タルタルソースとパフィーの思い出
年齢とともに、揚げ物をセーブする必要が出てきているので、かりっとよく揚がった衣の歯触りを外食で愉しむことはめったにない。しかし、本当は揚げ物が好きだ。特に、揚げ物にタルタルソースをたっぷりかけて食べるとなると、これはこたえられない。
タルタルソースといえば、今ではよく水けを絞ったピクルスのみじん切りをマヨネーズで和えるものが主流だが、家庭の味としておなじみの、ゆでたまごの粗みじんとたまねぎの刻んだやつをマヨネーズとともにざっくりと混ぜたもののほうが好きだ。ちなみにアップルパイも、パイの上にたっぷりのアプリコットジャムを塗ったジャンクな仕上がりなものが好きだ(全く関係ないが)
忘れられないタルタルメニューと言えば、大阪のとある居酒屋のカキフライ。おつまみとして頼んだのだが、4つほど、大振りなカキフライの隣に、小さなお椀にたっぷりのタルタルソースを付けてくれていた。一つのカキフライに、山盛りのタルタルを「のっけ盛」して食べる。ほんとうにおいしいカキフライはレモンとしおで食べるべき?確かに、カキフライはそうあるべきかもしれないが、タルタルを口いっぱいに頬張りながら、良く冷えた生ビールをごくりとやってみたい。そう、私はそれをやってみたいだけなのだ。夢見心地の一品だった。
もうひとつ、忘れられないメニューと言えば、エビカツ定食。学生時代によく通っていた店の名物メニューだが、俵型に成形されたエビカツをカリッと揚げて輪切りにしたところに、たっぷりのタルタルソースをかけて提供してくれる。皿の上ではタルタルに「浸かった」エビカツが。衣のカリカリが失われないうちに食べてほしいという体である。付け合わせのキャベツの千切りやマカロニサラダにまでタルタルが侵食していき…夢のコラボレーション。若いころは、これをおかずに飯を食べても太らなかったのだから、たいしたものだ(?)
エビカツの店はいつも満員。学生たちが無心にカウンター越しにカツに食らいついていた。店主とみられる男性は、何人もの従業員を従えながら、おびただしい数のエビカツを揚げては皿に盛っていく。活気があって、みているだけでも楽しかったことを覚えている。
ある日、エビカツを食べに行ったところ、有線で契約しているのか、店内にパフィーの「サーキットの娘」が流れていた。友人とカツを待っていたところ、おもむろに店主が大きな音を立てて「ぶちっ」とBGMの音声を突然切った。
おそらく、一日中パフィーがヘビーローテーションされていて、耐えきれなかったとみられる。
学生たちは静まり返り、話をするのをやめた。店内にはパフィーの代わりに換気扇の音が絶え間なく流れていた。
あれから何十年も経過し、飲食店でJPOPが流れることも、ましてやヘビーローテーションで流れ続けることもなくなった。しかし、今でもエビカツ屋は健在だ。タルタルソースまみれの一皿を、今日もだれかがつついている思うと、陽気な気分になるのと同時に、途中で途切れたパフィーを思いだす。
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