見出し画像

「何かが空を飛んでいる」(稲生平太郎)

 本稿は、「何かが空を飛んでいる」(稲生平太郎著)のレビューとして、数年前に某同人誌に寄稿したもの。

 「何かが空を飛んでいる」は、UFOをはじめとしたオカルトに関する本だが、面白いことに、「真実だ」とも「嘘っぱちだ」とも書かない、不思議な本になっている。でもとてつもなく面白いし、私はこの本がきっかけで、オカルトの見方を変えることになったので、ぜひ皆さんに読んでほしい。


「何空」との出会いと思い出


 おそらく、「何かが空を飛んでいる」のレビューや考察は、沢山の人が書かれるだろうから、私はちょっと脇道にそれた、エッセィ的な物を書いてみる。
 私は「何かが空を飛んでいる」にずっと憧れていた。
 ちょうど矢追純一のUFO特番が盛んに放送されていた頃、子供だった私は無邪気にそれをすべて信じていた。UFOは宇宙人(グレイ)の乗り物。アメリカには宇宙人に誘拐された人がたくさんいて、体に何かを埋め込まれた人もいる。エリア51にはUFOがあって、ロズウェルにはUFOが墜落しているのに、軍はそれを隠している…。それを私は疑うこともなく、信じていたのだ。
 それが中学生になり、ある本がきっかけで、ビリーバーの道を外れ、ひねくれ者の通る獣道へと入っていく。その本の「おすすめの本」の中に、稲生平太郎の「何かが空を飛んでいる」はあった。ネットですぐ調べてみたが、本は絶版だしオークションでは3万円や5万円からスタートという、ちょっとしたマニアでしかなかった私にとっては、とんでもない金額であった。自分の住んでいる周辺の古本屋も見てみたが、私の探し方が悪かったのか、「何空」はなかった。都内に旅行した時に立ち寄ってみた神保町にもなかった。
 その後、ふとしたことで、大学生の頃に「と学会」という集団に入り、そこでも「何空」の話をした。ファンは多かったが、どこで手に入るか、という話にはみんな難しい顔をした。やっぱり手に入れるのは難しいのか。私は諦めて苦笑いを浮かべるしかなか った。

 数年後、私は社会人になった。
 ある時、友人と一緒に青森県の「キリストの墓」を見に行くという、バカバカしい計画をたてる。宮城、岩手、青森と連泊することとなり、最初、仙台で友人と落ち合うこととなった。
 友人によると、仙台は「万葉堂書店」という大きな古本屋があるから時間つぶしに行ってみたら、という。特に期待もしていなかったが、何か変わった本があれば旅の記念になるだろうと思い、出かけることにした。
 仙台から万葉堂書店のある「鈎取」という場所まではバスで行くのだが、この道のりがけっこう長い。8月の暑い盛りだったので、汗を拭きつつ万葉堂書店まで向かった。確かに巨大な本屋で、「古本10万冊」は伊達ではない。上まで見上げるほどの本棚が、城壁のように並んでいる。私は奇観本の収集家ではないが、仕事上、古い本は気になるので、箱入りのいかにも古そうな本を眺めていた。棚からじっくり目線を動かしつつ、何か変わった本はないか、と探す。

 「何かが空を飛んでいる」は、あった。

 これを目にした時の感情は、なんとも表現できないし、今も不思議な感覚のままだ。夢ではないかと頬をつねりはしなかったが、何度も本を手にとって内容を確認した。そして恐る恐る後ろの名札を見る。はっきりとは覚えていないが、1000円でお釣りが来る金額だったように思う。私がそれをレジに持っていったのは言うまでもない。

 「空飛ぶ円盤は恥ずかしい」

 第1章からしてこれである。なんともシビれる一言。「円盤」とはいったい何なのか。すべてが見間違いだとすれば、なぜ人は円盤を見てしまうのか…。UFO好きならば、一度は疑問に思うであろう。それに本書は、ひとつの答えを出しているように思う。
 こうして私は、親しみやすい文章で書かれ、しかも肯定や否定ではない部分からUFOを論じた「何空」とようやく出会うことができたのだった。

追記:その後、絶版であった「何かが空を飛んでいる」は、いくつかの原稿が追加され、国書刊行会から再販された。みんな読もうぜ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?