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お坊さんに悩みを相談できる! 築地本願寺の「悩み相談」って、実際どんなもの?【後編】

コロナ禍の生活下で、疲労やストレスが積もり、人知れず不安を抱えている人もきっと少なくないはずです。現在、築地本願寺では、無料でお坊さんに相談できる悩み相談の場を設けています。悩む人はどんなことに悩んでいるのか、お坊さんはどう答えようとしているのか。浄土真宗本願寺派安楽寺住職であり、2006年から民間ボランティアで相談員を務め、現在では築地本願寺の相談員の講師役でもある藤澤克己さんにお話を聞きました。

寄り添って考えることで、その人の中に「答え」は生まれる

――藤澤さんご自身が相談を始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

私は以前サラリーマンとして働いていいて、お寺を継ぐために会社を辞めました。その時、「やりがいのある仕事を辞めるのだから、何か世の中の人のためになることをしたい」と思い、2006年から複数のボランティア団体に参加し、研修を経て、相談員になりました。

――相談者さんは、どんなことを求めているのでしょうか?

私の相談の師匠は常々、「答えは相談者の方が持っている」と言っていました。まさにこれは金言で、悩みを抱えた人に誰かが寄り添って一緒に考えていくことで、その人自身が答えに辿り着くということを何度も経験しています。

この考え方は、浄土真宗の「御同朋(おんどうぼう)」という言葉にも通じますね。御同朋とは、みんなが等しく迷える人間であるという前提のもと、たまたまいま元気な人と元気じゃない人がいて、いま元気な人が「あなたの話を聞いて一緒に考えます」と共に支え合う世界観です。僧侶による相談は、まさにそうした世界観の上に成り立つものなのかなと思います。

どんな相談でも、受けられない相談はない

――コロナ禍において、一般の方から寄せられる悩み相談には、どんな変化が起きていますか?

先行きが見えないせいか、漠然とした不安を抱える方が増えていますね。あとは、在宅で家にいる時間が増えて、DVや虐待などが深刻化したりするケースもあるようです。また、シングルマザーの方から、「以前より生活が苦しくなった」などと相談を受けることもありますね。

――昨今は、金銭不安や仕事の悩み、健康不安など、答えが出しづらい相談も多いと思います。これについては、どう対応されているのでしょうか。

相談の種類には、「問題解決型」と「寄り添い型」があると言われています。専門家に相談する「問題解決型」の場合は、アドバイスや悩みに対する解決策をが提示しされます。こうした問題解決型の相談は答えが与えられるからこそ、相談者からすれば上から目線に感じてしまうこともあるようです。

それに対して、築地本願寺で行っている相談は、「寄り添い型」です。同じような素人同士だからこそ、寄り添えるし、どんな問題でも同じ目線で考えられるのが特徴です。また、上から目線で与えられる答えよりも、自分で考えて見つけ出した答えの方が、納得感があるのではないでしょうか。

僧侶は心法律やお金、家族関係の専門家ではありません。ただ、先ほどもお伝えしたように、相談者さんの心の中にあるであろう回答を、寄り添いながら一緒に探していくことはできるのではないかと思っています。

――では、どんな相談でも、受けられない相談はないということですね。

はい、もちろん要求にこたえられないことはあるでしょうが、どんな内容でも一緒になって考えることはできるはずです。だから、受けられない相談はないと私は思っています。人に話を聞いてもらい、受け止めてもらうことを繰り返す中で、本人の中で整理が進み、ご本人に新たな気づきが生まれたりする。そのお手伝いをするのが相談員の役目なんじゃないでしょうか。

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相談員に大切なのは「傾聴」の姿勢である

――僧籍はお持ちとはいえ、相談員として活動を始めた際、どのような点に気を付けましたか?

真っ先に意識したのは、傾聴の姿勢です。先ほどもお話したように、以前は会社員としてバリバリ仕事をしていたので、「悩みを抱える人に対して、励ましたり、気の利いた言葉を伝えたりすれば、考えを改めてくれるだろう」という浅はかな考えをもっていました。しかし、それは大きな間違いだったんですよね。

相談には他愛のない話も多いのですが、中には励ましてはいけないような悩みを持っている方もいます。また、関わり方によっては、かえって傷つけてしまうこともある。

――なるほど、「相談を受ける」というのは、とても繊細なものなのですね。

一番危ないのは、上から目線の価値観の押し付けです。相談される側は、どうしても「こうするべき」という話に行ってしまいがちです。でも、「こうするべき」と言われても、弱っている人ほどそれができないから悩んでいることも多い、自分の価値観を押し付けられたり、「べき論」を唱えられたり、否定されることが、相談者を一番傷つけてしまうことにつながります。

そのためには、「無条件、無批判に」聞くこと。関心を持って尋ねること。事柄よりも、その時の気持ちを確認すること。それが大切だと思っています。


相談員になるために、「体験学習」

――現在、築地本願寺では藤澤さんが講師役を務める相談員の学習会も始まっていると伺いました。

本当に悩んでいる方のお話を、いきなり何の訓練も受けていない人が受けるとよくないので、研修は必要だと思っています。座学も大切ですが、一番重要なのは体験学習だと思います。水泳にしても、座学で体の動かし方だけ習っても泳ぐことができないように、実際に悩みを聞くことを繰り返す必要があります。なので、まずは研修者同士でロールプレイング研修を行います。具体的には、研修者が相談者役と相談を受ける役に分かれて、模擬相談をするんです。そのやり取りをフィードバックして学びを深めるというもの。これを何度も繰り返すことで、相談を受けるときのクセや苦手な点に気づけるようになるといった形でしょうか。

――研修などで、相談員となる僧侶の方に意識して伝えていることはありますか?

僧侶の場合は、相談にきた方から、気の利いた一言を言うように期待されている側面もあるんですよね。その期待にこたえようとして、「いいことを言わなきゃ」と気負ってしまうことに気を付けなければなりません。だから、やはり一番大切なのは、「傾聴の姿勢」だと、相談員となる僧侶の方には、重ねてお伝えしています。

あと、自分が感情移入しすぎないことも大切だと思っています。以前、相手のお話を聞きながら泣いてしまった僧侶がいたのですが、それでは相手の感情を横取りすることになってしまい、相談者の方が泣けなくなってしまったのを見たことがあるからです。


どんな人にも気軽な気持ちで相談してほしい

――最後に、相談する方には、どんな気持ちで来てほしいですか? 

ぜひ、気軽に来てほしいですね。相談の内容は、どんなものでも構いません。いま相談にいらしている方も、深刻な悩みを持つ方もいれば、愚痴を言いに来る方もいらっしゃいます。僧侶たちは少なくとも寄り添う姿勢を持っているので、些細な悩みや他愛のない話でも結構なので、ぜひ来ていただけたらうれしいです。自分では悩みと思っていなくても、話をすることで、気が付ける部分もあると思いますから。

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【心に不安を抱えたときは、お問い合わせください】

●築地本願寺の「僧侶相談」
開催日:年中無休 午前9時~12時、13時~16時
先着順。無料。
※詳細については電話やネット等でお問い合わせを。

●築地本願寺 よろず僧談
実施場所:築地本願寺GINZAサロン
実施日:水・木曜日 午後1時30分~16時
人間関係や日頃の生活の不安など、気になるあれこれを僧侶に対面で相
談することができます。※築地本願寺倶楽部の会員対象
要予約制ですので、築地本願寺倶楽部サイトよりお申込みください。

※現在の予約状況はこちらからご確認いただけます。

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●東京ビハーラ 電話相談 ☎03-5565-3418
受付:月~金曜日(祝日除く)午後2時~5時
お一人で苦しみ悩むことや悲しく辛いこと、憤りなどをお持ちでしたら、ど
なたでもお電話ください。1回最長50分間で、総勢25名のスタッフが日替わ
りで聴聞させていただきます。

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自死(自殺)に関する相談・質問等を手紙(書簡)で受け付けます。
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●仏教情報センター 仏教テレフォン相談 ☎ 03-3811-7470

相談時間:月~金曜日の午前10時~12時、午後1時~4時までです。
浄土真宗は火曜日 午前10時~12時 午後1時~4時
150余名の僧侶がボランティアで参加しています。
どうぞお気軽におかけください。各宗派の僧侶がお応えしています。

※上記3団体は築地本願寺の運営する団体ではありません。