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Paul Simon: Simon &Garfunkel 1964 - 1966 ”The Sound of Silence"

S&Gのアルバムは、サウンドトラックの"The Graduate", ベスト盤の "Greatest Hits" を除くと 5枚しかない。

"Wednesday Morning, 3AM" (1964年)
"Sounds of Silence" (1966年)
"Parsley, Sage, Rosemary and Thyme," (1966年)
"Bookends" (1968年)
"Bridge Over Troubled Water" (1970年) 

今回は、このうちの 1964年と1966年の3枚について書こうと思う。

1964年のデビューアルバムは 「水曜日の午前3時」、とても魅力的なタイトルだと思う。タイトルの文字のフォントが印象的なジャケットがいい。ポール・サイモンのアコースティック・ギターともう一本のギターとベースをバックに二人で歌う。

ポール・サイモンの曲は 3曲目 "Bleecker Street," 4曲目 "Sparrow," 6曲目 "The Sound of Silence," 7曲目 "He Was My Brother," そして 12曲目タイトル曲の "Wednesday Morning 3 A.M."の5曲だ。

このアルバムはさっぱり売れなかったらしい。今、改めて聴いていてやはり、これは売れないアルバムだ、と思った。確かに二人のハーモニーは後年の作品と比べてもひけを取らないし、どこが、と言われると困るが、あえて言うならば全体的に素朴すぎてお行儀がいい。学校の学芸会のような印象で、垢抜けない。

"The Sound of Silence" や "Wednesday Morning 3 A.M." あるいは "He Was My Brother" のようなオリジナルの佳曲は他の曲と比べて迫力があって一味も二味も違うが、これらは全12曲の中で埋もれてしまっている。ボブ・ディランの"The Times, They Are A-Changin'" 「時代は変る」などは少し唐突感がある。プロデューサのトム・ウィルソンの意向だろう。

あまりにセールスが振るわなかったからだろうか、ポール・サイモンはイギリスに渡りロンドンを拠点にして1965年を過ごすことになり、"The Paul Simon Songbook"を制作してリリースする。

しかし、この年の年末に The Sound of Silence がヒットチャートを上昇したことを受け、再びアメリカに戻ることになる。

このアルバム "Wednesday … " の中で "The Sound of Silence" に目をつけて、このレコーディングにエレクトリックギターやベースとドラムスをオーバーダブして半ば勝手にフォークロックにしたてたトム・ウィルソンの閃きは驚きだ。

とはいえ、ポール・サイモンがソロでこの曲を演奏するのを聴く機会は多かっただろうし、自然な閃きだったかもしれない。

1965年の "The Paul Simon Song Book" に録音されているポール・サイモンのソロのバージョンを聴くと、足踏みでリズムを取りながらの力強い演奏が魅力的だ。しかし、 "Wednesday …" のソフトなアレンジではその魅力が半減してしまった。とはいえ、アート・ガーファンクルの歌声によってより引き立っているのも確かだ。

ちょうど、ボブ・ディランがエレクトリックギターに持ち替えて "Highway 61 Revisited" を録音していたころらしい。その中の一曲、"Like a Rolling Stone" はトム・ウィルソンのプロデュースなのだ。

"Wednesday …"のバージョンに、エレクトリック・ギターとエレクトリック・ベースにドラムスを重ねれば、アート・ガーファンクルの歌声と二人のハーモニーととともに、もともとこの曲の持つ力強さを生かすことができる。

ただ、このオーバーダブは当の S&G 二人には知らされないままに行われたらしい。

"The Sound of Silence"のヒットをうけてすぐにこれまでの彼らの持ち歌や新曲を加えて、同様のエレクトリックな音作りでアルバム "Sounds of Silence" をリリースする。プロテスト・ソングやフォーク・ロックという時流をつかまえた曲、ポール・サイモンの抒情あふれる弾き語り、ギタリストとしての技量、そしてアート・ガーファンクルの美しいボーカル、二人のハーモニー、というS&Gの持っているものを全部並べてここぞとばかりに披露した、そんなアルバムだ。そして、同年、その続編と言える "Parsley, Sage, Rosemary and Thyme"もリリースされる。

統一したコンセプトをもとに作詞作曲して丁寧に作りこんで仕上げたという感じはどちらのアルバムもない。"Pasley, Sage … "のほうはコンセプトを作ろうとする努力がうかがえるように思うが、それよりも、売れたこの瞬間を逃さないように持っているものを全部並べて、時流のスタイルに仕立て直して売り出そう、という感じだ。

ちょっとうがった見方かもしれない。

録音技術も今ほど発達していなかったし、丁寧に時間をかけてレコーディングして作品を仕上げていくという概念も薄かっただろう。全体的にはやっつけ感があるのも否めない。

久しぶりに、両方のアルバムを何度か聴いてみた。

まず、S&Gといえば、アート・ガーファンクルの美しいボーカルのメロディに、ポール・サイモンの印象的なギターの伴奏が華を添える、というイメージの人が多いかもしれない。

実はそういう曲はあまり多くはない。

これら2枚のアルバムからそんな曲をとりあげれば、"April Come She Will" 「四月になれば彼女は」、"Scarborough Fair / Canticle" 「スカボロー・フェア/詠唱」、"For Emily, Whenever I May Find Her" 「エミリー・エミリー」の3曲だ。いずれも、二人のコンビネーションが見事な美しい曲ばかりだ。

アート・ガーファンクルの歌声もポール・サイモンのギターのバッキングも印象的なメロディとともに美しい。


いやいや S&G といえばフォーク・ロックでプロテスト、歌っていうのは社会派のメッセージとロックの自由な精神が大事なんだよ、という人も多いかもしれない。

"Richard Cory"「リチャード・コリー」、"Blessed"「ブレスト」、"A Most Peculiar Man"「とても変わった人」、"The Big Bright Green Pleasure Machine"「プレジャー・マシーン」、あたりが、そういうテイストだ。

"7 O'clock News / Silent Night"「7時のニュース/きよしこの夜」はいわゆるフォーク・ロックではないが、この範疇にはいると考えるべきだろう。

「7時のニュース/きよしこの夜」では、ニュースを読み上げるDJの声がオーバーダビングされており、公民権法の法案、レニー・ブルースの訃報、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアのデモ行進の予定、リチャード・スペックの公判、ベトナム戦争の反対運動について言及されている。

パセリ・セージ・ローズマリー・アンド・タイム - Wikipedia


フォーク・ロックであっても、私的な内面の感情、若者の不安な内面を見事に描いているのがいい、という向きもあろう。

"I am a Rock,"「アイ・アム・ア・ロック」、 "Homeward Bound," 「早く家へ帰りたい」 "Pattern," 「パターン」 "Somewhere They Can't Find Me," 「どこにもいないよ」 "We've Gota Groovy Thing Goin'," 「はりきって行こう」 "Flowers Never Bend with the Rainfall" 「雨に負けぬ花」、がそれにあたる。


いやいや、S&G といえば、二人のハーモニーと抒情的な詩と穏やかで流れるようなメロディーがいいんだよ、という人も多いことだろう。

"Cloudy" 「クラウディ」、"The Dangling Conversation" 「夢の中の世界」、 ”A Poem on the Underground Wall"「地下鉄の壁の詩」、"Leaves That Are Green"「木の葉は緑」 のように、そんな楽曲も揃っている。 

”Sounds of Silence" の6曲目に収められている "Anji" はギター一本のインストで、ポール・サイモンの作曲ではないが、ギタリストとしての面目躍如といったところだ。

この1967年のライブの動画は、オフィシャルではないのでそのうち消えてしまうかもしれないが、これまで長年確認したかった演奏スタイルを見ることができた。いい時代になったものである。ギターはこのころよく使っていた Guild ギルド、そしてフィンガー・ピックを使っているのがわかる。こうして、フィンガースタイルのアルペジオでも、トゥー or スリー・フィンガーズでも、ストロークの和音を力強く交えても、あの硬めで歯切れのよい音が出る。

Simon &Garfunkel "Sounds of Silence" 裏ジャケット
ライナーノートはなし、写真と、各曲の詩の一節が引用されている
Simon &Garfunkel "Parsley, Sage, Rosemary and Thyme" 裏ジャケット
裏ジャケットというのがすでに今のデジタルサブスクリプション世代には馴染みがないかもしれない。そこにはたいていライナーノート(解説)が記載されている


自分たちがブレークしたジャンルであったフォーク・ロック、あるいはプロテスト・ソング、についてポール・サイモン本人は自虐的、批判的、否定的だったのではないかと思える。"Simple Desultory Philippic"「簡単で散漫な演説」は、"The Paul Simon Song Book"にも収録されているが、そちらはアコースティックギター一本で、ボブ・ディランの "It's Alright, Ma" を下敷きにしていることがはっきりわかる。


そして、この "Parsley, Sage, Rosemary and Thyme" に収録されているバージョンではガラッと変わった曲調でまったく別の曲にように聞こえる。ボブ・ディランを揶揄するようにハーモニカを入れ、曲の最後のほうで「フォークロック!」と吐き捨てるように言い、そしてフェードアウトしていく最後に「あーハーモニカを落としっちゃったよ、アルバート」という。アルバートとはボブ・ディランのマネージャのアルバート・グロスマンのことだったはずだ。この曲は、アート・ガーファンクルの歌声は入っていない。

もう一曲、ポール・サイモンの独演の曲がある。 "Kathy's Song" だ。ロマンティックで抒情的な自身の思い入れが深いからに違いない。そのことは、前回の "The Paul Simon Song Book" で書いたと思うので繰り返さない。

さて、アート・ガーファンクルは、インタビューで自身が一番好きな歌はスカボローフェアだと答えている。

この曲は、イギリス民謡「スカボロー・フェア」の一節 "Parsley, Sage, Rosemary and Thyme" を使っているが、 "The Paul Simon Song Book"に収録されている "The Side of the Hill" を合わせている。だから他のほとんどの曲と同様に自作の焼き直しのようにも思えるし、美しいアート・ガーファンクルの歌声に隠れて見にくいが、後々、様々な国の民俗音楽を貪欲に取り込みながら自身の言葉やメロディをうまく融合させて新しい音楽を創っていく、その要素がすでにここに表れていると言ってよいだろう。

2枚のアルバム全体の中でもちょっと異色だと思うのが、 "The59th Street Bridge Song (Feelin' Groovy)" 「59番街の橋の歌」。2分に満たないこの歌は清々しく楽しい一曲だ。

二人が生まれたクイーンズ地区とマンハッタンの間、East River にかかるQueensboro Bridge をスキップするように渡る、何かがうまくいった早朝だろうか、不思議な高揚感を感じさせる。

Wikipedia を見て初めて知ったのだが、この曲にはデイヴ・ブルーベック・カルテットの Joe Morello (ds) と Eugene Wright (b)が参加しているとのことだ。比較的単純な構成の曲ではあるが、その後、ポール・サイモンが取り入れていくジャズ・フュージョンの要素はすでにここに入っているということだろう。

さて、この2枚のアルバムの収録曲は、"The Paul Simon Song Book" に収められているものが多いし、新曲も歌詞やメロディが過去の曲の一部を使ったりしているところが散見される。"The Paul Simon Song Book"の焼き直しのアルバム、と批判的に言うこともできるが、それぞれの曲が新しい魅力を持っていると思う。曲のアレンジや音作り、エンジニアリングによって、同じ曲でもまったく違った表情となり別の輝きを持つ。このころのアルバム作成を経験したことで、その後の細部にこだわり妥協しない丁寧な曲作りに繋がっていくのだと思った。

また、アルバム "Wednesday Morning 3 A.M." や、 "The Sound of Silence" への電気楽器のオーバーダブで、エンジニアとして関わったロイ・ハリーは、その後も S&G だけでなくポール・サイモンとアート・ガーファンクルのそれぞれのソロアルバムのプロデューサやエンジニアを務めていて、ポール・サイモンの後年のヒットアルバム、"Stranger and Stranger" (2016) "In the Blue Light" (2018) のプロデューサでもある。

S&Gの最初の3枚のアルバムは、その後の旅を支える人との縁の始まりでもあるわけだ。


最後に2011年のコンサートでの "The Sound of Silence"を聴いてみよう。

円熟のギター演奏は、おなじみのフレーズに加え、装飾音やフィルインと力強い和音がさりげなく入り、1965年ごろの演奏と比較すれば、あるときは微妙で、あるときはくっきりとした、そんな陰影を聴かせ、はるかに表情豊かな曲になっていることがよくわかるだろう。

単なる抒情詩ではなく、メッセージソングでもなく、フォークロックでもプロテストソングでもない、普遍的なメッセージと美しさを持つこの曲はまさしくポール・サイモンの曲なのだと改めて思った。


■追補
全米でトップ10ヒットとなった "I am a Rock" はフォーク・ロックらしい力強い曲だが、イメージだけで勘違いしている人もいるかもしれない。"Rock" はロックンロールのロックではない。「岩」のことだ。詩を紹介しようと思ったが、長くなるのでやめておく。

「友情なんていらない、愛なんていらない、私を守る本もあるし詩もあるし、部屋の中に籠って誰にも触らせない、私は岩だ、岩なのだ。岩は苦痛を感じないし泣きもしない」

概ねこのような内容の歌詞である。


■ 関連 note 記事
Paul Simon の記事は、アルバムごとに思いのたけを綴っていく予定だ。おそらく多くの記事が軽く5000文字超、しかもそれでも語り足りない、そんな個人的な記事になるはずである。

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