『恋のしずく』 リバタリアンの映画評 #1

日本文化を守るには

日本の文化を守るには補助金を出したり輸入品を規制したりして国産品を保護しなければならない、という意見をよく聞きます。短い間なら、いや、もしかするとかなり長い間、そのもくろみは成功するかもしれません。けれどもそのとき、その文化は死んでいるでしょう。文化とは人々の自発的な選択に支えられて初めて、血が通うものだからです。

『恋のしずく』(瀬木直貴監督)の題材は日本酒です。東京の農大でワインソムリエを目指すリケジョ(理系女子)の詩織(川栄李奈)は、日本酒嫌いにもかかわらず、単位取得に必要な研修先が広島にある日本酒の酒蔵に決まってしまいます。詩織は当初とまどいながらも、酒造りに人生を捧げる地元の人々との出会いを通じ、かけがえのない喜びを見出していきます。

海外では日本酒ブームといわれますが、国内では消費量が年々減り、酒蔵や酒販店の経営は楽ではありません。政府に酒の安売りを規制してもらい、消費者を犠牲に息をつこうという情けない動きもあります。けれどもこの映画では、誰も政治家や官庁に泣きつこうとはしません。迷い、悩みながらも、あくまでも良い酒を造るという正攻法で老舗を守ろうとします。

もちろんいくら良い酒を造っても、コストを度外視しては経営は成り立ちません。それに対する回答は映画の中では与えられませんが、もしかするとリケジョの詩織は蔵元を継いだ息子の莞爾と将来結ばれ、持ち前の合理精神を発揮して、経営を見事再建してくれるかもしれない。詩織役の川栄李奈さんによるラストシーンのすばらしい演技に続いて映し出される、瀬戸内の美しい空と海はそんな希望を抱かせます。

(東京・丸の内TOEI)


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