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人聾ゲーム 経緯1

「人狼ゲームならず“人聾”ゲームをやろうと思っているんだ」

主催者崎本圭嗣氏の発言は、最初は思いつきだった。

聴覚障害を持つ彼は『ろう者』としてアイデンティティを持ち、聴覚障害者の理解を広める目的で、有志を募って【手話リノベルズ】という団体を立ち上げた。名前の由来は、『手話』と『リノベーション』をもじったという安直なものらしい。彼は頭脳明晰で有名大学卒業後、一般企業に勤めたが手話が通じない、コミュニケーションの壁や待遇の格差などを実際に目のあたりにして、数年後退職した。社会を変えていこうと決心し、友人や飲み会などで知り合った人たちに声をかけ、何度も会議を重ねて手話リノベルズを設立するに至った。

メンバーは耳の聞こえない人、つまり難聴者やろう者を中心に構成されているが、団体の活動に賛同してくれる手話が堪能な聴者もいる。設立当初は、手話指導など地域の手話関係のイベントなどで細々と活動していた。地域の団体とは違って、若い世代が多いこともあり、徐々に実績を重ねていった。手話派遣相談や子ども向けの交流イベントを企画し、どれも予想を超える大成功につながり、手話リノベルズに協賛してくれる大手企業も現れてくれた。法律に詳しいアドバイザーの提案もあり、リノベルズは設立3年後に一般社団法人となった。マスコミメディアでも話題になり、手話の世界でも知名度は上がっていった。

そして、ある日の企画会議で、誰かが「人狼ゲームが流行っているね」と話題に出た。「ボードゲームなら手話がわからなくてもなんとかなるけど、会話が主体のゲームは、参加者たちが手話がわからないとできないよね」「確かに」「でも手話を題材にしたゲームはいくつか開発しているけどテストプレイをもう少し重ねていけば…」

そんなやりとりを眺めていた崎本が「『人狼』か。ならば『人聾』もあってもいいでは」と会話に加わってきた。「それは面白いね。ろう者を探しだす?でも手話でバレちゃう。」「あ、逆に聴者を探し出すのは?」「これも手話でバレない?一応上手い人もいるけど」「これは参加者全員が初対面じゃないとゲームにならないでは…」「確かに」

「ならば、初対面同士の参加者たちを募ってやるのは?まずはテストプレイで」と崎本が提案。

とんとん拍子で企画と準備が進み、そして現在、人里離れた所で『人聾ゲーム』が始まることになった…。

続く


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