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《散文》外界

予定よりも遅れて産まれた
あの、まだ歩くことを覚えたくらいの頃
自分の世界とそれ以外の世界しかなくて
自分がみている世界がすべてだった
境界線をはっきりと足元にひいて
こちらとあちらをきっちりと分けていた
おとなになってもその感覚はかわらなくて
打ち破ろうにもうまくいかなかった

そんななか世界に大きな病が流行した
はじめは驚いたけれど
家にいることを世界が推奨し賛美するようになって
わたしのこもり生活には拍車と磨きがかかり
なぜだか前よりも生きやすくなった
同じようにこもっていた知らない誰かも
しずかにほっとしていたかもしれない
この病がおさまったあとも
ずっとこのままであったらと願った
(物理的にも心理的にも)こもることを当たり前のこととして生きてきた人たちの
最後の救いだった

岩のかげに隠れた虹色の貝
ひっそりと だけど大胆に生きていられる
ときには水の漂いに身をまかせて
波の腕に抱かれて
そうすると境界線は曖昧になって
遠くに感じていたところにも
やっと踏み出せそうな気がする
ようやく
ちょうどよく誰かと話し
ちょうどよく手を取り合える気がする
この果てしないようにみえていた世界で

古屋朋