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【人事に効く論文】人的資本は、会社業績に影響するってホント?

Crook, T. R., Todd, S. Y., Combs, J. G., Woehr, D. J., & Ketchen, D. J., Jr. (2011). Does human capital matter? A meta-analysis of the relationship between human capital and firm performance. The Journal of Applied Psychology, 96(3), 443–456.

1. 60秒で分かる論文の概要

人的資本と会社業績の関係について、1991年以降の66の先行研究をメタ分析した研究です。以下の興味深い仮説が検証されました。

仮説①:人的資本は業績と正の相関がある
→ 支持された

仮説②:人的資本と業績の相関は、縦断的経年データを用いた研究の方が、単発データの研究よりも強い結果となる
→ 支持されなかった

仮説③:人的資本と業績の相関は、一般的な人的資本よりも、個別特有の人的資本を測定する方が強い結果となる
→ 支持された

仮説④:人的資本と業績の関係は、包括的な業績指標で測定するよりも、オペレーションに関する業績指標で測定する方が強い結果となる 
→ 支持された

また、以下のパス図が参考情報的に提起されていました。人的資本は、会社業績に直接関係するだけでなく、オペレーション面での業績が媒介するという内容になっています。

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2. 私的な解説/感想

この研究でメタ分析の対象になったのは、1991年以降に発表された人的資本に関する論文です。ではなぜ、「1991年以降」なのか? それはJ.B.バーニーがResource-Based Theory(RBT)を発表したのが1991年だからです。その意味では1991年が人的資本元年と言ってもいいかもしれません。日本では2022年が人的資本元年だなんて言われてもいますが、残念ながら30年遅れです。
個人的には、若き日に同僚たちと共に勉強したJ.B.バーニーが人的資本の源流にあるなんて、なかなか胸熱です。

もう少し内容について触れますと、仮説①の検証によって、「人的資本は会社業績と有意な正の相関がある」とバシッと明確にされました。この一点だけでも、とても意義深い論文だと思います。
また、面白いのは仮説②です。人的資本と会社業績の相関は、一般的な人的資本よりも、その会社固有のものである方が強くなることが示唆されました。「他社からの模倣が困難な会社固有の人的資本」という意味で、まさしくRBT的です。今後、日本企業による人的資本情報の開示が進んでいく中、事業戦略に資する自社固有の人的資本が何なのか、これを明確にできるかどうかが鍵になるでしょう。VRIO分析の出番ですね。
また、論文では、「人的資本が複数の組織階層にわたる場合、1つの階層にのみ存在するよりも、業績への影響が強い」という検証結果も紹介されていました。日本の企業、特に大企業による人材開発投資は特定の階層、つまり、新卒新入社員の導入研修に偏っている傾向にあります。人的資本経営を意識するのであれば、経営幹部ポジションのサクセッションマネジメントや、他の階層(ミドルマネージャーや次世代若手リーダー)の人材開発への投資が必須といえます。

3. 読後の余談

とても興味深い論文だったのですが、非常に気になる点もありました。今の日本の大企業に関する言説と真逆な内容があったからです。
例えば、、、

「人的資本が構築される経路依存的な方法は、企業間の異質性を高め、その結果、企業が人的資本への先行投資による利益を得る可能性を高める」
→ 日本の大企業は経路依存性が強すぎるので、国際競争力が棄損されている


「業績を向上させるためには、企業は人的資本を集め、投資し、育成するだけでなく、経験豊富なマネージャーや従業員を維持する必要がある」
→ 日本の大企業には勤続20年・30年のマネージャーが数多く維持されているが、業績向上にはつながっていない


といったところです。
日本の雇用は世界的に見てガラパゴス化しているので、人事関連の海外論文を参考にする際はよくよく注意しましょう。

2022年8月18日 初稿作成

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