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【人事に効く論文】強い企業文化は、株価純資産倍率や売上高の伸びと相関があります! → 但し、企業文化が強いだけじゃダメ

Kotrba, L. M., Gillespie, M. A., Schmidt, A. M., Smerek, R. E., Ritchie, S. A., & Denison, D. R. (2012). Do consistent corporate cultures have better business performance? Exploring the interaction effects. Human Relations; Studies towards the Integration of the Social Sciences, 65(2), 241–262.

1. 50秒で分かる論文の概要

Denison Organizational Culture Surveyという組織文化診断ツールによる米国上場企業137社・従業員88,879人分のデータを用い、企業文化の強さと業績の関係について研究した論文です。企業文化の強さ=一貫性(consistency)の強さと定義し、一貫性と組織文化特性の要素であるミッション(mission)・適応性(adaptability)・参画(involvement)との相互作用について、以下の仮説が検証されました。

仮説①:「一貫性」は「ミッション」と相互作用し、「ミッション」が低いほど企業業績(株価純資産倍率・売上高の伸び・ROA)との正の相関が低くなり、高いほど企業業績との正の相関が高くなる。

仮説②:「一貫性」は「適応性」と相互作用し、「適応性」が低いほど企業業績との正の相関が低くなり、高いほど企業業績との正の相関が高くなる

仮説③:「一貫性」は「参画」と相互作用し、「参画」が低いほど企業業績との正の相関が低くなり、高いほど企業業績との正の相関が高くなる

そして、気になる仮説検証結果は、株価純資産倍率と売上高の伸びでは仮説通りだったのですが、ROAでは真逆の結果となったのです。

2. 私的な解説/感想

とても面白い論文だったので、ポイントをいつもより長めにしっかりめに解説しますね。

まずお伝えしたいことは、組織文化が強い=組織としての一貫性が高いだけでは、企業業績にポジティブに効くとは限らないという点です。この論文での一貫性は「価値観や規範の凝集性・統合性・合意性の度合い」を意味しており、一貫性の高い組織では、核となる価値観がしっかりと共有され、合意形成がスムーズで規範的統合が進んでいるとされています。そう聞くと、一貫性の高い組織=良い組織のように思えてしまうのですが、必ずしもそうではありません。いくら一貫性が高くても、組織としての適応性が低い状態での一貫性であれば、環境激変下においては企業業績に悪影響を及ぼしてしまうことがあるためです。つまりは一貫性が高いだけではうまくいかず、他の要素であるミッション(mission)・適応性(adaptability)・参画(involvement)との相互作用が重要だということです。

では、ミッション・適応性・参画とはいったい何なのか。論文では以下のように定義されています。
ミッション:組織の方向性と目的の明確さ。戦略的方向性(strategic direction)・目標(goals and objectives)・長期ビジョン(vision)の3つの下位尺度から成る。
適応性:外部の状況に応じて変化し続けるための組織の能力。変化の創造(creating change)・顧客志向(customer focus)・組織学習(organizational learning)の3つの下位尺度から成る。
参画:従業員が自らの仕事にコミットし、当事者意識を持ち、意見を述べているか。能力開発(capability development)・チーム志向(team orientation)・エンパワーメント(Empowerment)の3つの下位尺度から成る。

そして、これらと一貫性との相互作用によって、株価純資産倍率および売上高の伸びとの相関が見られたというのがこの論文の重要な示唆です。例えば以下の図①をご覧ください。縦軸が株価純資産倍率、横軸が一貫性、実線がミッションの強い組織、破線がミッションの弱い組織を表しています。実線が右肩上がりになっているということは、ミッションが強い組織では、一貫性が高いほど株価純資産倍率が高くなることを示しています。一方、破線は右肩下がりになっており、ミッションが弱い組織では、一貫性が高いほど株価純資産倍率が低くなってしまっています。ちなみにミッション以外の適応性と参画でも同様の相互作用が見られたそうです。

図① 株価純資産倍率と組織文化の関係

次に以下の図②は売上高の伸びに関する内容です。実線が参画の強い組織、破線が参画の弱い組織を表しています。図①とまったく同じ傾向であることが容易に分かります。


図② 売上高の伸びと組織文化の関係

一方で、意外だったのがROAと組織文化の関係です。図③をご覧ください。「適応性と一貫性の両方が高い組織」よりも、「適応性が低く、一貫性の高い組織」の方がROAが高くなる傾向にあります。この結果から想像するに、「適応性が低く、一貫性の高い組織」とは「従来のやり方を組織全体で愚直に真面目にコツコツ取り組む組織」であり、あまり挑戦や冒険をしないために無駄が発生せず、ROAが高くなっているのかも、と解釈できます。

図③ ROAと組織文化の関係

3. 読後の余談

最近、人的資本経営について考えることが多いため、この論文を発見したときはワクワク感を覚えました。組織文化が株価純資産倍率と相関があるって、まさしく人的資本経営の世界です。しかも、ミッション・適応性・参画が弱い組織では、いかに一貫性の高い一枚岩の組織文化であったとしても株価純資産倍率的にはNGというのがとても興味深いですよね。皆さんもよかったら原文に目を通してみてください。

2023年8月20日 初稿作成

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