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【インタビュー】「世の中の摩擦が減るような、お互いを『知る』場所に」 広報(テクノツール株式会社) 干場 慎也

2023年12月、重度の肢体障がい者も対象とした就労継続支援B型事業所「テクノベース」が開設しました。
そのテクノベースの母体であるテクノツールで働く干場に、テクノベースの開設に感じることや、今後一緒に取り組んでいきたいことなどを聞きました。

干場 慎也
広報(テクノツール株式会社*)
*テクノベース株式会社の母体となる、アシスティブテクノロジーを提供する会社

1996年4月16日生まれ。岡山県立大学保健福祉学部保健福祉学科卒業。2021年、テクノツール株式会社に入社し、広報業務に従事している。脊髄性筋萎縮症Ⅲ型(SMA1)当事者であり、普段は電動車椅子を使用した生活をしている。

01:テクノベースの開設という新しいチャレンジに対して、どのように感じていますか?

私がテクノツールに入社した2021年頃には、重度の身体障がいを持っている人がもっと活躍できる場を作りたいというような話がすでに出ていました。それがサービス管理責任者の石田さんや代表の島田さんの尽力によってかたちになって、ようやく錦を上げられる!という気持ちです。しかも、就労支援の分野で多くのノウハウを持っているLITALICOさんと一緒に、という点もとてもわくわくしています。LITALICOさんは、以前事業所の一つを見学させて頂いたことがありますが、とても丁寧に体系化されたノウハウを構築されているという印象でした。そんな会社と一緒に踏み出せたこと、一緒にチャレンジしてみたいと思ってもらえたということがとても嬉しいです。

02:どのような方にテクノベースを活用してもらいたいと思いますか?

色々な挑戦をしてみたい、様々なものを見てみたいと思いながら、身体的な制限等で踏み出せていない人たちに、テクノベースの存在が届くといいなと思っています。私自身の周りでも、障がいがあることで、自分にできるかできないかと迷う以前に諦めて、鬱屈した思いを持っている人も多くいる印象です。現状に満足してはいないけれど、どうしようもできないと思っているというか。そういう人たちがテクノベースの存在を知れば、「あれ?もしかしたら何かできるかも」とまずは感じてもらえるんじゃないかと思っています。そして、勇気を出して一歩を踏み出してもらって、一人、また一人と、そういう人たちと繋がっていけたらな、と思います。

03:今後、干場さんご自身はどんな仕事に挑戦していきたいですか?

私はテクノベースの母体であるテクノツールで広報として働いているので、そこで発信するメッセージの普遍性や信頼性をもっと高めていきたいと考えています。私自身に身体障がいがあるので、いち当事者として発信できる反面、基本一人で業務を進めるため「私一人」の意見に偏ってしまいがちというのが現状です。私一人の意見ではなく、色々な人や意見を体系化して、一人でも多くの視点を加えて、発信するメッセージの質を上げていきたいというのが今の目標です。

04:干場さんご自身は、テクノベースとどんな風に関わっていかれる予定でしょうか?

テクノツールの広報として、テクノベースの取り組みやこれから積み重ねられていく事例を、きちんと発信していきたいです。発信する内容についてはまだまだこれから模索しますが、障がいを持っている当事者からしたら、「面接を受けて、採用されて、仕事をする」ということ自体が貴重な事例の一つです。そういった「一般的な手続きを踏んだ、平等な機会のある採用」がきちんとショーケースとして見えることに価値があると思うので、それは広報として伝えるべきだと思っています。
また、先ほどの私の目標にも関係しますが、そのテクノツールの広報業務を一緒にやってもらえないかと考えています。テクノベースはまさに「当事者」が多く集まる場なので、ぜひ様々な意見や視点を頂けたら。実務的な部分でも、私一人ではなかなか手が回っていない部分もあるので、内容的にも作業効率的にも質の高い「広報チーム」を一緒に作っていけたら、と期待しています。

05:テクノベースは、社会にどんな影響を与えられると思いますか?

多様性というキーワードが一般的になってきた中で、新しい技術や商品を作る時にアクセシビリティについても検討される機会が増えていると思います。ただ、「やる風潮だから考える」というモチベーションでは、本当に必要なものは作りにくいのではないかと感じています。その技術がどんな人の役に立つのか、どういう人のためにあるのか。イメージとしての「障がい者」ではなく、実際に顔の見える「一人の人間」として知ってもらう、実感してもらうこと。それが、お互いに摩擦を生まないために大切なのだと様々な企業さんの話を伺っていて思います。

そのために、例えばテクノベースのメンバーに開発段階のコンセプト立案から関わってもらう、といった仕事の依頼も可能ではないでしょうか。もちろん仕事をする上で様々に制約があるメンバーもいますが、世の中の「仕事ができる人」の型にはまらない人は「できない人」、という風潮は個人的には疑問です。テクノベースのメンバーと働くことで、その企業に、生産性とは別のベクトルの評価基準が新しく生まれるかもしれません。そうやって少しずつ、お互いに視野が広がったり摩擦が減ったりするきっかけを、テクノベースから作っていけるんじゃないかと思っています。