【ガチ書評】ロックリー・トーマス著 「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」 第七章

本投稿はロックリー・トーマス著 「信長と弥助 本能寺を生き延びた黒人侍」を解説する。

今回は第七章「弥助の生涯を推測する」を取り上げる。
書評/解説としては最終回である。


 ここではほとんど物語のような形式で弥助の人生を語っている。
 ただし、一章で語られた本能寺の変のくだりは省略してある。

 前述したが、著者は一章と七章こそがこの本でやりたかったことであると思う。
 二章から六章はリアリティを出すための背景情報である。

 なお、本章のなかで弥助の名前が何度か変わるが、混乱するため「弥助」で統一する。

 本章の構成は以下のとおりである。

 ①弥助の人生
 ②ゴアから九州へ
 ③本能寺の変のあとで

 解説は後回しにし、いったん書ききることにする。


 ①弥助の人生

 弥助は十六世紀の半ば、現在のエチオピアのあたりで生まれた。
 貧しい農家で育ったが十代のころに奴隷狩りに遭い、幾つかの土地を転々とした。
 弥助は立派な体格をしており、体力があり、従順であった。
 弥助は最終的にどこかの城塞都市に到着し、そこで戦闘方法、乗馬や歩哨、礼儀作法などの訓練を受けてハブシの戦士となる。


 ②ゴアから九州へ

 ハブシの戦士となった弥助だが、敗北をきっかけに仲間と散り散りになり、ゴア(インド)に到着する。
 弥助はそこで護衛兼従者として数年を過ごしたのち、ヴァリニャーノに献上される。
 ヴァリニャーノと弥助を含むイエズス会の一行は、ゴアからマラッカ(マレーシア)、マカオを経由して日本の口之津(長崎)に到着する。
 旅路は危険を感じることもあったが、おおむね平穏であった。

 ヴァリニャーノから信長に献上された弥助は、いままで考えたことがないくらい裕福になった。
 しかし、本能寺の変がすべてを奪っていった。


 ③本能寺の変のあとで

 弥助はイエズス会のもとで肉体を精神を回復させ、肌の色を隠して長崎へと向かう。
 長崎では有馬晴信(キリシタン)から、龍造寺隆信(異教徒)との戦で援助を求められる。
 そこで有馬氏が購入した大砲の操作を手伝った。それは昔、見様見真似で覚えた程度であったが、周囲に助けられてなんとかこなした。
 結果、有馬氏は勝利し、弥助はイエズス会から報酬を得る。
 そこで活力を取り戻した弥助は、中国船の船員となり、何回かの航海ののち海賊となる。
 略奪を繰り返しふたたび裕福になった弥助は小さな家族を持った。
 弥助の血は東南アジアのどこかの島民の体に受け継がれているかもしれない。
 弥助に心からの敬意を。


 以上である。

 これが著者が構築した弥助の生涯である。
 背景情報はものすごく丁寧に調査し、努力してペタペタ塗り固めている。
 それはすさまじく骨の折れる作業であったと思う。
 そういったところは素直にすごいと思う。

 背景情報をどれだけ塗り固めても、これが真実になるわけではない。
 ①、③は一次資料にもとづくものはゼロで、②は最後の二行が一次資料ですこーし確認できる程度である。

 リアリティがあるかないかでいうと、たぶんあると思う。細かく詰め込んでいるから背景情報には説得力があるのだ。
 あとは読者が「弥助」像にのめり込むことができるかが重要なポイントだろう。
 弥助=ヒーローとして先入観がある状態でコレを読む場合、自分に都合のいい箇所と背景情報だけで「本当に弥助はヒーローだったんだ!」となってしまうかもしれない。
 これ以上は空しいからやめておく。

 とにかく、弥助は著者の妄想であるとはっきりわかるので、信じてしまっている人はぜひこの本をきちんと読んでほしい。


 さて、次からは付録と謝辞、あとがきなどである。

 付録については補足資料として一次資料の記述が並べられている。
 この本で唯一の教育的価値がある箇所である。

 謝辞については割愛する……が家族の名前は出さないほうがいいと思うよ。

 あとがきについても同様に、家族の名前は出さないほうがいいと思う。
 ホントは小説化したかったらしい。
 うん、その方がよかったと思うな。

 そして、解析のためにじっくり読み直したあととなっては、「最大主義者」はかなり控えめな表現だと感じた。

 また、著者はこの本を、「冷静な観察者」として書くよう努めたらしい。
 (努めたとは言ったが、できたとは言っていない)

 訳者あとがきによると、この本は「歴史ノンフィクション」であるらしい。

 何度「ノンフィクション」と叫んでも、これはフィクションである。
 一次資料に反していなければ「ノンフィクション」になるのであれば、弥助が信長の死後、宇宙に飛び立って別の文明圏で同じことを繰り返してウハウハしていた説を唱えても「ノンフィクション」になる。

 最後に、この本がどれだけトンチキか広めるためでも、拡散にご協力いただけると幸いである。

 お付き合いいただき、ありがとうございました。

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