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unity1weekで地獄に落ちて天啓を得た話

物騒なタイトルですが一週間ゲームジャムの感想の記事です。お題発表から投稿、その後まで順を追って地獄に落ちていきますので、どうぞよろしくお願い致します。

作品は↓ここからプレイできます。


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Unityというゲーム制作ツールを使い、一週間でゲームを作るイベントことunity1weekの今回のお題は「あける」であった。発表されるテーマに沿って自らの作品を作らなければならず、寸善みかこは心を躍らせていたが、自分でも気付かぬうちに焦りを抱えていた。

彼女はこれまで何度もイベントに参加していた経験から、企画はかならず最初の2~3日以内にまとめる必要があり、そうでなければ一週間の後半を大気圏に突入させてしまうことを知っていた。

ようは締め切り前日のそれを味わいたくなかったのである。


みかこは今回のゲームジャムにはたくらみを持っていた。猫ダイスさんという尊敬するゲームクリエイターの方が「ゲームジャムには自分なりの目標をもつべし」と語っていたことが所以である。

ゆえにお題が発表される前から「今回は投稿したゲームをそのままリリースすることを目標にしよう」と決めていた。


これが彼女の浅はかさであり、地獄行きが決まった瞬間であった。


12月21日、制作1日目、月曜日。

みかこは仕事をしながら考える。

「あける。一見よさそうに見えるこのお題だけど、実際はオープンか夜明けの2択じゃない?絶対かぶりたくない!」

かぶりたくないというのはもっともネガティブな企画の立て方であり、良いほうに転ぶこともあるが、この場合は違っていた。

『リリースする作品をつくる』『アイディアがかぶらない作品を作る』既に目標が二つに増えてしまっているが、彼女はまったく気がついていない。なんという愚かさであろう。

「リリースするってことは、ネコを出せば人気出るんじゃない?ネコを出そう!」

地獄行きは加速していく。浅はかさもここまでくると笑いが苦笑に変わりそうなものだが、指摘してくれる人間はいない。それどころか本人は『すごいことを思いついてしまった!』と自らの浅慮にフタをして、自分で自分を持ち上げようとしている。そんなことが一体だれにできようか?


12月22日、制作2日目、火曜日。

この日もみかこはアイディアを膨らませる。

「明けネコっていうネコがなんかすればあけたことになりそう!」

ふわふわしている…ふわふわしすぎている。綿の毛布もマシュマロもわたあめも敵わないほどに。止める者はおらず、指摘する者もいない。企画が進んでいるようでまったく進んでいない。

みかこは自転車のチェーンを自らはずし、必死にこぎ始めた。

恐ろしいことに、彼女はだめになりそうとつぶやきつつも、心のうちではまったくそう思っていなかった。最高の企画を考えてしまったと信じて疑わなかった。どうしてこんな残酷な間違いが起きるのか、この世をおつくりになった者がいるなら聞いてみたいほどである。

のちの話になるが結局、ゲームが完成しても彼女は『完全なる明けネコ』がなんなのかさっぱり分かっていなかった。各自それぞれに察してくれるだろう、という手前勝手な願いを持つにとどまった。

『あける』のお題を決めた神は言った。神は細部に宿る、と。

その言いつけをないがしろにし、神にたてついて作品を作ったみかこが地獄に落ちることは必然だった。


12月23日、制作3日目、水曜日。

イベントが中盤にさしかかるころ、いよいよunity1weekという毒にも薬にもなるものが熱を帯びはじめる。noteさまとUnityさまのコラボイベントによって、イベントに参加賞なるものが登場した。

寸善みかこはbloggerという大検索ゴーゴレ神のブログサービスからnoteに移行することを決めた。その始まりがこの記事というわけだが、このときは地獄めぐりの記事を書くことになるとは想像もしていなかった。

おそらく彼女は『unity1weekでとてもよい評価をしてもらえました!』とかそんな記事を書くつもりだったのではなかろうか。残念ながら世界線が大きくずれている。

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3日目にしてそこそこの画面をつくり、みかこはいよいよゲームシステムの制作に乗り出したが、どうも何をするゲームなのかが決まっていないようだった。そこでこう考えた。

「1ボタンで完結する、非ゲーマーにもやさしいゲームを作ろう!」

おそらくこれが今作唯一となる彼女の良心だろう。しかしこの決定も地獄の熱を高めるばかりで、彼女の救いになることはついぞなかった。


12月24日、制作4日目、木曜日。

折り返し地点となるこの日はクリスマスイブ。寸善みかこはカトリックという属性をはらんでいたため、そちらのイベントに参加せざるを得なかった。

「このチキン最高においしい!無限に食べれる!」

ここでは祈りを捧げる前に、鳥の死体を燃やしたものや、円形の甘い異物にろうそくを立てたものなどを胃袋に捧げるなどしていた。こういった罪のひとつひとつを地獄が見逃すはずがなかったのである。


12月25日、制作5日目、金曜日。

前日に続いてこの日も聖なる一連のそれであった。これらのイベントはひょっとしたらミサではなくサバトだったのかもしれない。それなら地獄行きにも納得がいこうものである。

「あまったケーキめっちゃうまい!無限に食べれる!」

信心深き者こそが欲におぼれる。聖書の一節にそう書いてある…かどうかは定かではないが、欲ボケのすることは愚かだ、と『こち亀』にも書いてあった。平和にみえた最後の晩餐が終わりを告げた。

そして積み上げてきた地獄が、いよいよ火を噴くことになる。


12月26日、制作6日目、土曜日。

恐れていた土日制作がはじまった。焦りはさておき脳を動かし手を動かし、なにはともあれ作品を作らなければならない。

IQが浅瀬にたたずむ彼女も、このあたりでようやく気がつく。脳内に積み上げていた企画は空虚、なにひとつ詰めていない画面は砂上の楼閣、あとは作るだけ…という名の幻想。

加えて結局このときまでゲームシステムを固めておらず、また良いルールが思いついていなかった。そこで「弾の方向をタイミングで決めて発射することにしよう!」と思い立つ。プレイヤーはネコなのだから、ネズミをキャノンで倒すのだ。


ところがUnity上でuGUIというものをどうやって回転させて、また発射物をどうやって決めた向きに飛ばすのか、いくらゴーゴレ健作さまに聞いてもわからなかった。誰かに聞こうにもみな忙しいのは同じだと思い、質問することもできなかった。

力こそパワーが信条のみかこは、ベクトルやサインコサインといった呪文を高校時代に捨ててきていた。もともと知識のない彼女がこの焦りの中、新しい技術を得ようとしてもそう旨い話があるはずもなく、仕方なしに実装を諦めることになった。


ふてくされたみかこは、なんとゲーム部分をほったらかしてオープニングの謎演出をつくりはじめた。愚かな人間は向きを変えても愚かなままである。

「インターネットを散歩していた猫キャノンちゃんが完全なる明けネコ、ニャーゴ・ニャゴナムに誘われて、ネズミをキャノンで撃滅する…完璧なストーリー!天才!すごすぎ!」

これで素面だというから驚きである。いま改めて読んでみても何一つ意味がわからない。果たして彼女の脳はどうなっているのか、一度覗いてみたいものである。深淵を覗くとき、深淵を覗いているのだ。


そして地獄は思わぬところから産声を上げた。ここ数日の疲労か心労か、はたまた両方からか、喘息の発作がとつぜん彼女を襲った。おそらくストレスからであろうが、いま世間で大流行の例のコロネ鍋が頭をよぎった。

締め切りに追われて一日中PC作業をしている…それはつまり休みがないということであった。一週間のうち、気が休まる時間が一秒たりともないのだから当然だった。

鳥の死骸を胃袋につめこんでいるときですらゲームの仕様を考える始末。いちど参加を決めたら完成するまで、このイベントからは逃れられない。少なくとも彼女はそういう性質だった。

吸入器をつかって喘息の症状をやわらげたが、布団に入っても脳が興奮して眠れないので、寝ることを諦めた彼女は結局ゲーム制作をしながら最終日を迎えた。愚かな人間は判断も愚かである。



12月27日、制作7日目、日曜日。

一応の締め切りの日がついに来た。

一応の…というのは、一週間ゲームジャムというイベントが初心者にも優しいとされるところで、実際は期限などあってないようなもの。しかし締め切りがあるからこそイベントを楽しむことができるし、それをどう使うかも作り手次第。あらゆるところに手が届く親切設計であった。

にもかかわらず、みかこは今回は締め切りを守ることを目標のひとつに決めていた。このところ毎回と言っていいほどの遅刻投稿に慣れてしまって、常習犯となっていたことを改めたかった。

身の丈に合わぬ高い意識は、いずれ身を滅ぼすことになる。もはや最終日に目標もなにもあるはずがなく、ただ完成させて投稿するということのほかは意識になかった。

本来であればこの時点ですぐさま敗戦処理に向かうべきなのだが、自分が負けていることに気がついていない彼女は、地獄に向かってただひたすらに舟を漕ぎ続けた。

AudioMixerから音が鳴らない、などの小石に躓きながらも、なんとか期限の20時までに完成させることができた。アイコンをつくり、説明文をつけて投稿した。

期限内に投稿できてめでたしめでたし!…となるはずであったが、どうしてだろうかエンディングも流れないしスタッフロールも流れてこない。みかこの中で地獄の熱はまったくおさまっていなかった。



「なんか全然おもしろくない…」



地獄がついにその正体を現した。



目標にしていた『そのままリリースできるようなゲーム』とは一体なんなのだろうか。『ネコが出てくるゲーム』は本当に良いゲームなのか。『締め切りを守る』ことは、何につながるのか。

何かを目標にしているようで、その実は見事なまでの空虚だったのだ。完成までそのことに気がつくものはいなかった。

リリースどころかゲームシステムのモックアップすら出来ておらず、ネコは出てくるが何をするゲームなのかさっぱり分からず、締め切りを守ることができただけ。あける要素は0.001ミリほどまぶした程度に終わった。


あまりにも悔しくて情けなく、中途半端なゲームを公開してしまった恥ずかしさがみかこの身を焦がした。

イベントの参加目的は霧散し、焦りは勢いを増すばかりだった。彼女は投稿して一息つく間もなく、ただただ冷や汗につつまれていた。


明日までにアップデートして面白くしないと、やばい。


望まぬ延長戦がはじまった。


12月28日、制作8日目、月曜日。

神は6日で世界を作って7日目に休まれたが、寸善みかこは8日目になってもゲームを作り続けていた。

睡眠もそこそこにこの日もひたすら作業を続ける。ネズミの種類を増やせば面白くなるかもしれない…。目的を増やせば面白くなるかもしれない…。もはやまともな判断力は残っていなかった。

ゲームは土台がしっかりしていないと脆いもので、そこに要素を足してもまったく無意味である。ゲームクリエイターなら誰もが知っているが…、いや、もはや何も言うまい。


インターネットレベルという謎の要素をつぎ足し、敵であるネズミの種類を増やし、小さなバグをとって、アップデートはひとまず完了した。

改めてツイッターでつぶやき、昨日よりマシな作品にしあげて今度こそ投稿を終えた。満足いくモノには程遠かったが、疲労困憊であった。

みかこは張り詰めていたものが無くなり、食事中に倒れそうになったので、そのまま眠りについた。他のひとの作品をプレイする力はもう残っていなかった。


12月29日、火曜日。

寸善みかこは頭も体も働かないので、うすぼんやりとしたまま横になっていた。眼精疲労も極まって、二日酔いを三日続けたようなダメージが続いていた。横になって深呼吸するだけの生物と化していた。

いったいどこで地獄行きの便に乗ってしまったのか、どうすればもっと面白くなったのか、なぜイベントを楽しむことができなかったのか…。色々なことを考え続けていた。

「目標が高すぎたのかな、それとも。。。」

イベントを楽しむ人々や、その作品たちが眩しくて目を開けていられなかった。彼女はツイッターを見るのもつらくなり、仕方なくアプリをアンインストールした。PCも何日かぶりにスリープ状態をやめて電源を落とした。

満足のいく作品のかけらも作ることができなかったことをみかこは恥じた。作品に暖かいコメントもついたけれど、自分の中にある『面白くない作品』という烙印を消すことができず、申し訳なさに枕を濡らした。


なにより辛いのは制作スケジュールが破綻していたことだった。時間が足りないならそれなりの制作をするべきだし、体を大事にしないクリエイターには価値も未来もない。

今回のこの体たらくを省みて、ゲームジャム(※短めの締め切りのあるゲーム制作イベント)には今後はなるべく参加しないほうが良いのではないだろうか、とみかこは考えていた。ゲームジャムのたびにどうしても頑張りすぎてしまい、毎回体を壊してしまうのだ。性格とイベントの性質とが合わなさすぎた。

みかこにとってゲームジャムはカニ好きのカニアレルギーのようなものになっていた。求めてやまないが、摂れば摂るほどサンズリバーに近づいていることは明らかだった。

「堂々と公開できる、面白い作品をつくりたい…」

こんな目にあっても、気付けば彼女はゲーム作りのことを考えてしまっていた。ゲームクリエイターの呪いはしっかりと体に刻み込まれている。振り払おうとしても、もはや手遅れだった。


12月30日、水曜日。

この日ようやく仕事を収めたみかこは、過労を少しでもやわらげようとベッドにもぐりこんだ。しかし休もうとしてもゲーム制作のことが頭から離れなかった。

尾を引くしんどさに伏せているみかこの頭も、わずかに働くようになってきた。身を裂くような後悔の中で、自らの問いかけに徐々に答えていった。


Q:なぜ面白いゲームが作れなかったのか?

A:目標がアバウトだったから。技術の習得でもなければ、テーマを持った作品でもない。目標は大小ではなくて、具体的じゃないと意味がない。


Q:なぜイベントを楽しむことができなかったの?

A:みんなを驚かせよう、といういつもの気概がなかったから。目の前のお客ではなく、リリース後などという遠くにいる虚空を見ていたような気がする。バトル漫画にありがちな、目の前の敵を見ていなかったという感じ。今を全力で楽しまないとその先はない。


Q:ネコを出せば売れる?

A:そもそもネコなんてあんまり興味ない。たとえネコ好きが全世界の99.7%を占めていたとしても、愛がない人間がネコを語るべきじゃなかった。たとえマイナーでも魔術とか悪魔とかゾンビとか、自分の好きをゲームで表現するべきだった。


Q:完全なる明けネコってどういう意味?猫キャノンちゃんって何?

A:なにも分からない…。ちゃんと設定や世界観を詰めることができなくてごめんなさい。


Q:アップデートしてリリースしますか?

A:黙れ。地獄に落ちろ。


思えば当たり障りのないところにきてしまった、と寸善みかこは感じていた。子供じみた刺々しさをおさめ、大人ぶって丸くなったつもりだったが、人間の本質はそう簡単に変わるものではない。

正しさに苦しむくらいなら悪に身を落とせ。自分を苦しめるものこそ悪だ。

消沈した意気が一周回って怒りに変わっていた。もっと何かを突き刺しながら生きてもいいのではないかと思い直していた。精神が悲鳴を上げたので、そこに悪魔がささやいたのだ。


みかこは初めてunity1weekに参加したときのような傷をまた負ってしまっていた。周りのすべてが羨ましく見えた。愚かな彼女は同じところで何度も転ぶ。たまたま今回はつまづいた先が地獄だった。

精神の幼い者ほど小さな傷で大げさに騒ぐもの。HPもMPも風前の灯だったみかこは、もう何もかもが嫌になってしまった。惨めな作品を手にしながら、格上の作品にすごいですねと触れ回る人間力は残っていなかった。全人類くたばれと思わずにはいられなかった。

しかし地獄は無限には続かない。カトリックに無間地獄は存在しない。苦しむ彼女の前にも、晴れ間はついに訪れた。



12月31日、木曜日。大晦日。

体の不調が癒えぬまま、もうすぐ年が明けようというころ、とつぜん寸善みかこはゲーム制作というものを完全に理解した気がした。天啓を得たのだと思った。

企画段階でぜったいにやってはいけない、と自分に課したこと。それはビデオゲームをつくること。そして何度も忘れがちな、ゲーム制作にとって大事なことはただひとつ。それは体験をつくることだった。


たとえば今回のゲーム、なにを体験するのかがまったく分からない。ネコがキャノンでねずみを倒す、といえば分からなくもない。分からなくもないが、状況が分からない。

たとえばドーナツに穴を開けるゲームがあるとする。工場がある。プレス機があり、ベルトコンベアがあってドーナツが流れてくる。工場のドーナツ人がいる。そんな設定と背景にすれば、なにをするゲームなのかという納得度がとても高くなる。


体験を作るうえで納得度はとても大事な要素。寸善みかこはそんな納得を用意するのがとても苦手だった。モデルも絵も自分で用意できないから。テーマを設定してからガワを作るのがいつも億劫だった。

だから毎回がらくたをかき集めて、カオスな自分の世界を作ってしまう。今回はそのなかにデザイナーさん頼りの高級品をひとつ紛れ込ませて、なんとか体裁を保とうとしたけどあっけなく失敗した。高クオリティの絵に見合わない作品を作ってしまい、心の中で何日もひたすらデザイナーさんに土下座していた。


何をしたら楽しいか?をまず考える。

あける → 何をあけたら楽しい? あけてどうなったら楽しい?

ここから作り始めないと、核がぼやけてしまう。友達とジャンケンしてたほうがよっぽど楽しいよって言われてしまう。自分の中の悪魔に。


ハンターになって恐竜を狩るゲーム。

モンスターを捕まえて戦わせるゲーム。

勇者や冒険者になって世界を旅するゲーム。

ハナデカヒゲオヤジになってアスレチックを楽しむゲーム。


良いゲームはかならず一言で楽しさが伝わる。ドーナッツに穴を開けるゲームと聞けば楽しそうだけど、砲台でネズミを退治するゲームを遊びたいと思う人がいるだろうか?

それならまだしも、砲台も用意できておらず、ネズミはネズミっぽい挙動ですらない。単なるネズミの形をしたデータを丸でボンするゲーム。意味がわからない。不思議な世界というなら、インターネットだとかそういう雰囲気をデザインで用意して、遊び手を納得させなければならなかった。


まず一行で体験を説明して、それが楽しいか、楽しそうかどうかを確認してからゲームをつくればいい。作りきれるかどうか、自分と相談しながら。


みかこは何かに辿りついた気がした。いつも手にして分かった気になって、気がつけば手から離れているそれ。今度は離さずにゲームを作りたいと強く思った。次こそは、そう決意した。

「誰かに伝えなきゃ。私だけ知ってたらもったいない…」

みかこは目の前がひらけたような感覚をなくしたくなかったが、メモをとることができないくらいに疲れていた。おまけにひどく眠かった。

地獄の熱はだんだんと消えていった。脳内の何かにずっと急かされていたが、やっと静かになってくれた気がした。今年の終わりが近づいていた。


彼女の年末はその身とともに地獄に焼かれ、2020年が音もなく過ぎ去っていった。カトリックの彼女に除夜の鐘は聞こえず、静かに年が明けていく。

来年はきっと面白いゲームを作れそうな気がする。みかこはそう思うと、自分の中にゲーム制作の熱が残っているのを感じてうれしくなった。地獄がその役目を終えたのだ。

夜闇が部屋のすべてを覆っていたが、もう自分を責めるものはいなかった。次はどんなゲームを作ろうか。今度こそみんなに楽しんでもらえるだろうか。意識を手放しそうになる寸前、忘れていた感覚がそこにあった。


「明日、目が覚めたらUnityを…」

安心すると、彼女は静かに眠りについた。


彼女はつい先ほどまで地獄にあったと思えないほどの、まるで不名誉とともに魂を2020年に置いてきたかのような安らかな顔をしていた。

何もうごかぬ静寂のなかで、2021年だけが幕をあける。




寸善みかこがどうなったのか、誰も知らない。





おしまい。

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