短編集 死期際彩
もくじ
未だ訪れぬ瞬間
ぼんやりの泡沫
グレンデールの娘達
死期際彩
未だ訪れぬ瞬間
大鳳 万
この瞬間のために生きている!
世の人は時折、そう叫ぶ。
あるひとは真夏の夕方、汗水流して働いてようやくありついた、酒の最初の一口を喉に迎えた時。またあるひとは、疲労困憊の寒い冬の夜に温かい風呂に身を浸す時。きっとひとの数だけ、こういった感慨があるはずだ。ならば、私の感慨もぜひ許されるべきだと述べたいのです。
しかし私の『この瞬間』は、実はいくつか未だ訪れていないのです。そしてそれは将来の夢とは違うし、理想でもない。そういったもの達に比べれば、あまりにも小スケールだし、これは起こそうと思って起こすアクションとはまた違う気がするのです。厄介でしょう?私が求めるその瞬間のひとつは、一筋縄ではいかないのだ。
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