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R.I.P. ジェフ・ベック:Jeff Beck "Who Else!"

1月12日の明け方から、Facebookのタイムラインにフォローしているギタリストたちから次々に悲しみの声が上がってきた。それから一日、何度、"sad"ボタンを押したかわからない。細菌性髄膜炎ということだが、あまりに急だった。つい、この間も元気にツアーをしている様子が伝えられていた。

Little tour wrap of the last couple of days! Was great to catch up with the always amazing Lari Basilio and @Thomaslang again! #california

Posted by Anika Nilles on Sunday, November 6, 2022

いわゆるひとつのロック三大ギタリストというと、日本では特に、エリック・クラプトン、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベックということになるのだが、その中で誰が好きかと訊かれたら(*1)、迷わずジェフ・ベックと答える。これはもう趣味の問題で仕方ないのだが、クラプトンは私にはちょっとウェットすぎるし、ジミー・ペイジはツェッペリンの楽曲と演奏は大好きだがその後に広がってこない。

ジェフ・ベックは、1966-1967年にエリック・クラプトン脱退後のヤードバーズのメンバーとして抜擢されて有名になった。その後、ボーカルがロッド・スチュアート、ロン・ウッドがベースといった面子のジェフ・ベック・グループを結成している。1969年の "Beck-Ola"などのアルバムを残している。

1973年のベック・ボガート・アピスの演奏もいい。

ベック・ボガート・アピスの4曲目は、スティービー・ワンダーの "Superstition" で、うねるような力強いリズムとボーカルがオリジナルとはまた違った素晴らしい魅力がある。2'35"あたりからのギター・ソロも太い音で迫力だ。

動画では25回ロックの殿堂授賞式で、スティービー・ワンダーと共演をしていて、この演奏を貼っておこう。

ジェフ・ベックはピックを使わず指で弾く。ツアーの後半は指がボロボロになる、とどこかのインタビューで答えていたと思う。指ならではの柔らかい音が、シンプルな構成の機材でほどよく歪んで、ぶっとくて暖かい音色になっていると思う。

1976年の"Blow By Blow"、キーボードのヤン・ハマー (*2) を迎えての 1977年の"Wired"は何度聴いても飽きない。両方とも粒ぞろいの楽曲が揃っていて楽しく聴かせる。

Blow By Blow は1曲目のリフから何かが起こる感がいっぱいで笑顔になってわくわくする。2曲目もボコーダーが効果的で軽いリズムとリフでいい感じだ。6曲目の "Cause We've Ended as Lovers"はしっとりと聴かせてこのアルバムのハイライトでもある。8曲目の Freeway Jam はハイウエイをクルージングしているような楽しさだ。

 Wired は3曲目のチャールズ・ミンガスの名曲 "Goodbye Pork Pie Hat" も抒情豊な素晴らしい演奏だし、5曲目の "Blue Wind" もテンポよく元気が出る曲だ。ヤン・ハマーのキーボードとのユニゾンのテーマ、二人のソロのバトルもいい。1曲目、"Led Boots" も好きだ。

"Led Boots"、動画で2007年のライブがあがっていた。

ベースに、当時はまだ広く知られていなかった女流の若手、タル・ウィルケンフェルドを抜擢して、溌剌とした演奏だ。キーボードのソロとの絡みもいい。

ジェフ・ベックで好きなアルバムを一枚選べと言われるととても困るが、1999年の "Who Else!"を上げなければならないだろう。

冒頭の "What Mama Said" からかっこよすぎてノックダウンだが、メカニカルなタッピングのリフを華麗にこなすのは、サポートのギターとして迎えた、ジェニファー・バトゥンだ。

YouTube動画で素晴らしい演奏があがっていた。

動画の最後の短いインタビューの冒頭で、デヴィッド・レターマンが、"Who is the woman playing the guitar?" あのギターの女性は誰?と訊いている。

こういう目利きもジェフ・ベックの好きなところだ。そのときはまだ無名のミュージシャン、とくに若手を加えて新しい音楽を貪欲に求めていくところだ。

最近だと、ドイツ出身の新進気鋭のドラマー、アニカ・ニルスをメンバーに迎えてツアーをしていた。冒頭の Facebookの投稿はアニカ・ニルスによるものだ。


人はいつか死んでしまう。これからも私が崇め愛してやまないミュージシャンも何人かづつ毎年毎年旅立っていくことだろう。そして、いつかはわからないが私もこの世からいなくなる。順番だ。

私達はどこから来てどこへ行くのだろうか。

People get ready, for the train a-coming. You don't need no baggage, you just get on board

Jeff Beck, Rod Stewart - People Get Ready


R.I.P….


■注記

(*1) 三大なんとか、とか二大巨頭、というのはよくあるし、その中で誰が好きかなどという話題も、息がつまるが和やかに歓談するべきフォーマルな会合(たとえば披露宴とか精進落としとか)の場のかっこうな話題だったりする。

35年前、そんな場で、浅草の老舗の鰻屋の座敷だったと思う、お酒も入って機嫌がいい親戚の叔父さんから「君は浅野温子と浅野ゆう子とどちらが好みかね?」と訊かれて、冷ややかに「フランソワーズ・アルディ」と答えたら、微妙な気まずい空気がしばし流れ、私の父から「そういう世間をなめたような対応はするべきでない」と説教されたおぼえがある。

いわゆるひとつのロック3大ギタリストの場合、100%迷いがないので、こういうのはいいのだが。


(*2) ヤン・ハマーを好きで共演するギタリストは多く、また、そういった場合には単にキーボードの演奏の参加だけでなく楽曲の提供もしている。ヤン・ハマーといえば、まず有名なのは、ジョン・マクラフリンのマハヴィシュヌ・オーケストラだ。ジェフ・ベックもマハヴィシュヌ・オーケストラの演奏を聴いて相当に衝撃をうけての共演ということである。

マハヴィシュヌ・オーケストラ、シャクティ、ジョン・マクラフリンについてはいずれ別の機会に書きたいと思う。

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