見出し画像

「青春18きっぷ」で1泊2日 中国地方ローカル線乗りつぶしの旅(1日目)

未乗線区乗りつぶし状況(旅行前)

「ほとんど電車に乗ってばかりじゃん…」
予定表を渡すと、嫁があきれてつぶやいた。コロナ禍でずっと中断していた日本国内の鉄道線を乗りつぶす目標を、再開することにし、交渉して夏休みに2日間だけ、自由な時間を得ることができた。上のグラフは、私の未乗線区の状況である。コロナ禍の間に日高本線が廃止されるなどしているので、「自然減」になっているが、全国的な分散状況をみると、中国地方に多くの未乗線区が集中している。今回はここに照準を絞った。

のぞみ81号が東京駅を出発すると、窓に水滴がついていた。宇都宮線で線路内立ち入りがあり、6分ほど遅れた上に、自宅最寄駅から東京駅までは「青春18きっぷ」を使ったために、東京駅の新幹線乗り場の自動改札を通れずにあせったが、何とか間に合った。静岡県に入ると雨脚がひどくなったが、愛知県に入るころには雨はやんでいた。台風が近づいている影響か、天候が目まぐるしい。

岡山駅で下車。ここから再び「青春18きっぷ」を使う。お盆休みで岡山駅は人が多かったが、端にある吉備線の10番ホームまで行くと、人の姿はまばらだった。まずは未乗の吉備線から制覇していく。吉備線は「桃太郎線」という通称があり、車内放送のチャイムも「桃太郎さん、桃太郎さん」のメロディが使われている。沿線には神社や「鬼の城」など、古代史の舞台でもある。思わず途中下車したくなるが、今日は観光が目的ではない。

終点の総社で接続していた伯備線の電車に一駅だけ乗り、清音駅へ。ここから井原鉄道という第三セクターに乗る。「青春18きっぷ」はJR線しか乗れないので、井原鉄道の窓口で終点の神辺までの切符を買おうとしたら、「スーパーホリデーパス」という全線フリー切符をすすめられる。この方が終点まで行くだけでも30円安いそうだ。

井原鉄道のディーゼルカー

シルバーの車体の井原鉄道のディーゼルカーは伯備線をまたぐと大きく右にカーブして、小田川を長い鉄橋で渡る。三谷駅あたりでバケツの水をひっくり返したような大雨になる。あまりに大雨だと運転見合わせなどもあるのでやきもきするが、激しい雨だったのはほんの数分で、終点の神辺に到着したころにはまた雨はやんでいた。

終点の神辺はJR福塩線との乗換駅。福塩線は山陽本線の福山と芸備線の塩町を結ぶローカル線で、全線を走破するため一旦、福山に出る。福山は広島県内でも大きな町で、新幹線の駅もあれば、しまなみ海道への入り口でもある交通の要衝だ。福塩線のホームからは、福山城も見える。すれ違った少年の野球帽がカープのもので、広島に来たなと実感する。しかし、ここでも観光をせず、折り返しの合間を縫って昼食。名物の尾道ラーメンを食べる。甘口の醤油ラーメンでとてもうまいのだが、脂がスープの上に載っているのでなかなか冷めない。

福塩線の電車と福山城

今度は反対方向の福塩線の電車に乗り、府中へ。クーラーが効いている社内で、ほどよく揺れる。満腹なので眠気が襲ってきた。福塩線は府中を境に、電化区間と非電化区間に分かれる。利用客も多く市街地の中を走る福山と府中の間はそこそこ本数があるのだが、ここから先は一気に本数が減る。昼間に乗ろうとすると、本当に選択肢がない。そんな貴重な15時5分発のディーゼルカーはたったの1両で、出発すると川沿いに山を登る。緑が一気に濃くなり、誰もいない小駅のホームで扉が開くと、川のせせらぎが聞こえてくる。

福塩線非電化区間の車窓

塩町で芸備線と合流。反対のホームに芸備線の備後庄原行きが接続を取っているが、私はこの先のことを考えて今乗っている列車の終着である三次まで行くことにした。この後の予定は、中国山地を背骨のように走る芸備線で、岡山県の山中にある新見まで抜ける予定だが、芸備線のこの区間は近年、JR西日本が輸送密度を公表し、JR西日本が管轄する線区の中でも指折りに低い過疎路線である。中でも木次線との乗換駅である備後落合駅で運転系統が別れるのだが、同じ線区であるにもかかわらず接続があまり考慮されていない。福塩線の乗車難易度も高いが、それ以上に芸備線の三次と新見の間は難攻不落の城である。備後落合駅では約1時間半待たされることになるが、山の中で店も何もないような場所だから、夕食か何かを買って食べようと思ったのである。三次駅は芸備線で最大の駅であり、駅前にスーパーやコンビニはあるだろう。

ところが、その予想は外れた。バスターミナルの隣にある観光案内所に土産物屋があり、そこで菓子類が買える程度。少し先に「すき家」の看板も見えたが、それは食指が動かなかった。時間切れとなったのであきらめて、自販機で飲み物だけ買って、17時30分発の備後落合行きに乗る。10人ほどの乗客があったが、いずれも庄原市の中心である備後庄原駅で降りていった。入れ違いに部活帰りの4人の高校生が乗り込んできて、出発。日が暮れ、線路は一層、緑と暗闇の中に溶け込んでいく。

いつの間にか路線バスが並走していて、目を凝らして行き先を見ると「西城」とある。その備後西城で4人の高校生のうち3人が下車。もう1人は次の比婆山で降りていった。その次が備後落合だが、本当にこの先に駅などあるのだろうかと思えるほどの山峡を、ゆっくりとディーゼルカーは進んでいく。やがて、眼下から木次線の線路が近づいてきて、黄昏の備後落合駅に着いた。

(続く)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?