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バイクで駆け抜ける夜の日比谷通り

夏のとある日。私は夕方から浅草公会堂でお笑い芸人のライブを見ていた。

会場の外に出るとすっかり夜になり、時計の針は20時に差しかかるところだった。

当時付き合っていた彼氏(現在の夫)がバイクで迎えに来てくれた。

今まで何度かバイクに乗せてもらったことはあるが、バイクと無縁の人生を送って来た私はまだ彼の運転を完全に信じていなかった。

こいつに命を預けて大丈夫かな・・・と思いながら、ヘルメットをかぶり夜のツーリングがスタート。

安全運転を心がけたスピードで、東京の街を駆け抜けていく。
風がとても気持ち良い。

一瞬で通り過ぎるキラキラとした東京の風景。
変わるがわる都会の喧騒が現れては消え、私の目もキラキラしていた。

東京の夜って本当に綺麗だな。

東京駅の近く、日比谷通りに入り赤信号で止まる。
見渡すとまわりは高級外国車ばかりだった。
と、都会やな〜!
地元の田舎じゃ一台も走ってないよ。
中の人の表情までわかり面白い。
こんなに間近で他人の車を見たことがない。

電車でしか来たことがない東京駅の景色が全然違って見えた。

青信号になり一斉に進む。
気づくと前にロングヘアの女性ライダーが走っていた。
こんなスリリングなことを平然とやってのける女性。なんてかっこいいんでしょう。

渋谷から表参道、青山に抜ける道も最高だ。
歩いている若者達を横目に颯爽と走り抜ける。

車でのドライブも好きだが、直接肌で東京の風を感じる事ができるバイクの方が圧倒的によい。優越感に浸れる。

徒歩や電車、車では味わうことができない独特な感覚に高揚を覚えた。
この日のツーリングは最高の思い出になった。


自分ではバイクの免許取得はハードル高いと思っているが、他人に乗せてもらうだけなら簡単だし良い気分転換になる。

みんなにもこの経験をしてほしいとエゴイズムが湧き出て来た。

この経験を女友達に話したところ、友達は自分は1回も乗ったことないし、バイクに乗るのは怖いといった。

確かに。
バイクにのった経験がある女子は少ないのではないか。
彼氏がバイク乗りか自分自身が興味ない限り、頻繁に乗る機会はないし、普通は怖いと思うだろう。私もそうだったし。

しかし、乗るにつれてだんだんと体が慣れてきて、気持ちよくなってくる。

怖がらずにみんなにも体験してほしい。バイクで走ったら悩みもすっ飛ぶ。

これをサービスにできたら良いのにな。と私は友達に言った。

東南アジアではタクシーのようにバイクに乗るサービスもある。
観光客向けに、夜のお台場あたりをツーリングするサービスなどがあれば喜ぶのではないか。

友達は言った。

「知らないおじさんの後ろに乗って、腰に手を回して体が密着させるってハードル高くない?!」

た、確かに・・・。

ただでさえ知らない人のバイクに乗るのは抵抗があるのに、夏場でおじさんの背中がビチャビチャに濡れていたら最悪だ。

そんな背中に絶対抱きつきたくない。

危険だとわかっていても知らないおじの体に触りたくないので、バイクの座席の端をもち、自分の体幹だけで耐えることになるだろう。

それは何も楽しくない。景色なんか見る余裕なんてないだろう。

「ヘルメットもどうするの?おじさんが用意したヘルメットは、前の乗客が被ったヘルメットだろうから、かぶった瞬間、うわ!!くっせぇ!!!ってなったら最悪じゃない?ツーリングどころじゃないよ」

ごもっともである。
100歩譲って彼氏や己の体臭なら我慢できるが、他人の体臭を強制的に嗅ぐなんて嫌すぎるし、絶対に臭いと思う。

「自分でヘルメットは購入して持参するとか・・?」

「邪魔すぎるし嫌すぎる・・・!」

私のプレゼンは残酷な現実を突きつけられてあえなく却下された。
ぐぬぬ。

いろんな仮説をたてて話してみたもののあっけなく反論されるので、変なツボにはいって大笑いした。
しばらくの間、いろんな想像をして笑いがとまらなかった。

ビジネスを生み出すのは難しい。

それでも、東京の景色は今まで見たことがないほど素敵だったし、バイクの印象が変わったので、友達にはどこかで経験してほしいなと思っている。

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