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【人事に効く論文】フルタイムの在宅勤務は従業員のアウトカムとどのような関係にあるのか?

Tariq, J. M., Anwar, I., Ali, K. N., & Saleem, I. (2021). Work during COVID-19: assessing the influence of job demands and resources on practical and psychological outcomes for employees. Asia-Pacific Journal of Business Administration, 13(3), 293–319.

1. 3分で分かる論文の概要

世界的にコロナ禍に陥った2020年に研究が行われ、2021年に受理された比較的新しい論文です。インド首都圏のIT業界で働く377名の就労者からのアンケート結果を分析し、コロナ禍における在宅勤務について、仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)をベースに以下の仮説が検証されました

仮説①:在宅勤務時の仕事の要求(仕事量のプレッシャー・仕事の相互依存性・仕事上の孤立・家族からの仕事への干渉)と従業員のネガティブなアウトカム(ストレス)との間には直接的な関連があり、仕事の要求の増加はネガティブなアウトカムの増加につながる。
→ 支持された

仮説②:在宅勤務時の仕事による疲弊は、仕事の要求(仕事量のプレッシャー・仕事の相互依存性・仕事上の孤立・家族からの仕事への干渉)と従業員のネガティブなアウトカム(ストレス)の関係を媒介する。
→ 支持された

仮説③:在宅勤務時の仕事の資源(自律性と時間の柔軟性・技術的資源・技術的サポート・技術的トレーニングと経験)と生産性および業績の間には直接的な関連があり、仕事の資源の増加は生産性および業績の増加につながる。
→ 技術的サポートを除き、支持された

仮説④:在宅勤務時の仕事の資源(自律性と時間の柔軟性・技術的資源・技術的サポート・技術的トレーニングと経験)と職務満足度の間には直接的な関連があり、仕事の資源の増加は職務満足度の増加につながる。
→ 技術的サポートを除き、支持された

仮説⑤:在宅勤務時のワークライフバランス(ウェルビーイング)は、仕事の資源(自律性と時間の柔軟性・技術的資源・技術的サポート・技術的トレーニングと経験)と生産性および業績との関係を媒介する。
→ 技術的サポートを除き、支持された

仮説⑥:在宅勤務時のワークライフバランス(ウェルビーイング)は、仕事の資源(自律性と時間の柔軟性・技術的資源・技術的サポート・技術的トレーニングと経験)と職務満足度との関係を媒介する。
→ 技術的サポートを除き、支持された

仮説⑦:在宅勤務時のワークライフバランス(ウェルビーイング)と仕事による疲弊にはネガティブな相関がある。
→ 支持された

2. 私的な解説/感想

7つの仮説が支持されたかどうかだけでは無機質なので、少し説明を加えますね。
まずは仕事の要求について。この論文では「仕事量のプレッシャー」「仕事の相互依存性」「仕事上の孤立」「家族からの仕事への干渉」の4つが以下の理由から在宅勤務時の仕事の要求として提唱されました。
仕事量のプレッシャー:在宅勤務になると通勤時間が少なくなり、時間感覚が曖昧になって仕事量が増える傾向にあるとかないとか。
仕事の相互依存性:ある仕事を進めるのに同僚間で高い協調性を必要とする場合、その仕事は相互依存性が高いということになります。個人ワーク中心ならともかく、在宅勤務において相互依存性が高い仕事を進めるのはかなり大変です。
仕事上の孤立:在宅勤務の場合、同僚間の交流の機会が大きく制限されるため、ボッチ化する可能性が高いです。
家族からの仕事への干渉:仕事とプライベートの垣根が曖昧になり、仕事と家族の葛藤に悩まされる場合があるそうです。
そして、上記4つがいずれもストレスに直接的に間接的に有意に相関したという結果になりました。

続いて、仕事の資源について。この論文では「自律性と時間の柔軟性」「技術的資源」「技術的サポート」「技術的トレーニングと経験」の4つが在宅勤務時の仕事の資源として提唱されました。それぞれの内容は以下の通りです。
自律性と時間の柔軟性:在宅勤務者は心理的に空間的に直接的な監督から解放され、時空間的な柔軟性を持つ傾向にあります。
技術的資源:簡単に言えば、TEAMS・Zoom・Slackなどの必要なツールをサクサク使えるかどうかです。
技術的サポート:通常勤務に比べ、在宅勤務では技術的なサポートが遅くなったり、貧弱になったりするそうです。
技術的トレーニングと経験:技術的資源が潤沢でも、それを自由に使いこなせるスキルが無ければ、猫に小判です。そのためのトレーニングや実際に使用した経験が在宅勤務時の仕事の資源になり得ます。
そして、技術的サポート以外の3つは、生産性・業績・職務満足度に直接的に間接的に有意に相関しました。

3. 読後の余談

この論文の内容に基づいて思考を発展させると、在宅勤務者のウェルビーイングを向上させるには、技術的資源をフル活用してチームとしての一体感を醸成するなど、オフィス勤務とは異なるマネジメントが必要だということになります。在宅勤務者の上司の皆さん、そのあたり、ちゃんと意識しています?

2023年10月5日 初稿作成

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