中二階で噛みしめたい「墨繪パン」新宿

バゲットサンドってほんとうに美味いでしょうか、時折考えることがある。

まだまだ「フランスパン」との呼び方しか知らず、今ほど店頭で販売されていなかったころ、「フランスパン」ていうのは、硬くてゴリゴリするものが多かったと思う。

おしゃれなバゲットサンドなどは、見た目はいいが、いざ口に入れようとするとごり、ごりごりごりとバゲットの周りをかみ砕いて飲み込む必要があることも。もう、美味しいかどうかは関係ない。咀嚼しやすいように何とか臼歯でグルテンの壁をすり潰すことが至上命題であった。

しかし、今現在では各店舗で研究がなされたのか、硬いバゲットはもちろん、サンドウィッチやそのままちぎって食べることに適した柔らかいバゲットも多く売られるようになった。長生きはするものである。

新宿駅西口メトロ食堂街、小田急線の管轄と思われる、地下街が何階層かになっている飲食店街に、墨繪(すみのえ)のレストランとパン屋がある。どちらも人気店だ。レストランの方もおいしいのだが、パン屋の人気ぶりにも注目される。

ガラスケース越しに、バゲット生地と思われる、もちもちとした食感の手ごろな大きさのパンが何種類も並んでいる。そして、お客の方もパンに負けずに行列を作って並んでいる。こちらのパンは、すべて焼きたてということだが、疑う余地もない。並んだお客がその生き証人となっている。オーブンから出したばかりの鉄板からガラスのショーケースにパンを移した、そのそばから5こ、10こと、持ち帰りの紙袋に入れられて、飛ぶように売れていく。

シンプルなフランスパン、麦パンなどは、見た目にはとくにかわったところはない。しかし焼きたてをスライスして口に入れると、「!」と小麦の香ばしさとほのかな甘みに、もう1まい、もう1枚と食が進む。ハーフの大きさならバターもジャムも何もつけずにぺろりと平らげてしまう。ちょっとだけもちもち柔らかいのがありがたい。

揚げた玉ねぎの破片を練りこんだオニオンパンやオレンジピールを刻んで練りこんだオレンジパン。こうした変わりパンは、紙の包み紙にジンわり油がしみこむので、「ちょっとカロリーが…」と心配になる。しかし、うま味と油は表裏一体。この変わりパンがまたうまい。やっぱり何もつけずに一つくらいならぺろりと平らげてしまう。

アンチョビオリーブパンやチーズパンなど、家で上手にスライスしたならば、もう立派なおつまみになる。ビールや自家製のハイボールに合わせてどうぞ。野菜のピクルスなど付け加えれば、ほかに何も用意する必要がないのではないか。

調子に乗って、ドライイチジクのパンや、角切りのベーコンが入ったぜいたくなパンなども賞味していく……おそらくパンだけで1500カロリー近くを消費してしまうのではないか。

もちもちのバゲットの盲点は食いすぎることだ。ごりごり硬いバゲットをしかめっ面で食べたほうが健康には良いのだろう。

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