離婚と修復に悩む:有責配偶者が夫婦関係の修復を望んだ場合の一つの対応--連載14
(1)将来的に離婚となった場合に、相手方の性格上揉めるな・・と思った場合
相手方配偶者の浮気、暴力などで離婚を請求した際に、有責配偶者から「もう二度としないから、離婚だけは思い留まってほしい」と懇願されることもあるかと思います。
基本的には、なかなか気持ちを修復に持っていくことは難しいかとも思います。ですが、今一度だけ考えてもよいかもしれない。
だけど、いざ将来的に離婚となった場合には、相手方の性格上揉めるな・・と思った場合に、一つ考えてもよい方法として、
“私署証書” の作成を考えてみてください。
(2)将来的な予防のための私署証書とは?
簡単に言いますと、あらかじめ
どういう不法行為があったのか
再度、1、をした場合には、夫(妻)は、妻(夫)からの離婚請求に応じるということ
その際の離婚条件(親権、監護権は○○、財産分与○○万円、慰謝料○○万円、養育費○○万円など)はどういうものにするのか
というようなことを、合意書にまとめて、その際の条件などを、あらかじめ取り決めておくというものです。
さらに、この合意書を、公証役場で公証人に認証してもらい、証拠力を高めてもらいます(合意事項を公証人に認証してもらったものが、私署証書といいます。ただし、公正証書とは違って強制執行力はありません)。
前述の通り、こうした私署証書には、強制力はありませんから、いざ離婚となった際に相手が合意事項を覆せば、調停などにならざるを得ません。
けれど、あらかじめ私署証書上で、浮気、暴力があったことを認めており(証拠はある程度必要だと思います)、さらに、一度は離婚条件に合意していることが明らかなため、出るところに出ても私署証書が証拠となり、有利に、少なくとも不利になるようなことはありません。
もちろん、そうした書類があっても、今度は有責配偶者でない側が不法行為をすれば、また話は変わりますが。
ただ、全ての条件を決めてしまっていれば、それが後日ネックになることも考えられますので、親権と慰謝料など揉める可能性の高いもの、また譲れないものだけを決めておくといったことなどでもよいかもしれません。
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なお、私署証書ではなく、公正証書ではいけないのか、という疑問もあるかと思いますが「もし○○したら、○○の条件で・・・」というのは将来のことについてですから、お金の支払いについて、期日が確定していません。
公正証書で強制執行が掛けられるのは、お金のことについてだけで、さらに支払い期限、期日が確定している必要がありますから、上記のようなケースについては、公正証書で作成できないわけではありませんが、証拠力という点では差はありません。また、私署証書の方が公証人手数料が安いというメリットもあります。
※ なお、法律家等に相談をした場合には、公正証書でいきましょう・・と言われることもあるかと思いますが、公証役場如何によっては作成不可ということもあります。なので、ご自分で作成される場合には、事前にご利用予定の公証役場へ問い合わせされてください。
(3)事前に離婚条件などを決めた私署証書の注意点!
ただ、注意点があります。
それは、法律上では、将来の離婚に関して条件を設定することはできないということになります。また、人の身分に関することについて合意することも無効とされます。
ですが、公証人が認証までしてくれている書面ですので、少なくともその時に、その意思はあったということ、実際に裁判になれば証拠も必要なのでしょうが(公証人さんも言っていました)、それでも、くどいようですが、不法行為があったことを認め、そのうえで条件を設定していた場合、その日、その時、お互いの間で、内容に関しての意思はあったということの証明力は十分にあると考えられます。
(4)本件でいう私署証書の本当の意味とは?
なお、僕自身、前述した私署証書の原案の作成や代理作成をしてきましたが、それを作成されたご夫婦が、その後離婚をしたというお話しは、あまり聞いていません。もちろん聞かされていないだけのものもあるかと思いますが、それでも実際、多くはなく、時折「時間が経って、これで縛ることが嫌になってきたので、松浦さんのところで破棄してくれませんか。自分では破棄できないので。気持ち的に。」と言われることもあります。
いずれにしても、おそらく、書面としての拘束力によるものよりも、
有責性のある側からすれば、不貞や暴力の事実を厳格な書面に記載したこと、そしてそれを再度犯せば、厳しい離婚条件が待っていることでの歯止め
有責性のない側からすれば、仮に離婚になるときでも、離婚条件の担保・保険が取れているというような気持ち
などがあり、それがお互いの意識改革に繋がっているように思えます。
こうした書面を作った当初は、無理に夫婦を縛ることになり、良い関係性を再度導けるのか・・、という心配をしておりましたが、意外にもそういったことは多くはなく、あくまで僕が見てきた限りにおいてですが、その後は関係性を保っているご夫婦も多い印象があります。
それでも、なかなか相手方を信用することはできないわけですが、ただ、自分を縛る、有責性を認め、それを合意書にまでしたという、そういうところも一つの減ってしまった信用を返済する材料になっているのかもしれません。その一つの覚悟についてを。
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かといって、そういうように纏まるご夫婦ばかりではありません。
モラハラや暴力、不貞などによって傷つけられた心は簡単には癒やされません。また単純にモラハラなどで削られた心の回復は難しいものです。
その辺りについては、当事務所の離婚と修復のガイドブックでも説明していますので、ご参考にされてみてください。
ご相談については、離婚と修復のおきがる相談室に来訪してください。
夫婦問題の本質論についての説明もさせていただきますよ。
// 行政書士松浦総合法務オフィス 松浦智昌
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