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【ネタバレ注意】シン・エヴァンゲリオン劇場版(2021/日本)感想


あまりにも語りたい部分が多すぎて纏まる気がしないので、物語の順を追っていくスタイルで感想記事に残します。

シンエヴァ全編のネタバレが物凄くたくさん含まれますのでご注意!!


僕にとっては20年くらい、人によっては20年以上、今や惰性か好意かももうわからんくらい長い間ずっと追ってきたエヴァの終わりが遂に来ちゃいましたね。

〘シン・エヴァンゲリオン劇場版〙

シンエヴァ


以下、全編にわたるネタバレ要素を含む感想記事になります。




■いわゆる"冒頭10分"


シンエヴァ本編の冒頭映像と謳い事前に公開されていた冒頭10分40秒。パリを舞台にヴィレのクルー達がユーロネルフ本部を再生する為の作戦が展開されます。

改めて劇場スクリーンで観てもやっぱり面白いのはもちろんなんですがそれ以上に、予告版"Q"のような、本編映像を匂わせて実は違うんじゃないかみたいな、新劇場版特有の不安が僕はここで一気に解消されました。

それは同時に、今回シンエヴァの事前告知で謳われていた諸々、特に「さらば、すべてのエヴァンゲリオン」というコピー通りの物語が描かれるんだという確信が生まれて、本当にエヴァを終わらせるんだなと再認識して、緊張感と寂しさが一気に込み上げてきました。



■オープニングから第三村到達まで


"Q"ラストカットからダイレクトに繋がる形で、コア化した大地を進むアスカ、黒波(黒いプラグスーツの綾波シリーズ)、シンジ君の三人の道中を描きつつ、しんみりした感じのオープニング映像。

僕もそうだったんですが「前半は三人のロードムービー的な内容になりそう」という予想が多かった気がします。結果ここは擦らずシンプルにOPとして使われていました。

"Q"では断片的にしか描いていなかったコア化した大地、ビジュアルの異質さと共に、改めて絶望的な世界という形で再度提示しているかと思いきや、OP直後さっそく登場する生存者達の存在が良い意味で違和感を生んでいました。どうやらシンエヴァはそうでは無いらしいと。


生存者がいる、それどころかそれなりの規模のコミュニティが、各所で形成されているらしい事がわかる、この要素だけでも"Q"の徹底した外界描写排除の理由が見えてきます。

元々"Q"と今回のシンエヴァが一本の内容で描かれる予定だった事を踏まえると、”Q”のシンジくん絶望一直線展開は効かせすぎなフリだったと分かります。

そしてそれが察せられる、まだあの世界にシンジ君にとっての希望は残っていたということそれ自体が、旧作も含めたエヴァのそれとは明らかに別種の、キャラクターだけでなく観客に対しても向けられたある種の優しさのようなものを感じて、それが僕にとっては良い意味で違和感を覚えるものでした。

"Q"ってやっぱ良くも悪くもエヴァらしすぎるというか、"破"で壊したはずの従来のエヴァのイメージに再着地したような展開だったので、それを改めて壊し直すんだと明確にここで示しているように思います。



■トウジやケンスケとの再会、第三村の生活、黒波


トウジもケンスケも生きてたしトウジはいいんちょと結婚してるし医者頑張ってるしケンスケは加持さんみたいなダンディズムを散らしているしアスカとの信頼関係が築かれ狂ってるし、とにかく意外な展開と情報量が爆発的に増える第三村のシーン。一方で物語はとても静かにゆっくりと、シンジ君の為に進んでいきます。というか第三村であってましたっけ名前。


このパートいろんな意味で俺の中で本編すぎて好き。もうシンエヴァで個人的にトップ3に入るくらいここが好き。

中身が無いただの器として"Q"では描かれていた黒波、それは"Q"シンジ君の拗らせにもダイレクトに繋がる要素でしたが、第三村での生活で大きく変化します。黒波が綾波レイとしてでは無く黒波として生まれ直すような感じで、加えて言えば自分とは違う他者との交流が自分を形作っていくという解釈も出来ると思います。

旧テレビ版旧劇場版双方のラスト、人類補完計画の最終局面でシンジ君が選択した「他人が居る世界」がどういう世界なのか、ここで黒波を通して描き直しているように思います。それは同時に、今回のシンエヴァでもこの部分が根底にある事、一貫したメッセージとしてそれを描こうとしている事が何となく見えてきます。


黒波がかわいすぎてかわいすぎる点も最高に最高で好き。ここだけで2万字は埋まるから書かないけどなんかもう全部いいわすげえわ「名前無いから付けて!」だってさ!オ゜ッッッ!!!!!!



■第三村でのシンジ君とやさしい世界


目の前に希望の片鱗があっても自分を許せずふさぎ込むシンジ君。というよりふさぎ込まざるを得ないというのが実態だとは思うんですけどね。

これはなんというか、鬱病経験があるとよく分かるシーンが多すぎて、第三村の内容は全体的に好きだけどここだけちょっと正直観てて辛い部分でもありました。「どうしてみんなそんなに優しいんだよ」ってシンジ君のセリフは庵野監督の体験から生まれたセリフなんじゃないでしょうかね。


自分のせいで世界が壊れて、そのせいで人々は大切な人を失って、細々とギリギリの生活を送っている事実、世界を壊した当事者の眼前でそれが展開されているという視点で見ると、シンジ君にとって当初の第三村のそれは精神攻撃になっていてもおかしくは無いんですよね。

それを解きほぐしていくのが旧友ケンスケとトウジ。特にケンスケがキーパーソンでした。

シンジ君の知らない14年間で成長し変化した親友二人、シンジ君からしてみればもう知らない大人と同義ですが、彼らはシンジ君を肯定し、シンジ君のやった事に対して、時にポジティブな面すら提示してきます。

昔と変わらず友人として接し続けるケンスケとトウジの存在が、どん底まで行ったシンジ君の再起のキッカケとなります。

思えば"序"の時から二人はずっとシンジ君の味方であり続けてたんですよね。

テレビ版ラミエル戦と新劇場版の第6の使徒戦の大きな違いのひとつに、シンジ君にトウジとケンスケからの応援メッセージが届くというものがありました。

今思えば新劇場版での三人の関係性は旧作のそれよりも重要になってくるっていう、一種の伏線だったのかもしれませんね。テレビ版だと最終話付近で皆バラバラでシンジ君ほんとうに一人になっちゃうからね。


一方アスカはシンジ君にずっとキツめに接していて「アスカ中身も結局14歳のままじゃない?」的な違和感を生みかけるんですが、多分そうじゃ無いんだと思います。

アスカはアスカで、シンジ君がふさぎ込む理由の根底に、独りよがりな被害者意識が残ってんじゃないの?的な事をストレートに突き付け続けていました。それも(ケアとして正しいかとかでは無く)やっぱりアスカなりの優しさなのかもしれませんし、何よりトウジとケンスケには出来ない方法でシンジ君が自身を見つめ直すきっかけを与えているように思います。


これもやっぱり他者との関わりで自分を取り戻す、自分を知って立ち上がるっていう流れで描いていたと思います。そしてこれが、旧シリーズのような最終盤での気づきでは無く、ここから先に物語がまだ控えた状態で展開されているのが面白いです。この先どうなっちまうんだっていう期待感は絶対膨らむものね。




■黒波の最期とヴィレ出撃、真の意味で成長するシンジ君


第三村での生活の中で再起出来たシンジ君ですが、このタイミングで黒波が限界を迎え、シンジ君の目の前でLCLに還元されるという「これもしかしてまーーーーーーーたエヴァやりはじめた?」的な衝撃展開を迎えるんですが、今回のシンジ君は違った!!シン・もう絶望なんてしない君。


色々最後にただ未練と感謝の言葉を残して笑顔で消えていった黒波を見て、本当にただ悲しむシンジ君。

ゲンドウとか目線だったらもしかしたらこの黒波LCLイベントもシナリオ通りみたいな感じでニタニタシンジ君の精神崩壊待ちを狙ってたのかも分かりませんが、既に村での生活で度重なるアップデートを繰り返したシンジ君の前では通用しませんでした。


加えて言えば、多分シンジ君にとってこれは、自分が原因でも無ければ自分にはどうする事も出来ない死の、初めての体験だったと思うんですよね。

これまで自分のせいで誰かが死んで自分を責めていたシンジ君ですが、ある意味で自然な死を体験した事で、ともすれば素直な形で精神的な成長ができたのかなって、僕は捉えています。むしろアップデートに拍車をかけてるまであるよ。

第三村での生活と黒波の死を通じて、シンジ君は大人になっていったように思います。ここから先のシンジ君はけじめをつける為に自らヴンダーに乗艦する事を希望しますし、子供らしくない肝の据わった姿を見せ始めます。

"破"の時のシンジさんとも違う、真の意味で成長したシンジがここから描かれ始めたと思います。


第三村ではほかに、シンジ君がケンスケの紹介で加持さんとミサトさんの息子である加持リョウジと会う展開もありました。加持さんと全く同じ名前だったんで、一瞬加持さんもクローン作られてたん!?的困惑がありましたが、全くそんな事はありませんでした。



■ミサトさんの本心


冒頭シーン以来久々にヴィレの面々の姿が描かれ、ここでミサトさんの心情も改めて描写されました。

あまりにも多くの人が多くの場所でネタにし狂ったミサトさんの【行きなさいシンジ君!→あなたはもうエヴァには乗らないで】問題。情緒どうしちゃったんだコイツ的な、結局ダメな大人扱いされた"Q"から9年。

ミサトさんはやっぱりシンジ君ひとりに全てを押し付けた事を後悔していて、だからこそシンジ君がサルベージされた時にもうシンジ君に負担をかけたくないがために(同時にヴィレのリーダーとしての体裁もあるので)あのような対応をしてしまったという事が、正直皆分かってましたけどしっかり描かれましたね。

邪推かもしれないですが、やっぱり"Q"でミサトさん叩かれ過ぎた感はあったので、その面子を立て直すかの如く、ミサトさんの掘り下げも結構あったように思います。



■加持さんと種の保存


究極の目的として、人類云々じゃ無く、インパクトのせいで失われる多様な種の保存を目指していたことが明かされる加持さん。

また、ヴンダーは本来それを可能にする一種の箱舟だったという事も明らかになりました。


使徒封印柱(でしたっけ?コア化防いでるあの柱)とかブンダーとかもそうなんですけど、やっぱり人類以外の何か、旧シリーズで言う第一始祖民族とかそういう存在が背後にある事もなんとなくわかりますし、それを踏まえると○○インパクトとかそういった現象そのものを、高次の存在は既に知っていたようにも考えられます。

新劇場版ではゲンドウがゼーレに対して「あなた方は人類に文明を与えて下さった」みたいな事言ってましたし、柱とかヴンダーとか用意してたのはゼーレで今作のゼーレはそういった高次の存在だったんでしょうか?この辺りの整理を付けたいです。

ゲンドウは結局は新劇場版でもゼーレのシナリオとは違う形で人類補完計画を進行させていくわけですが、リセットに対する認識みたいな部分も大分違う様に思いました。




■ネルフ本部強襲、バトルオブ南極


「ネルフ本部が黒い月と共に南極大陸へ移動中!」という想像のはるか上をいくパワーワードと共にいよいよ開幕するネルフとヴィレの最終決戦。

第三村でのゆったりした時間から一転、ここから先は本当に色々な事がどんどん連なっていく怒涛の展開が控えていました。


ヴンダーに乗艦したものの、乗るエヴァが無いシンジは待機する事に。ただしこれまでとは違い、神妙な面持ちで何かのタイミングを待っているような雰囲気を出しているところに痺れます。

この時点ですでにシンジは「逃げちゃだめだ」とかそういうこと言う精神構造の人じゃないんですよね。時が来るまで、自分のやるべきことをやるまで仲間を信頼して待つみたいな、圧倒的つわもののそれを感じます。シンジさん!


ラミエルみたいにふわっと移動するネルフ本部、南極はセカンドインパクト爆心地、そこに形成されるガフの部屋へと繋がる扉へ向かおうとするネルフ本部をブンダーが強襲。目的は次のインパクトのトリガーとなる13号機の起動阻止とかだったと思います。この辺りちょっと曖昧で申し訳ないです。


ヴンダーと同型艦の戦闘、これは予告でも示唆されていましたが、同型艦がまさかの計4艦あるというサプライズ。

更に未完成な状態でヴィレが奪取したヴンダーと違い、ネルフ側は3艦とも高出力の使徒ビームっぽいものを連射できる主砲を搭載していて苦戦を強いられます。

南極下層?、3層あるL結界をヴンダーはぶち破りなんとかネルフ本部へ接近、アスカの乗るJAのパーツを共食い整備的に用いて形にした新2号機とマリの乗る8号機を本部へ送り込もうとするも、大量のインフィニティが行く手を阻みます。


いやネルフの工業力どうなってるふ。ヴンダーと同じような艦はたくさん持ってるしエヴァも(変な形の含めて)異常な数投入してくるし。旧劇場版なんて9機のウナゲリオンだけでもとんでもない絶望感があったのに今回文字通りインフィニティが無限に出てくるよ。インフィニティがエヴァかどうかわからないけど。


それはともかく、ミサトさんのセリフにもある通り圧倒的ザコ枠と化した大量投入されるインフィニティをちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りで突破していく2機のエヴァ。

冒頭の8号機戦闘シーンでも思っていたんですが、この戦闘シーンでも今までに無かったビジュアルと戦闘描写でエヴァの戦いが描かれてて凄い事になってるんですよね。

ネルフ側の戦術が人知を超えたような戦い方を仕掛けてくるのに対して、ヴィレのエヴァはいかにも人類らしさ満載な武装で対応していくのが面白いです。

新2号機とかJA要素8割くらいになった関係でめちゃめちゃ工業製品っぽいですし、8号機も人の可動域を捨てて、めちゃめちゃメカニカルなオプション装備してますし。もしかしたら人類の可能性を人類の知恵の結晶(であろう)メカ要素で示すみたいな意味合いがあるのかもしれません。



■使徒パワー全開アスカ、そういえば式波シリーズって何


ATフィールドを持たないはずの13号機に、怯える2号機自ら発するATフィールドのせいで攻撃が届かないという予想外の事態、これを受けて遂にアスカが謎めいていた眼帯を着脱、"破"で侵食された使徒のパワーを持って2号機もろとも使徒化する超激アツ覚醒演出。

使徒パワー発動した新2号機が"もののけ姫"のでいだらぼっちっぽいの、庵野監督なりのアンサー説ありません?もののけ姫は宮崎駿監督がエヴァに対して作った映画だったみたいな話聞いたことあります。


いやもうこれは勝ったな…と誰もが思った矢先、起動した13号機によって殲滅される2号機、そして肉片へ。

2号機をバラバラ死体にする伝統だけは何としてでも継承したいっていう鋼の意志を感じた瞬間でしたね……。ウナゲリオンはずっとここにいたんだ。

「ごめん2号機!」ってアスカが言った時点で何となく察してましたけどね。


そして、ゲンドウの真の目的は使徒化したアスカを13号機で殲滅し、それをトリガーにする事でした。ザ・回りくどい男って感じですがこれまでのネルフは一貫して回りくどいので、そういうシナリオに沿って進めていたって事なんでしょうね。


でこれ書いてて思ったんですが、シンエヴァでアスカもまたシリーズ化されてるっぽいセリフあったと思うんですが、それは結局どういう事だったんでしょうか?

"Q"からのアスカは、"破"で精神汚染されたアスカのクローン体とかに精神を再同調させた存在だったのか、シンプルにずっと同じ一人の式波シリーズで、あくまで人工的に作られたパイロットだよって話なのか。この辺りは周回しないと分からないかもしれません。



■新2号機がサプライズの頂点かと思ってたら8号機はもっとヤバい奴だった


えっ君は食べるタイプなの。

8号機はどうやら"破"の第10の使徒みたいに、捕食する事で対象の力を取り込む的な事ができるらしく、アダムスの器こと9,10,11,12号機をそれぞれ捕食し、覚醒エヴァっぽいパワーを発揮し始め名前も8+9+10+11+12号機にグレードアップ。

最後に喰われそうになってるエヴァがマジで怯えてる描写とかわざわざ入れてあって、化け物っぽい演出に物凄く力が入ってましたね。

マスクが開いて化け物そのものの顔が出てくる仕掛けもそうですし。


僕個人の感想としてハッキリ言って後半のネルフとヴィレの戦闘は楽しいの一言に尽きます。もう何が起きてるのかあんまり分からないんですよ。

でもエヴァならそういう事もあるよね的な洗脳めいた納得すらこの辺りで生まれていて、8号機の暴挙を見ても「すげえやばいエヴァが本気出してる」くらいの勢いで楽しめました。ビーストモードの衝撃を乗り越えた俺たちならどこまででも行けるよ。



■異世界ゲンドウ怒りのワープ連打、撃つリツコ


そんなこんなでいよいよ補完計画が始まってしまったっぽいんですが、正直この辺りまで怒涛の展開すぎてもうかなりキーワードの聞き洩らしが多いので細かい箇所で間違った事書いてしまうかもしれません、すみません。


現れたゲンドウと対峙するミサト、リツコ。

ゲンドウがごちゃごちゃ何か言おうとする間も与えず即ヘッドショットを狙うリツコの衝撃たるや。旧劇場版のリツコはゲンドウを撃てなかったんですよね。

しかし弾け飛んだ脳みそをかき集め立ち上がるゲンドウ、ネブカドネザルの鍵の力で自ら人を捨てたとの事で、撃たれるとかそういうのでもう死ぬ事は無い感じでした。せめて、人間らしく。

「まさか君が撃つとはな」的な事をゲンドウはリツコに対して言うんですが、これってもろに旧劇場版のリツコのそれを受けてのセリフにしか聞こえなくて驚きました。

もう人超えちゃってるし、この後の展開で出てくるエヴァイマジナリ―なる概念との関わりも含めて、ゲンドウはエヴァ世界の別の出来事とかもなんとなく把握してる感じなんでしょうか。


第13号機に乗り込み(口腔からダイレクトエントリーしてました)、そのままヴンダーからぶっこ抜いた初号機もろともガフの扉の向こう側、マイナス宇宙へと消え去ろうとするゲンドウ。

シンジが呼びかけるもシカトを決め込まれ、それでも一切動揺せず一旦はゲンドウを逃がすシンジの、あまりにも余裕に満ちた姿勢に驚きます。


再び初号機に乗ろうとするシンジに対し、怒りを顕わにするヴィレクルーのピンク枠こと北上ちゃん。そこへ割って入り本気の発砲で本当に殺しにかかる半狂乱の鈴原サクラ、その凶弾からシンジ君を身を呈して守るミサト。

ここで一気にヴィレとシンジの関係性が表面化したような感じです。

ミサトさんとシンジの関係修復とかヴィレクルー目線のシンジに対する気持ちの真相とかここで整理されるんですが、それ以上に鈴原サクラの発狂の衝撃が凄かったです。完全に壊れちゃってるもん。


ゲンドウを追う為、ガフの扉の向こう側、マイナス宇宙へと突入するシンジ。

ゲンドウは裏宇宙といういかにも理を超えてそうな空間である事を良い事にワープを連発して追跡から逃れようとするも、本気シンジが初号機の中に居た綾波にリンクしてあっさり捕捉するという、想像以上の速さで発見されていて笑っちゃいました。なんかワープ連打してる第13号機の絵面もシュールなんですよね。

ピョンピョン現れては消えを繰り返してて、バトル漫画のスピードタイプの噛ませ敵がやりがちなイキり連続回避のそれに近い哀愁を感じます。



■初号機VS第13号機


遂に開幕する親子対決。シンジとゲンドウの直接対決って状況そのものはもちろん盛り上がるんですが、それが精神世界的空間を舞台に人が視認できる形で具現化された世界で行われるっていう、エヴァンゲリオンという作品のファイナルバトルにこれ以上ないくらいマッチした、というよりそれらしさが全開なフィールドが用意されてるのが凄く好きです。


予告の段階でチラ見せされていた初号機VS第13号機の戦闘シーン、戦闘描写としてあまりにも緊張感がありませんし、重量感もクソも無い低予算CGっぽさが強すぎて、劇場公開までに治されてたりしないかなって願うレベルで嫌いだったんですが、その安っぽさには理由があったって事なんですね。

といっても僕の解釈なんですが、記憶が具現化された空間でのあの二者の戦闘シーンの安っぽさって、虚構そのものを虚構として意識させるような意図的な演出だったように思いました。そもそも実際にはエヴァで戦ってない訳ですし。

ディティールが薄い市街地から舞台がミサトさんの部屋、綾波の部屋、加持さんの農園など次々にシフトして、サイズ感を無視したエヴァ2機がひたすら槍でぶつかり合う、この一連の戦闘シーン自体が旧劇場版の心象風景シーンのそれに近そうで、全く違う内容なのが面白いです。

内面世界とか精神世界とか、そういう個の事象としてこれまで演出で使われていた心象風景が、シンエヴァでは超常現象的に認知可能な世界での親子の対話シーンに落とし込まれてるの、これまでのエヴァで観たこと無いのにものすごくエヴァっぽいのが不思議です。



■エヴァイマジナリ―とアディショナルインパクト


シンジは攻撃をやめ、ゲンドウと対話を始めます。

そこで明かされたエヴァイマジナリ―なる概念。存在?

リツコが「実在していたのね」と言っていたのである種の存在として認知できるものではあるかもしれないんですが。シンジ君には黒いリリスに見えていました。

このエヴァイマジナリ―が間違いなく肝で根幹でその後も前も全てに関わる最重要ファクターなのは間違いないんですが、これの解釈が僕は上手くできてないです。周回の必要ある。

劇中キャラの想像するエヴァの世界そのものであり、僕たち観客サイドのイメージするエヴァの世界でもある、みたいな事なんでしょうか……。

とにかく、この虚構を現実化してしまおう!というのが、どうやらゲンドウの目指すアディショナルインパクトの大筋っぽい感じでした。


人類の全ての魂をひとつにしてそこでユイと再会する、というのがゲンドウの目的で、これ自体は旧作含めそう大差ない部分なんですが、この後に始まるゲンドウ内面世界編で物語の軸が大きく変わっていきました。


あと、セカンドインパクトで海の浄化、サードインパクトで大地の浄化、アディショナルインパクトで魂の浄化という段階的な要素として○○インパクトが整理された点、地味ながら意味合いが明確になると同時に赤い海や赤い大地にまつわる諸々の解釈に一撃で決着がついて物凄くスッキリしました。


■槍が無いなら作ればいいじゃない


奇跡を起こす為の槍が無いなら私達で作ってしまいましょう!というパワープレイに踏み切るヴィレの面々。

シンジ君が"破"で見せつけたような、人の意志で人知を超えた力を発揮するという展開ですが、これをすぐにこなしにかかるリツコ達の気合の入り方も凄いですしマヤの「これだから若い男は」をベタながら最後にクルー後輩たちに対する賞賛の意味で使う感じとか、すごくいいんですよね。


ちなみにこの段階で、地球上には巨大な綾波顔のリリスがふぉーんと顕現なさっていたり、旧劇場版のサード描写に近い演出が多くてちょっと謎の昂ぶりを覚えました。It`s all returns to nothing~

あと”Q”が作り直される原因のひとつに東日本大震災の影響があったという話なんですが、なるほどって感じの描写がありましたね。


槍をマイナス宇宙に配送するシーンで巨大化リリスが全力で「やめてやめて」みたいに手でバッテンして槍の侵入阻もうとしてるのちょっとキモ可愛くて笑いました。「目はダメでしょ……」みたいな表情してるんだもん。


ヴィレで槍ごと特攻をかけるミサトさんが、最後にシンジとリョウジの写真を大事そうに添えてるのとか、そういう一瞬の描写でミサトさんがどういう大人だったのかを見せるやり方が多くて上手いですよね。マジでミサトさん周りは今回良いシーンしかないと思いますシンエヴァ。

"Q"でミサトさん酷い女だと思い込んだ全人類が手のひらを捩じ切る他ないと思います。



■おめでとう、おめでとう、ゲンドウ


ゲンドウの内面が克明に描かれる展開。

ゲンドウも結局シンジと似たような苦しみの中で生きていた人間であり、それでも孤独を受け入れていた中、ユイに出会ってユイを失って、孤独に耐える自信も失って拗らせたという、とても悲しい中年像が描かれました。

そんなゲンドウに対して、成長したシンジの存在が語り掛け、ゲンドウは次第に心が補完されていきます。

加えて言えば、単一の生命体となってユイと再会するというゲンドウの目的を、単一生命では無いからこそ成長できたシンジの導きで打ち砕くという形だとも思いますし、そもそも負け戦だったようにも見えます。

なにより、これ僕だけじゃないと思うんですが「単一生命体になったら再会もクソも無いんじゃない?」という昔からの疑問があって、それに対する解答のような描写とかもありました。ユイはずっとそこに居たってわけよ。


幼いシンジ君を置き去りにホームへ向かうも、踵を返してシンジ君を優しく抱擁するゲンドウのシーン、あそこ流石の僕でもぶわっと涙出ました。

子供の時はシンジ君の目線で、今ではゲンドウの目線でも二人のキャラクターを追えるからこそ、長寿コンテンツと化したからこその感動かもしれないんですが、とにかく凄く良いシーンでした。

旧劇の「すまなかったなシンジ」パク!!っとかじゃないんですよ、ゲンドウが心からシンジと向き合った事実だけでも十分なんですよ。

これまで殆どフォーカスされず謎多き人物のままでいたゲンドウを、ここで一気に描きぬいて一気に救っていく、この勢いの付け方も凄く良かったです。



■エヴァの無い世界にするために


ゲンドウが無事に優しさに包まれ、これがグランドフィナーレかと思いきや、シンジの救済は止まりませんでした。

というかシンジの目的は「エヴァの無い世界にする事で皆を救う」みたいなニュアンスだったと思うので、ここからある意味でシンエヴァの本編というか、おそらく新劇場版が目指していたものが始まったような印象です。


アスカのシーンで、旧劇場版ラストの「気持ち悪い」ビーチでシンジとアスカがお互いに自然に気持ちを伝えあうシーン、そしてケンスケがアスカの抱えていた全てを実はずっと受け入れていた事が分かるシーン。

LAS一派が死んだという報告が多々ありますがそれはともかく、シンジがアスカに居場所が在る事を気づかせるという構図がなんかもう僕は凄く来るものがあって印象的でした。

気持ち悪いビーチが出てきた事で惣流なのか式波なのかもうよくわからないんですが、多分どっちでもないというかどっちでもあるというか、それこそアスカというキャラクターそれ自体に解答を投げたような感じなのかもしれません。それはシンジじゃダメだったとかでは無くて、アスカが自覚していなかった家族の存在を認識させる為の、その道筋の一端としてのケンスケなんだと思いました。


それ以上にカヲル君とシンジの対話が僕的にはクリティカルヒットでした。

あのカヲル君がですよ、旧作時代から散々シンジ君の唯一の救いと最後の絶望の2つを担い続けたあのカヲル君をですよ、シンジが導いてるんですよ。

シンジとの対話の中で「君の幸せを僕は勘違いしていた」みたいなこと言ったり、あの全てを知っていそうなカヲル君がどんどん解きほぐされて最後涙まで流すって、ねえ。

加持さんがカヲルを渚指令って呼んでたり、新劇場版世界のカヲルがある種の黒幕的な存在だった事(何度も何度も世界を繰り返して聖典を書き足してシンジ君を追っていた的な)、ゲンドウと何かしら繋がりがある存在らしい事、そういう設定面でのチラつかせもありますが、もう正直そういうのどうでもよくなっちゃうくらい感動してました。


それらとは相対的に、あっさりした感じだった綾波とシンジの対話なんですが、当然と言えば当然で"破"の段階で一回シンジ君が綾波を助けてますし、ここでの綾波もやっぱり黒波やらなんやら全て重なったような存在なので、心残りだった部分をちょっとくすぐるような形で描かれていました。


そういうエヴァンゲリオンが在るからこそおかしいことになっていた各キャラクターをシンジが導いていく展開、その丁寧すぎる解決フェーズと本当に見たかった結末へどんどん進んでいくのが、ファンとしては嬉しさも凄くあるんですが同じくらい寂しさも込み上げてきました。

本当にこれで終わるんだなって倍々に実感が込み上げてきて、どういう心理状態なのか言葉で言い表せない感じなんですよ。


ただ一方、すべてのエヴァにお別れを言う為の描写の中にあった、新劇場版で登場した数々のエヴァが、矢継ぎ早にブスブス槍で貫かれてグエエってなっていくシーンがボーボボ感ありすぎて笑いそうになりました。

そういう明らかに壊れたシーン今回ちょくちょくあって好きです。そのせいで感情ぐちゃぐちゃよ。



■シンジとマリ、エヴァの終わり


青い海を見つめるシンジ、動画から着彩が消え、原画からコンテ、ラフへとどんどんその存在自体が無い物になっていくかのようなシーン。

これがエヴァの終わりの真意かと、ここにきてドキドキさせられました。LCLになるとかそういう、エヴァ世界としての崩壊じゃ無く、アニメ作品そのものとして終わりを演出し始めたのかと。

それだったらもうこの映画うんこ以下だなって思った矢先、シンジを助けにマリが登場、世界に色が戻るという、最高に最高な展開。俺は泣いてた。


そしてエヴァの無い世界で、シンジとマリが二人で駅にいるラストシーン。

二人は電車に乗るのではなく、駅から飛びだし、実写で撮影された世界=エヴァが実在しない世界のそれに飛びだしていく、みたいな形で締めくくられるシンエヴァ。

みんなを助けた末にラフスケッチ状態まで下ったシンジを、マリという存在が最後に救いあげて逆に実写の階層まで持っていくこの演出、映像の種類手法そのもので、シンジの目指した世界が達成された事を徹底的に分からせにきてるなって思いました。

それはつまり、これ以上ないくらい完璧にあの世界のトゥルーエンドを迎えたって事でもあって、付け入る隙を全く与えずエヴァは終わるという結末を突きつけているようでもありました。


"破"で登場して以来、ずっとその立ち位置や役割が曖昧に思えたマリですが、たしかに思い返すとずっとシンジを手助けしていました。

個人的にこの「最後はマリがシンジを救い上げる」形の結末って、結構納得というか大アリだと思うんですよね。

いや僕がメガネの女の子がやたら好きって性癖があるから受け入れられてるだけかもわからないんですけどね、ここに関しては。


それはそれで、物語の形としても、エヴァの全ての総決算としても、あまりにも清々しく完璧な結末を迎えたと思います。

それに対してもはや感謝すら覚えましたし、同時にエンドロールで嬉しいとか寂しいとかを超越した状態に突入しまして、帰宅後一旦寝ましたよね。

とにかく、エヴァは終わったんですね。



■その他、余談的な


冬月先生が中ボスとして言葉通りヴィレの前に立ちはだかりまくるの、凄く面白かったです。

あと本当に嘘偽りなくただ気持ちだけでずっと形状崩壊しないでいたという衝撃的な事実ね。


冒頭からそうでしたがエヴァで遊び過ぎていて最後の方で腕だけのエヴァとか出してきちゃうの、なんでもありなんだぜ的な事をダイレクトに伝えてきてて観てて気持ちが良いまでありました。


28歳のいいんちょ、母親としての貫禄ありすぎて笑いました。

黒波のメンターとしての役割とか、いろいろ物語上でも重要な意味のあるキャラになっていたのは嬉しかったです。序破での影の薄さモブ級だったもんね。


シンジと初号機のシンクロ率についての見解でリツコが言い放った「ゼロでは無く、それに限りなく近い数値、無限大よ!」の圧倒的勝利感面白すぎ。

無限大で無敵っていう熱血系スーパーロボット作品のそれをエヴァに実装した女。



エヴァ"Q"が延期になった時、前後編に分割されると発表があった時、もちろん東日本大震災の影響というのはまず間違いなくあるという上で「劇場版まどかの公開と重なるの避けたんじゃない?」的な予想があったの覚えてますか。

今回シンエヴァ観て、シンジが最後に行ったある種の救済シーンを見てると、たしかにちょっとそれっぽいんですよね。ただまどかはあれその後にもう一発あったので厳密には同じでは無いんですが。

だから何って話なんですが、そういう捻くれた推察とか根拠のない批判とかがやっぱりたくさんあった上で、今回しっかりエヴァの物語にけじめをつけてくれた制作陣、本当にお疲れ様でした。


■〆

個人評価:★★★★★

とても長い感想記事になってしまい申し訳ないです。


期待と不安を抱えながらずっと待っていたシン・エヴァンゲリオン劇場版、「さらば、すべてのエヴァンゲリオン」という言葉通りで、そして想像のはるか上をいくほどに完璧に正解と思わざるを得ない形でエヴァの終わりが描かれました。

僕は本当に満足で、エヴァが好きになった時に思い描いた、拗らせない形でのトゥルーエンドみたいな、妄想じみた結末のそれが、実際に描かれているような感覚に陥りました。

最終的にまた変な方向で哲学と説教を拗らせはじめたりしないかっていう不安は少なからずあったので、"エンターテイメント性を重視してエヴァを再始動する"という当初の構想通りのものが描かれたと思いますし、なんというか、感動とかもちろん凄まじいんですがそれ以上に安心感を覚えたりもします。


しばらく時間が経てばもっと明確に評価なりできるとは思うんですが、今この段階では「お疲れ様でした」みたいな気持ちが一番強い気がします。


いや正直もっとしっかり気持ちの整理つけた状態でシンエヴァ観たら絶対また見え方変わってくると思うんだよな


ではまた。

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