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【人事に効く論文】ジョブ・クラフティングの測定方法とは? → Development and validation of the job crafting scale.

Tims, M., Bakker, A. B., & Derks, D. (2012). Development and validation of the job crafting scale. Journal of Vocational Behavior, 80(1), 173–186.

1. 60秒で分かる論文の概要

JD-Rモデルに基づいて解釈し直したジョブ・クラフティングについて、測定尺度を開発した論文です。Tims & Bakker(2010)の考え方を踏襲し、「従業員は、仕事の要求度と資源のバランスがとれていないと感じたとき、以下の3つのいずれかによってジョブ・クラフティングを行う」という理論的な仮説のもと、尺度化を試みました。
  ● 仕事の資源の向上
  ● 挑戦的な仕事の要求度の向上
  ● 妨害的な仕事の要求度の低減

尺度開発にあたっては、3種類の異なる調査・分析が実施され、プロアクティブ行動やワーク・エンゲイジメントなど他の変数との相関の確認なども含む、丁寧な検証が行われました。それらの結果、理論的に導き出された上記の3因子とは少し異なる、4因子構造で考えた方が適切であることが分かったのです。1因子と想定されていた仕事の資源の向上が「構造的な」と「対人関係における」の2つに分けられました。前者には能力開発や自律性向上などが相当し、後者には周囲からのサポートや上司からのコーチング・フィードバックなどが含まれます。
  ● 構造的な仕事の資源の向上 
  ● 対人関係における仕事の資源の向上
  ● 挑戦的な仕事の要求度の向上
  ● 妨害的な仕事の要求度の低減
どのような内容の尺度か、日本語で確認したい方は、Eguchi et al. (2016) を参照してみてください。

2. 現場目線の解説/感想

Wrzesniewski and Dutton(2001) によって注目を浴びるようになったジョブ・クラフティングですが、Tims & Bakker(2010)と本論文により、研究の方向性が分岐しました。ジョブ・クラフティングが「仕事の要求度と資源を従業員本人の能力や要望とバランスさせようとして起こす変化(Changes that employees may make to balance their job demands and job resources with their personal abilities and needs)」と再定義され、JD-Rモデルに組み込まれたのです。そのため、本論文で開発された測定尺度も、仕事の要求度と資源を変更する行動に対象が絞られています。Wrzesniewski and Dutton(2001)にあった、仕事に対する考え方や捉え方といった認知的な変化(cognitive task boundaryの変更)は含まれていません。オリジナルのジョブ・クラフティングと、JD-Rモデルにおけるジョブ・クラフティングは別物と考えたほうがよいのかもしれません。

3. 読後の余談

アカデミックな尺度の開発には、ここまでデータを集め、分析・検証しなければならないのか、と本論文を通じて思い知りました。
今、多くの企業でタレントマネジメントシステムが導入され、従業員対象のサーベイが容易になっています。しかし、テキトーに作った尺度でサーベイを行っていては、まともな結果は得られません。何を目的にどのような尺度でサーベイを行うのか、先行研究なども踏まえながら慎重に検討したいものです。

4. 関係性の高い論文

Wrzesniewski, A., & Dutton, J. E. (2001). Crafting a Job: Revisioning Employees as Active Crafters of Their Work. AMRO, 26(2), 179–201.
Eguchi, H., Shimazu, A., Bakker, A. B., Tims, M., Kamiyama, K., Hara, Y., Namba, K., Inoue, A., Ono, M., & Kawakami, N. (2016). Validation of the Japanese version of the job crafting scale. Journal of Occupational Health, 58(3), 231–240.

2022年1月28日 初稿作成

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