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【人事に効く論文】バーンアウト(燃え尽き)とエンゲイジメントの関係とは? → Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement

バーンアウトとエンゲイジメントの関係について研究した論文です。

Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement: a multi-sample study. Journal of Organizational Behavior, 25(3), 293–315.

1. 30秒で分かる論文の概要

論文の内容はバーンアウトとエンゲイジメントの関係について仮説検証していくスタイルで進んでいきます。仮説の詳細は原文を参照いただければと思いますが、早い話がこの論文の意義は、バーンアウトとエンゲイジメントに負の相関性ありとはいえ、前後関係の文脈が異なるのでこの二つは別物だ、と結論付けたことにあります。そして、そこからの論理的帰結として、前後関係の文脈が異なる、イコール、バーンアウトの軽減施策とエンゲイジメントの向上施策は全く異なるということになります。
バーンアウトのような、人間のネガティブ感情に焦点をあてる従来の労働衛生心理学の流れからエンゲイジメントを独立させ、ポジティブ心理学の考え方に軸を移した意義深い論文といえるかもしれません。

2. 現場目線の解説/感想

 バーンアウトの測定にはMBI-GSを尺度に用いることが一般的です。そして、疲弊感(exhaustion)と冷笑的態度(cynicism)のスコアが高く、職務効力感(professional efficacy)のスコアが低ければ、バーンアウト、いわゆる燃え尽き症候群と判断されます。で、以前はMBI-GSの3つの要素のスコアを逆転させる返す方法でエンゲイジメントを測定していたのですが、ここに「人間のポジティブな感情とネガティブな感情は、表裏一体の関係とは限らないよね? エンゲイジメントは別の方法でちゃんと測定した方が良くない?」と、ズバッとメスを入れたのが、この論文です。Shaufeliら(2002)でも同様の主張はあったのですが、この論文の方が少し強めに言い切っているように思えました。

また、2001年発表の「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)」をさらにブラッシュアップした以下の図が論文内で提示されました。エンゲイジメントをバーンアウトから分離独立させ、両者の帰結として健康問題(Health problems)と離職意向(Turnover intention)が追加されたのです。さらに、図の上段の3つをエネルギーを消耗させる健康障害プロセス、下段の3つをポジティブな動機づけプロセスとし、上下段の中央に配置されたバーンアウトとエンゲイジメントの前後関係は異なるという論旨が展開されました。

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この図をもう少し見ていきますと、まずは上段の健康障害プロセスについて、一番左にあるのは仕事の要求度(Job demands)です。本来、仕事の要求度が高いこと自体は別に悪いことではありません。しかし、本人の実力に対して高すぎる要求は、それがストレス要因となってバーンアウトの引き金になり、うつ病などの健康問題につながってしまいます。
一方、下段の動機づけプロセスについて、一番左の仕事の資源(Job resources)には、タスクレベル(パフォーマンスのフィードバック)、対人レベル(同僚からのサポート)、組織レベル(上司によるコーチング)という3つのレベルが存在するそうです。そして、それらが業務遂行に有効かどうか、また活用するかどうかの前に、そもそも本人の手の届く範囲に資源があることが重要である、と論文では解説されています。確かにそうですよね。例えば、信頼のおける上司が自分に大きな仕事を任せてくれ、さらには上司が「君ならできる。思い切ってやってみろ。失敗しても私が何とかするから」と言ってくれたら、それだけで活力と熱意が湧いてきますよね。

そして研究の結果、「仕事の要求度とバーンアウト」「バーンアウトと健康問題」「仕事の資源とエンゲイジメント」には一貫した強い相関性が見られました。その一方で、「仕事の資源とバーンアウト」「バーンアウトと離職意向」「エンゲイジメントと離職意向」の相関はかなり弱いことも分かりました。皆さんはこの結果をどう思いますか? 私は違和感を覚えました。どんな違和感を覚えたのかは、後の余談で少し触れます。

で、論文の最後のほうにはPractical implicationsと題した、取るべき施策の考え方が紹介されていました。ただしその内容は「バーンアウトや健康問題、そして離職意向の低減に向けては、仕事の要求度を下げるべし」というものでした。また、「仕事の資源を増やしても、バーンアウトの問題解消や離職意向の低減にはつながらないよ」という主張も。まぁ、研究結果からいくと確かにその通りなのですが、じゃあ、企業が社員に対する仕事の要求度を下げられるかというと、そう簡単にはいかないよね…と思ってしまいました。

3. 読後の余談

この論文を読み、「エンゲイジメントと離職意向の相関はかなり弱い」という内容に、私は違和感を覚え、そして少しうろたえました。
世間で喧伝されている「ワーク・エンゲイジメントの向上は離職意向の低減に効く!」という定説と齟齬があるからです。
もしかしたらこの論文以降に続く研究で、ワーク・エンゲイジメントと離職意向の逆相関が定説化していったのかな、と思いつつ、そのあたりに留意しながら他の論文に触手を伸ばす所存です。

4. 関係性の高い論文

Demerouti, E., Bakker, A. B., Nachreiner, F., & Schaufeli, W. B. (2001). The job demands-resources model of burnout. The Journal of Applied Psychology, 86(3), 499–512.

2022年1月8日 初稿作成
2022年1月10日 全面改訂
2022年1月29日 タイトルを小変更

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