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そもそも毒親とは?③ 「毒になる親」を読んで(後半)

前回は『毒になる親』の前半部分、第一部に記載されていた子供にとって有害な親の特徴について取り上げた。今回はこの本の後半部分、第二部について書いていきたい。こちらでは主に「毒になる親」から「人生を取り戻す方法」が描かれている。

日本では毒親育ちのほとんどが、自分でどうにか解決してより強い人間になるか、潰れてしまうかの道しか残されていないように感じるが、欧米では心に傷を負った者が心理士や精神科医からセラピーを受けるのは、かなり一般的だ。スーザンの提示する「人生を取り戻す方法」とはプロの手助けのもと行われるセラピーを軸としており、その手法はアメリカやオーストラリアで広く用いられている。ただ、この手法が文化的、歴史的背景や社会の構造が全く異なる日本人に対して有効かどうか疑問に思う部分もある。

特にスーザンは、セラピーのゴールとして、親との「対決」を挙げているが、この部分は特に日本人には受け入れがたい手法なのではないかと感じた。簡単に説明すると、プロのセラピストの下、毒親をセラピーの場に呼び、過去のトラウマと現在も進行している苦悩について親に話す場を作るということだ。これは親を罵倒する場でも、仲直りする場でもない。自分が苦しめられてきた正体へ立ち向かう勇気が持てるかどうか。その大きな挑戦を乗り越えた時、今まで被害者であり弱者だった毒親育ちの子供たちは新たな力を身につける。結果として、彼らの人生において長期的に良い影響をもたらすということらしい。

今回、英語版を読んでいないのでなんとも言えないが、これは多分Confrontingという概念だと思う。この言葉は、問題や対立に対して直接原因となる人物と向き合い、問題解決のためにあえて困難な場面に立ち向かう、といったようなセラピー手法のはずだ。(毒親問題やセラピーの場面以外にも、職場やプライベートでの人間関係を改善するために使われることもある。)

これは極めて欧米的な価値観だと思う。彼らのスタンスは、人間関係に関する困難は、1人だけでは起こらない。必ず相手のある問題なので、セラピーに訪れた人の周辺人物たちをも盛大に巻き込むことを恐れない。むしろそこは最も無視できない重要なポイントだと言うことだろう。一方、日本人的な価値観でいくと、とりあえず自分の心の問題として、内向きに解決しようとする傾向があるはずだ。話の通じない相手と対決なんてもってのほか!穏便になんとかしたい!と思う人が日本には多いのではないだろうか?

そういう意味では、この本の第二部の方法論に関して「どうもしっくりこない」と感じる人も多そうだ。ただ私が言及したいのは、そこの部分にフォーカスする必要はないのではないか、という点だ。大事なのは、歪んだ親子関係に悩む多くの人々に対し、自分の経験や感情が正当であることを確認する助けになる内容がこの第二部にも多く述べられているという点だ。

例えば、「毒となる親を許す必要はない」という点。許さないということは、別に復讐するとか毒親を改心させるとか、そういうことではない。自分自身が子供の頃に受けた傷と向き合い、当時の状況を正しく認識することで、親の支配から解放され、健全な心で前へ進むことができる。

「親の支配から自己を解放した人は、必ずしも親を許さなくても心の健康と平和を取り戻すことができている。」(第二部、第九章「毒になる親を許す必要はない」、「許すことの落とし穴」から引用)

毒親の歪んだ物差しから自分の物差しを取り返し、負の遺産から自分を解放することは、さらには、「毒になる家系」のパターンを切り崩すきっかけへと繋がる。仮に私たちに子供がいるとすれば、子孫に負の遺産ではなくポジティブな遺産を残すことができるとスーザンは述べている。

毒になる親は、毒になる家系から生まれることが多い。全くその通りだ。母の両親もまた、中々の人物だった。私は自分が親になる前から、自分にはこの連鎖を断ち切る義務がある、と心に命じてきた。私はどんな子供も、その親より幸せになるべきだと思っている。それは、甘やかしでも、世間でよく否定的に使われる“ゆとり“でもない。愛されて育った人たちには彼らにしか使えない武器があるはずだ。

『毒になる親(完全版)』は、今となれば、どの毒親本にも書かれている共通の内容かもしれない。が、前回も書いたとこり、この本が30年も昔の1980年代に書かれていることに私は感銘を受けている。あの頃、苦しい子供時代を過ごし、今も私の心に居座る悲しい顔をした少女に勇気を与えてくれたような感覚を覚えるのだ。

そして現在、私がこのnoteで自分の経験を書き綴り心を整理し、過去の痛みと向き合うことは、自分自身を癒し、前に進むために重要なプロセスであると改めて感じている。

最後に私が好きなミームを載せておく。

負の連鎖を断ち切るのはあなた次第

https://amp.knowyourmeme.com/memes/its-up-to-you-to-break-generational-trauma


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