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ポール・サイモン「七つの詩篇」:Paul Simon "Seven Psalms"

ついに、5/19にポール・サイモンの 7年ぶりのアルバム "Seven Psalms" がリリースされた。静かなアコースティックな音作りと楽曲で静かな感動に震える。美しいジャケ写もいい。風景画家トーマス・モラン(1837 - 1926)の『二羽のフクロウ』の一部を拡大したものだということである。

リリースは先月に予告され、本人のインタビューも聞けるトレーラーが YouTube に上がっていた。少しづつ少しづつ音楽を創りこんでいる様子が垣間見える。妥協を許さない姿勢が迫力だ。ジャズ・トランペットのウイントン・マルサリスのインタビューも含まれている。

この冒頭にポール・サイモン自らの言葉でこう語っている。

"On January 15th 2019, I had a dream that said you working on the piece called Seven Psalms. The dream was so strong that I got up and wrote down. But I had no idea what I heard meant. Gradually information would come."

Paul Simon - Seven Psalms Trailer (YouTube) 0'15" - 0' 38"
私がディクテーションしたので少々誤りがあるかもしれない。

2019年1月15日に見た夢をきっかけに、それ以来、夢を見て2時や3時に起きてはその中で得た言葉を、都度、書き留めて7曲の歌としてまとめ上げたということだ。トータル 33分だが、1曲のあつかいとなっていて、全曲を通しで聴くことが意図されている。

印象的な鐘のような音4つから始まり、ポール・サイモンの柔らかいギターの音が導入され、女声コーラスが軽くかぶるイントロから荘厳な世界が広がる。すべてがアコースティック楽器と声の演奏で作られていて、音もリズムもしなやかで柔らかい。

それにしてもポール・サイモンのギターの音は柔らかい。テンションのはいる少し複雑な和声とメロディが、開放弦をうまく響かせて優しく響く。時折キュキュっと鳴る、左手の指が弦を滑る音も心地よい。

女性ボーカルはイギリスのヴォーカルアンサンブル、ヴォーチェス8、さらに1992年に結婚したエディ・ブリケルとのデュエットも聞かせる。


ポール・サイモンは、2018年にツアー活動から引退している。バンドのメンバーのカメルーンのギタリスト Vincent Nguini が前年に亡くなったことがきっかけだという。1990年の "The Rhythm of the Saint"に参加して以来、ポール・サイモンのバック・バンドの音を支えてきた一人だ。

ポール・サイモンのコンサート活動の最後のころのバックのメンバーは、1986年の "Glaceland" からのベーシスト Bakithi Kumalo といったアフリカ出身のミュージシャンも交えて、以前からのジャズ・フュージョン、レゲエやフォルクローレやゴスペル、といった要素に加えて、"Graceland" 以降に取り入れてきたアフリカやブラジルの要素を見事にブレンドしたとても色彩豊かな音を作る。往年のヒット曲の数々も新しい魅力をもって生き返るようで、ポール・サイモンも満足そうに楽しそうに演奏する姿が印象的だった。

2017年のロンドンの Hyde Park でのライブを収めたアルバムを聴くとよくわかる。


今回のアルバムは、それまでの流れとはまったく異なる音作りだが、まるで、長い旅を終えてようやく約束の地にたどり着いたような、そんな感じを受ける。今回、この記事を書くにあたって改めて冒頭に貼った YouTube のトレーラーを見直した。最後のあたり、エディー・ブリケルと手を繋いで歌っている姿を見て、なんとも言いようがない感情に襲われて、不覚にも座り込んで涙を流してしまった。


ワールドワイドでは 2023/5/19にリリースされたが、日本語での対訳などついた日本でのリリースは 2023/6/21ということである。


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