていなかったら、あまりにもあっけない幕切れになるところでしたが、なんとかなって良かった……

 ともかく、かくして顕現した「闇をさまようもの」も探索者たちの活躍によりプロヴィデンスへと退散し、コービット屋敷をめぐる事件は一件落着、セッションはお開きとなったのでした。


7, 今後に向けて

 今回のセッションはプレイヤーの皆様のおかげで、無事に楽しくやり遂げることができました。
 しかしそれでも反省点も多く残りました。大きなところだけでも2つあります。

①時間管理
 前項でも触れた通り、セッションに夢中になるあまり、終了時間がギリギリになってしまいました。
 今後は、シナリオ中に何箇所か「チェックポイント」をつくり、ポイントごとに時間を確認しようと思います。

②情報の出し方
 『悪霊の家』では、図書館で4つの資料を得ることができます。
 そこで今回のセッションでは〈図書館〉ロールに一回成功するごとに1つ、ハード成功なら2つ、エクストリームなら4つ、資料を渡すこととしていました。
 しかしセッション中、この説明が不十分になってしまいました。そのためプレイヤーの方に「図書館では一度ハード成功したから、もうこれ以上資料は出ないだろう」と誤解させてしまいました。
 こうした混乱は、シナリオとは無関係に余計な謎を産んでしまうので避けるべきもので、プレイ時間が延びた一因でもありました。

 次回からは例えば、「〈図書館〉にハード成功したあなたは、この資料を見つけました。しかし、まだ見ていない新聞の切り抜きが半分くらいあります」といったように、不必要な混乱を招かない誘導を心がけたいです。

 以上2つのほかにも、ロールプレイやルール運用、進行など、改善点は山積みでした。

 それでも、今回のセッションを通して、クトゥルフ神話TRPGで、キーパーとしてプレイヤーと共にセッションをつくりあげる楽しみを知ることができました。

 この場を借りて、このTRPGの楽しみを教えてくださった先輩方と、今回ご参加くださったプレイヤーの皆様にお礼申し上げます。

 ありがとうございました!
 次回はさらに楽しいセッションにできるよう、頑張りたいと思います!



本作は、「株式会社アークライト」及び「株式会社KADOKAWA」が権利を有する『クトゥルフ神話TRPG』シリーズの二次創作物です。

Call of Cthulhu is copyright ©1981, 2015, 2019 by Chaosium Inc. ;all rights reserved. Arranged by Arclight Inc.

Call of Cthulhu is a registered trademark of Chaosium Inc.

PUBLISHED BY KADOKAWA CORPORATION 「クトゥルフ神話TRPG」「新クトゥルフ神話TRPG」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?