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カーラ・ブレイ R.I.P. :Carla Bley R.I.P. ”Life Goes On ... Then One Day"

カーラ・ブレイが亡くなったというニュースが10月18日あたりからだろうか、Facebookのタイムラインに上がってきて、何度、Care, Sad とボタンを押したかわからない。まったくもってカーラ・ロスである。

亡くなった直後からずっと、数日すぎた今でもなおまだ、facebook ではECM レーベルのオフィシャルやその他に多くの方が投稿していて、やはりコアな人気があるミュージシャンであることを再認識した。そのなかの1つが特に目にとまった。カーラ・ブレイのリーダー作で "The Lost Chords Find Paolo Fresu" を傑作として紹介して偲んでいる方がいた。

Paolo Fresu といえば、イタリアのトランペッターで私は最近に知ったのだがとても気に入っていてずっとよく聴いているミュージシャンだ。

ふふっと思わず頬が緩むユーモラスなジャケットのデザイン、私としたことが、これまでまったく知らなかったのだが、1曲目の One Banana, 2曲目の Two Banana, 3, 4, 5, ときて6曲目が One Banana More と曲名も洒落ている。7曲目が "Liver Of Life" 8曲目は "Death of Superman" 9曲目 "Ad Infinitum"と、内省的でどこか明るくどこか怪しい、そんな曲調の楽曲にパオロ・フレスのトランペットが朗々と歌い、ピアノ、そしてスティーヴ・スワロウのベースがゆったりと構える。リラックスした演奏で本当にいいアルバムだ。

1984年 "Heavy Heart", 1985年"Night-Glo",1987年の "Sextet"などフュージョンがよかった。 そのなかでも"Sextet"が気に入っている。この何か月か、また何度か聴いていたところだ。虫の知らせが少しあったのだろうか。

一緒に思わず歌ってしまうようなキャッチーなフレーズがあるわけではないが、ハイラム・ブロックのギターがよく歌っていて楽しく聴ける上質なフュージョン・アルバムに仕上がっている。

強いカリスマを感じさせるその姿は鬼才と呼ばれるにふさわしく、彼女の広くて深い音楽性は世界で認められている。

自身のバンドを率いての 1982年のライブアルバム "Carla Bley Live!"もいい。チューバやフレンチホルンが加わるアンサンブルが特徴的で、明るく広い空間と自由度を感じさせながらも統率がとれてまとまったアンサンブルはカーラ・ブレイの真骨頂といったところだろう。

名作の誉も高い 1989年のライブ盤、"Fleur Carnivore"も同様で洗練されて茶目っ気のある演奏の中に伸び伸びとした自由度を感じさせる。


チャーリー・ヘイデンと一緒にアレンジャー・ピアノとして "Liberation Music Orchestra" で活動していて、私はそれで初めて知ったのだが、まさしく彼女のアレンジであることがわかる。

もっと前の作品となると、1971年の "Escalator Over The Hill"という2枚組の大作がある。ギターでジョン・マクラフリンが参加していることもあって、1988年ごろだったか CDで購入した。

自分が高級な難解な音楽を知っていてそれを所有しているという気持にはなれたが、結局、それほど熱心には聴かなかった。今回、この記事を書くにあたって改めて通しで聴いてみたが、この初期のころの彼女の曲とアレンジは、ずっと実験的で前衛的だ。フリー・ジャズなソロ、絶叫に近い詩の朗読や発声、コーラス、不安なアンサンブルが続き、アルバムの最後の曲 "… And It's Again"は、27分17秒の大作だが、8分30秒あたりからずっと低音の持続音が曲の最後まで続くなど前衛的な部分が前面に出ていて、私ごときが理解することは難しく、リラックスして楽しんで聴くことはちょっと難しい。

カーラ・ブレイは3度結婚している。最初のパートナーが、ピアニストのポール・ブレイ。ポール・ブレイもフリー・ジャズの草分けで大御所だ。カーラ・ブレイはポール・ブレイと1957年に結婚した後にその才能を広く認められ活躍するようになった。その後の彼女のバンドのメンバーや共演ミュージシャンも、このころの仲間やそのつながりで知り合ったミュージシャンであるようだ。

2人目のパートナーのマイケル・マントラーも、 3人目のスティーヴ・スワロウも同様に1960年前後の初期のころから一緒に活動している。


ベーシストのスティーヴ・スワロウは1991年に結婚し、プライヴェートでも音楽活動でも最後まで連れそうことになるが、一緒に多くのアルバムを残している。例えばジャケットも印象的な1988年の "Duets"。

デヴィッド・サンボーンがホストを務めていた1990年のTV番組のライブが YouTube にあがっていた。

冒頭にあげた "The Lost Chords find PAOLO FRESU"でも、ベーシストはもちろんスティーヴ・スワロウだ。彼のベースはリズムセクションとして、そしてメロディを奏でるフロントとして全体を支えている。

2010年代にはいってから、 Carla Bley(p), Steve Swallow(b), Andy Sheppard (Sax)の3人のTrioで 2013年の "Trios"、2016年の"Andando El Tiempo" 2020年の "Life Goes On" の3枚のアルバムをリリースしている。

Trios の 一曲目 "Útviklingssang" は "Duets"にも収められていて、二人だけの演奏もいいが、サックスが加わることでさらに深みが増していると思う。こちらの演奏がおすすめだ。

上に紹介したフュージョンのアルバム "Sextet"に収められていた "Lawns" もこのトリオで再演されている。

それにしても、ピアノにベースと木管という珍しいトリオ編成で、このような静かで美しい空間を作るのは彼女ならではである。

今、Wikipedia でカーラの最初のパートナー、ポール・ブレイについて改めて確認していたのだが、1960年の初頭にポール・ブレイが参加していたジミー・ジュフリー・スリーというバンドのことが目にとまった。ジミー・ジェフリーがクラリネット、ポール・ブレイがピアノ、そしてスティーヴ・スワロウがベースということで、静かで内省的な音楽でありながら音楽的に革新性の高いトリオだったということだ。

それを50年後に再発見・発展させた音楽といえるのかもしれない。

1936年5月生まれというから2013年の Trios をリリースしたときが77歳、2020年の "Life Goes On"をリリースしたのが84歳だ。

このアルバムは "Life Goes On," "Beautiful Telephone," "Copycat" の3組の曲で、それぞれ 4曲、3曲、3曲と組曲のような構成になっている。Life Goes On は1曲目が "Life Goes On". 2曲目が "On". 3曲目が "And On", 4曲目に "And Then One Day" と副題がついている。

Life Goes On, then One Day… 



R.I.P.


■追補

1.カレン・マントラー

カーラ・ブレイと2人目のパートナーのマイケル・マントラーには子供がいる。カレン・マントラー、幼いころからカーラ・ブレイのバンドでハーモニカや歌で演奏に加わっていて、1989年に "My Cat Arnold" でアルバムデビューしている。

こちらも、1990年にデヴィッド・サンボーンがホストを務めるTVショーでライブを披露している動画がYouTubeにあがっていた。カーラ・ブレイが冒頭で紹介のコメントをしているのも見ものだ。

お母さんと同じ髪型で、強いカリスマを感じさせるのも一緒だ。歌もハーモニカもいい。ただ、1990年、1996年、2014年とこのあとに3枚のアルバムをリリースしただけだ。偉大な母親、周囲に日常的にいる当代きってのミュージシャンたちに幼いころから囲まれて育ち、自身も才能をありあまるほど持っているとなると、何不自由ないうえに、そして自分に対する評価も厳しすぎるのかもしれない。・・・いや、わからないけれども。

2014年のライブもレーベルからのオフィシャルの動画で視聴できるのを見つけた。ギターとベースとピアノのトリオだ。同年のアルバム "Business Is Bad" から "Surviving You."


2.ハイラム・ブロックとギル・エヴァンス

アルバム "Sextet" で気持ちよくギターを弾きまくるのはハイラム・ブロック、1985年から90年前半くらいの当時、売れっ子で引っ張りだこのギタリストだったが、2008年享年53歳、早くに亡くなったので今は知らない人が多いかもしれない。

ギル・エヴァンズ・オーケストラでも演奏していた。

ギル・エヴァンズは、マイルスのアルバム "Sketches of Spain" などで有名だが、チューバやフレンチホルンを使った独特のアレンジで自身のビッグバンドを率い、自由な演奏で評判だった。カーラ・ブレイと似たところもあるし、起用するミュージシャンも、ハイラム・ブロックのように、共通点があるのではないかと思う。ちゃんとチェックしていないが。

私は深く知らないので、二人の軌跡は交錯したように見えていないが、どこかで繋がりがあるのではないだろうか。

ギル・エヴァンズといえば、もう手元にはなくて忘れてしまっていた当時の愛聴盤、1986年のライブを収録したアルバム "Bud and Bird" をSpotify で見つけた。日本語のカタカナ表記のせいでこれまで見つからなかったのだった。この記事を書いている途中で見つけることができ、実に久しぶりに聴いた。


実はカーラブレイの "Life Goes On"、ギル・エヴァンズとスティーヴ・レイシーの 1988年のアルバム "Paris Blues"とよく似たテイストで、そのことも思い出した。

このアルバムも素晴らしく、当時、それこそ擦り切れるほどよく聴いた。


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