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教科書解説「テストによく出る『蜻蛉日記』正月(むつき)ばかりに/なげきつつ一人寝る夜/うつろひたる菊」
■正月(むつき)ばかりに
正月〈天曆九年〉ばかりに二、三日見ぬ程にものへ渡らむとて「人こば取らせよ」とて書き置きたる、
知られねば身を鶯のふりいでつゝなきてこそ行け野にもやまにも
かへりごとあり。
うぐひすのあたにて行かむ山べにもなく聲聞かば尋ぬばかりぞ
などいふうちよりなほもあらぬことありて春夏なやみ暮して、八月つごもりにとかうものしつ。その程の心ばへしも懇なるやうなりけり。
■「なげきつつ一人寝る夜」「うつろひたる菊」
さて、九月ばかりになりて、いでにたるほどに箱のあるを手まさぐりにあけて見れば、人のもとにやらむとしける文あり。あさましさに見てけりとだにしられむと思ひて書きつく。
うたがはしほかに渡せるふみ見ればこゝやとだえにならむとすらむ
など思ふほどに、心えなう十月つごもり方に三よしきりて見えぬ時あり。つれなうてしばし試みるほどになどけしきあり。これより夕さりつかた「うちのかたるまじかりけり」とて出づるに心えて人をつけて見すれば「まちの小路なるそこそこになむとまり給ひぬる」とて來たり。「さればよ」といみじう心憂しと思へどもいはむやうも知らである程に、二、三日ばかりありてあかつきがたに門も叩く時あり。「さなめりし」と思ふに、憂くてあけさせねば、例の家とおぼしき所にものしたり。つとめて「猶もあらじ」と思ひて、
歎きつゝ一人ぬる夜の明くるまはいかに久しきものとかは知る
と例よりはひきつくろひて書きて、うつろひたる菊にさしたり。かへりを明くるまでも試みむとしつれど、とみなるめし使の來あひたりつればなむ。いとことわりなりつるは、
げにやげに冬の夜ならぬ眞木の戶に遲くあくるは陀しかりけり
さてもいとあやしかりつるほどにことなしびたる、しばしは忍びたるさまにこうぢになどいひつゝぞあるべきをいとしう心つきなく思ふ事ぞ限りなきや。
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