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砧の音が催す黄葉(和歌)

風寒み我が唐衣打つ時ぞ
萩の下葉も色まさりける
(『拾遺和歌集』巻三・秋・187・紀貫之)


(意訳)
風が寒くなったので、
衣を柔らかくしようと砧を打つその時
ああ、萩の下葉は一段と色づいたようだ。


 「衣を打つ」というのは、表面を滑らかにするために衣を砧(台)に置いて木槌で打つという昔の習慣です。


 気候の変化によるものであるはずの黄葉が、砧の音によって催されたかのよう。
 漸次的であるはずの黄葉が、歌に切り取られたこの瞬間に、一気に色濃くなったかのよう。

 そんな、言葉によって表された音と色だけの世界が好きです。

 もしかしてもしかすると、萩の黄葉は男性の心変わりを暗示しているのかもしれません。衣を打つ行為は、伝統的に夫の帰りを健気に待つ女性を思わせますから。そう深読みすると、物悲しさが増しますね。


 明日から12月。滑り込み秋の和歌、ギリギリセーフ!

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