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差異化の根源は理念か?強みか?そして差異化は目的か?結果か?

武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエ イティブリーダシップ特論 第11回 三木 健 さん(2021年9月20日)

 クリエイティブリーダシップ特論第11回の講師は、グラフィックデザイナーで大阪芸術大学教授の三木 健さんです。事前に「めちゃめちゃおもろい大阪のデザイナー」との情報がありましたが、たしかにめっちゃおもろい(もちろんfunnyではなくinterrestingの意)ユニークな方で、京阪神奈に住んだ元関西人としては、大阪というよりご出身の神戸の匂いを感じる時間でした(そのあたりの違いに関西人は敏感です)。

 この日の三木さんのお話、自分の修士研究で頭を悩ましている部分にも重要なヒントがあり、このタイミングでのこの講義は大変有り難かったです。
 三木さんのデザインは、相手とのコミュニケーションを非常に重視されていて、会話の中に表れる言葉を繋いで「話すようにデザインする」、だから、ミーティングを終える頃には構想ができているそうです。

 このミーティングを終える頃には構想ができているという部分が、自分の知財に関する仕事とも共通していて、個々の発明を抽出するときも、その会社のオリジナリティである広義の知財を探りにいくときも、とにかく詰めたヒアリングをして、要するに「この部分をこういう風にまとめれば独自性を表現できるだろう」というアウトラインが、ミーティング後にはまとまっていることが多いからです。

 三木さんは、ブランディングを「顧客や地域社会との絆をむすぶこと」と定義され、① 心づくり、② 顔づくり、③ 体づくり、の3つのプロセスで進めると説明されました。
① 心づくり(Mind Identityィ):理念を分かりやすく成文化して社内外に浸透させること
② 顔づくり(Visual Identity):理念から導かれるデザイン
③ 体づくり(Behavior Identity):理念から広がる具体的な活動や方針
とのことですが、この「理念」につながる源の言葉を会話の中から探し、仮説を立て、その人(会社)の心や顔をデザインしていくとのことです。
(参考:心づくり、顔づくりも大切ですが、しっかりと体づくりをせねば

 このようにブランディングの根幹となる「理念」ですが、ものづくりをしている会社であれば、必ず理念はある。なぜならば、理念もなくものづくりなどできるはずがないからです。ただ、その理念が可視化されていないことが多く、それを目に見えるカタチにするのが、対話による「話すデザイン⇄聞くデザイン」です。
 ここまでの話を自分なりに可視化してみると、こんな感じ↓でしょうか。

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 こうした会社の心とも言える理念は、当然ながら人(会社)それぞれで、そこから表れてくるカタチもそれぞれが違う。三木さんはそれを人を包む建築物のように表現して示されましたが、そうやってその会社独自のブランディングが進められ、お客様、そのさらに先のお客様、地域社会との関係性がつながれていくことになります。
 理念を探り当て、そこからステークホルダーとの関係性を構築していけば、それはその会社独自のものとなり、結果的に他と差異化される、ということですね。

 さて、対話を重視し、そこから独自の要素を探り出そうとするのは、先ほど書いたように、知財に関する仕事でも同じです。
 ただ、そこから探り出すのは、理念のような内面的なものではなく、具体的な要素であり(下の図であればXという要素)、主観的な想いではなく、客観的に存在する現実(技術要素、情報の蓄積、仕事のやり方、特殊な設備とその扱い方etc.)です。それを類似性の高い他者との差異分析によって明らかにしていきますが、こうした客観的なアプローチによって炙り出されるのが、その会社のいわゆる「強み」とも言われるものです。
 ビジネスシーン(特にSWOT分析とかの場面)では、この「強み」がわりとザックリ語られがちな印象もありますが、そこを精緻に、要素分解・差異分析により可視化していくのが知財的な思考の特徴です。

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 「理念」も「強み」も、どちらもその会社「らしさ」であり、ブランディングや新規事業の起点として語られることが多い要素ですが、前者が主観的であるのに対し、後者は客観的。では両者の関係って、どのように整理して考えればよいのだろうか、というあたりが、修士研究でも頭を悩ましているところです。
 デザイナーからこうした客観的なアプローチを耳にした記憶がないので、「その会社らしさを考える際に、他との差異分析はしないのでしょうか?そういった客観的なアプローチをどのように考えますか?」と三木さんに質問してみたかったのですが、質問をチャットに書き込もうとしている間にタイムオーバーとなってしまいました。このあたりがメール世代(というか電話世代かな?)の辛いところで...

 差異分析によって明らかになる現存しているその会社のオリジナリティ、それはその会社の知識や経験、姿勢などから生まれるものですが(そうした知識や経験などが広義の知的財産でもありますが)、その会社の知識や経験、姿勢を何が生み出しているかというと、その根っこにあるのは、「こういう仕事をしたい」「こういう存在でいたい」という会社の理念です。
 現存している会社のオリジナリティ、会社の強みは、そうした会社の理念と、顧客をはじめとする外部からの期待が重なり合う部分に生まれたものであり、そういう意味では不変ではない。そのため、現存するオリジナリティや強みに固執することは、現状維持バイアスにつながり、外部環境が変化するとズレが生じてしまいかねません。だから将来を構想する際には、現存するオリジナリティや強みを把握したところで折り返すのではなく、もっと深いところまで掘る作業が必要。今の差異化が将来の差異化につながるわけではなく、差異化の根源はその会社にしかない理念にあるのだから。そしてその差異化を、A社と比べてどうとかB製品と比べてどうとか、そういうレベルで捉え、差異化自体を目標とするのではなく、理念をベースに築いた周囲との関係性が自社を固有の存在としていく(差異化はあくまで結果)というのが目指すべき姿、ということではないでしょうか。

 じゃあ理念万能、差異分析は無意味かというと、そういうわけでもなくて、現時点で少なくとも3つの意味があると思っています。

 1つめは、差異分析によって明らかになったオリジナリティは、理念をわかりやすく表現する材料になるということ。
 理念は固有のものであるはずなのですが、ものづくり企業だと「お客様のために」「細部へのこだわり」「一つひとつを丁寧に心をこめて」とか、共通点も多くなってしまいがちです。良くできている、ものづくり企業のWebサイトやPR動画などを見ると、1つだけだと「おーっ!」と思うけれども、いくつも見ていると同じような作りに見えてきてしまう印象があります。そこに差異分析により抽出した具体的な個性を織り込むと、それが良いスパイスとして効いてくるはずです。

 2つめは、抽出した差異点には、必ずそうなった理由があるはずです。
 そこを追求していく過程で理念が見えてくるケースもあり、他者との対比、差異点の抽出も、理念を炙り出すために有効な対話のテーマになるのではないでしょうか。現存する差異点は、理念と外部からの期待との交点に現れたものであり、自社の存在意義を他者の視点も含めて見直す意味もあるはずです。

 3つめは、理念から未来像を構想した上で、具体的に何から始めるかを検討する際には、当然ながら自らの強みを活かせる領域から考えるのが合理的です。
 構想の時間軸に応じて、強み⇄理念のバランスを調整していくことが必要なのではないでしょうか。

 後半はすっかり課題の講義レポートから離れてしまいましたが、今回はそんなところで。

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