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BTS:花様年華『花様年華:on stage:prologue』の物語を書いてみる


前回書いた物語の続きとなります。

まだご覧になっていない方は前回の記事からお読みいただけると幸いです↓


今回は『I NEED U』に続く物語です。

もとになるのはこちらの動画↓


BTSの楽曲も盛り込まれておりますが、Music Videoというよりはひとつのショートフィルムのような内容になっています。

冒頭のシーンから『I NEED U』の続きであることは明白なため、前回につなげて、物語の続きとして書いていこうと思います。

なお、引用部分は動画に記載された文字か歌詞(『Butterfly』の和訳)です。




では、始めます。


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テヒョンは小さな窓から差し込む光を見上げた。

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朝か…。

あの後、家を飛び出して、必死で走って、どこをどう通ってきたのか、よく思い出せない。

…気がついたら、「この場所」に来ていた。

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…ひどく、疲れた。

…からだが、重い。

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そうだ、血だ…。

消さないと…。

はやく、キレイに消さないと…。

でも、どうしよう。
ぬぐっても、ぬぐっても消えない。

消えないんだ。



誰か…、

誰かに…。


テヒョンは震える手で携帯電話を取り出し電話をかけた。

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何度かのコールの後、聴き慣れたナムジュンの声が聞こえた。


「ヒョン…、俺、今、すごく会いたいんです…」

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「あの場所」にいますから。



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人には心の拠り所となる場所や瞬間がある。

拠り所となる一方で、いつまでも絡みついて離れない、足枷のような存在になることもある。

その足枷が、高く飛び立つことを阻む可能性は否めない。


痛みを伴う羽ばたき。

飛び立たなければならない。

足枷を外して。

美しい鱗粉が口もとまで降り積もり、息ができなくなる前に。






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7人が一緒だった頃、溜まり場にしていた秘密の場所があった。

廃墟となった小さな家屋とプールがあり、7人にとっては遊び場であり、隠れ家。


家にいたくなくて、居場所を探していたテヒョンが山中で偶然見つけた場所だった。

最後に行ったのはいつだったか。

テヒョンはその日もナムジュンを呼び出し、ほかのメンバーも集まることになっていた。

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先に着いたテヒョンはプールの真ん中に置き去りにされたマットレスの上で横になり、高い空を見上げていた。

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ふと思い出し、ポケットから一枚のポラロイド写真を取り出す。

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古い写真。

何度も取り出しては眺めていたから、すっかり擦り切れている。

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この世にたった一枚だけ存在する父と子を写すもの。


父は「この時」なら少しは可愛がってくれていたのだろうか。

少しでも愛されていたら、少しくらいは記憶に残るものだ。


しかし、どんなに記憶をさかのぼっても、愛された記憶は思い出せない。

それが答えだ。

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テヒョンはポラロイド写真をクシャリと握りしめた。




しばらくしてほかのメンバーも「その場所」へ到着した。

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「おい、あいつあんなところで寝てるんじゃないのか?」


巨大なプールの真ん中で寝転び、微動だにしないテヒョンのもとへ向かうメンバーたち。

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「おい、なにしてんだ?」

ナムジュンがテヒョンを揺り起こす。

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テヒョンはゆっくりと目を開け、ナムジュンの輝く笑顔を目にした。


そうだ、この笑顔に会いたかった。


差し出された手を取り立ち上がると、久々の再会に顔がほころんだ。

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そんな様子をプールの上から撮影している人物がいた。

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「あ、ソクジンヒョンだ!」

ジョングクが一番最初に気がついて指さした先にはビデオカメラを手にしたソクジンがいた。

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これで、メンバーが全員そろった。

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一緒なら、笑うことができる

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他愛もないことではしゃいで、声が枯れるほど大きな声で笑った。

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ソクジンはいまの「この時」を残しておきたくて、ずっとフィルムを回し続けた。



ふとした視線の先に、1匹の蝶を見つけカメラでとらえる。

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まだ時期は早いはずなのに、もう蝶がいるのか。


良く考えたら、蝶って不思議だな。

卵から、幼虫になり、蛹になり、やがて成虫になる。

なんでそんなに複雑な工程で生まれてくるんだ。

しかも長い時間をかけて、いろいろな形態を経て美しい蝶になっても、脆くて弱いし、あっという間に死んでしまう。

…そういえば、蝶の羽ばたきで起きた風が遠くのどこかで竜巻になることを何て言ったっけ?

そうだ、バタフライエフェクトだ。

そんなこと、実際にあるのかな。

僕たちはどうだろう。

蝶のように、弱くて、脆くて、儚い存在なのか。

蝶のように、ちょっとした行動で世界を変えることもあるのかな。


まぁ、みんな蝶っていうタイプじゃないけど。

まだまだ地を這う芋虫みたいなものだ。

いつかは蝶になれるのかな。

すぐに死んでしまうなら、芋虫のままの方が幸せか?

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まぁ、どっちでもいいか。

ただ、みんなが笑ってる。


それだけで、世界は美しく感じるってだけだ。










夕暮れ近く、テヒョンは廃墟の屋根にのぼり、目の前に広がる世界を眺めていた。

「おい、テヒョン!」

誰かが叫ぶ。

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なぜかはわからないけど、いつも頭の中にあったイメージ。


高いところから飛び跳ねたら、空を飛べるかな。

そんな話をしたのはソクジンヒョンとだったっけ。

でも、こんなに低い場所からだったら一瞬で地面についてしまうか。

…もっと高いところからなら?

見上げるくらいにもっともっと高いところから飛んで蝶のように羽ばたいたら、世界を変えられるだろうか。





やがて夜の帳が下りて、冷え込んだために廃墟のガラス窓は蒸気で濁り、キャンバスとなった。

ナムジュンがおもむろに文字を書く。

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生き残らなければならない


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火を囲み、廃墟の壁をスクリーンにして、ソクジンが撮影した動画の鑑賞会が開かれた。

スクリーンに映る7人はいつも笑っていた。

豪華な食事や飲み物はないけれど、嬉しくて、楽しくて、火を囲む7人もまた笑っていた。

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しかし、たまにふと寂しく、不安にかられることもある。

ライターの火みたいに、いまの「この時」も一瞬で消え去るものかもしれない、という憂いが脳裏をかすめるからだ。

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ソクジンが一枚のポラロイド写真を取り出す。


いつか行った海だ。

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「僕たち、ここへ行こうか?」

ソクジンの問いかけに、全員がうなずいた。


行こう、一緒に、「あの場所」へ。




ライターの火は、簡単に吹き消せる。

風にかき消されたり、誰かに吹き消される恐怖に怯えるなら、自分で吹き消せばいい。

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大丈夫。

火が消えても、僕たちは笑っていられるから。

吹き消すのは光じゃない。

僕らを侵食しようとする闇だ。





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7人は車を走らせ、海へとやってきた。

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まだ目的地ではないけれど、ほら、どこでだって僕たちは笑顔だ。

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羽なんかなくても、僕たちは羽ばたくことができる。

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火が消えても、太陽の下なら笑顔が見える。

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そうだな、世界はとても美しい。

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一緒なら、笑うことができるんだ。

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なにも考えないで
君は何の言葉も言わないで
ただ僕に笑ってよ


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どうか、僕から「この場所」を、「この時」を奪わないで。







旅を続けていた7人は、明け方近くにガソリンスタンドへ立ち寄った。

流行りの歌が流れている。

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手慣れたナムジュンが手早く給油する。

運転席からその様子を覗き込むソクジンに気づき、ポラロイドカメラを渡すようにうながす。

いつも弟たちを撮るばかりで撮られることがないソクジンを写真におさめたかったのだ。

後部座席からユンギも顔を出したところで、シャッターを切る。

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給油を終え、浮かび上がった写真をソクジンとユンギに自慢げに見せた後、ナムジュンはダッシュボードにふたりの写真をしまい込んだ。


食料を調達してきたホソクは、荷台で眠るジミンに毛布をそっとかけた。

とてもよく眠っている。

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ホソクも車に乗り込み、再び車は走り出した。

目的地まで先はまだ長い。










ほぼ丸一日車を走らせ、「その場所」に着いたのは日もずいぶんと傾いた頃だった。

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長い旅だったのでみんな眠っていた。


最初に目覚めたジョングクはみんなを起こさないようにそっと車外に出た。

目の前に広がる景色を自分の中にあるフィルムにおさめようと、指で作ったレンズを覗き込む。

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しばらくしてユンギがやってきて、ジョングクの隣に静かに座った。

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少し肌寒かったが、それを知ってか知らずかユンギが肩を組んでくれたので寒さは感じなくなった。

なかなか口には出せないが、誰かが隣に座って、一緒に美しい景色を見てくれることがジョングクには少し気恥ずかしく、とても嬉しいことに思えた。

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もうすぐ日が沈むから、とふたりは立ち上がり、眠っているメンバーを起こしに向かう。

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7人は埠頭の端に並んで座り、日の入りを見ることにした。

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何も考えないで
君は何の言葉も言わないで
ただ僕に笑ってよ

僕は未だに信じられない
このすべてが夢のようだよ
消えようとしないで

Is it true? Is it true?
You, you…
とても美しくて怖い
Untrue Untrue
You, you, you…



テヒョンがふと空を見上げる。

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ずいぶん高い鉄塔だ。

何か、作ろうとしたのかな。

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ヒョンに聞いてみようか。

…いや、ダメって言われるよな。

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テヒョンは立ち上がり、ひとり鉄塔へ向かった。

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一段ずつのぼる。

少しずつ空が近くなる。

高いところは少し苦手だった。

けれど、今は不思議と怖くない。


もうすぐ「そこ」へたどり着く。

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ソクジンはテヒョンがいないことに気づき、空を見上げた。

テヒョン?

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あいつ、なんであんなところにいるんだ?

不思議に思いながらも、構えていたカメラを鉄塔の上へ向けた。

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ほかのメンバーも気づき始め、鉄塔の上を見上げた。


いつものようにふざけて目立とうとしているのだと思った。

やがて、様子がおかしいことに気づき、口々に名前を叫ぶ。

「テヒョン!」

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テヒョンはようやく見つけ、ようやくたどり着いた「この場所」から、美しい世界を見ていた。

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そばにいてくれないか
僕に約束してくれないか
手を触れたら
飛んでしまうだろうか
壊れてしまうだろうか
怖い 怖い 怖いんだ

時間を止めてくれないか
この瞬間が過ぎたら
なかったことになるんじゃないか
君を失ってしまうんじゃないか
怖い 怖い 怖いんだ


みんな、俺は大丈夫だよ。

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怖くなんてないから。

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羽ばたいて、みんなや僕の世界を変えたいんだ。

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テヒョンは駆け出し思いっきり地面を蹴った。

大きく羽ばたいて、空の一部になった。


Butterfly, like a butterfly
まるで蝶、そう、蝶のように

Butterfly, like a butterfly
まるで蝶、そう、蝶のように

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以上です。


今回もタイムループやスメラルドの存在はなく、前回の流れからすると、現時点からの回想シーンのように思えます。


最後のシーン、テヒョンはなぜ飛んだのか、というところが一番の謎だったので、各シーンから伏線として少しずつ脚色いたしました。

一番の悩みどころは、朝日なのか夕陽なのか?でしたが、少しずつトワイライトカラーに変わっている様な気がしたので、夕陽の設定といたしました。


なお、『Butterfly』日本語訳はVLIVEの公式MVを参考にしています↓

動画内で記載された文字についても、日本語訳が表示されるのでありがたいです。


花様年華の物語は辛いシーンが多く、なかなか触れるのも怖いと感じるものですが、やはり物語も構成もメンバーの演技も素晴らしく、美しい作品だと改めて思いました。


長くなりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございます😊

引き続き、花様年華について考えていきたいと思います。

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