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ポール・二ザン「アデン アラビア」

amazonで中古で1000円。このイカした裏表紙を見て欲しい。

amazonの紙袋が届いたのは3日前。封を切っている時は子供みたいだったろう。僕はこの「アデン アラビア」にとても期待していたのだ。

この本を買ったきっかけは、ちょっと前に読んだピエール・ガスカールの「街の草」。とても面白かった。そしてそれが面白いのは訳が良いからじゃないか?と思った。「篠田浩一郎 訳書」と検索すると、いくつかの海外小説が出てきた。全部フランス文学。その中でも「アデン アラビア」は「街の草」に趣向が似てるっぽかった。これならまたあの興奮を味わえるのではないかと考えたのだ。

今、読み終えてすぐに書いているのだが、ひとことでいうと、「街の草ほどではないが、それなりに興奮している」状態だ。

まず最初、僕は読んでいてがっかりした。この本には情景描写も会話文もない。小説とは言い難い。これは「訴え」の本だ。僕は街の草みたいなクールでスノッブな小説を想像していたので、「全然違う……」と思いながら読み続けていた。冒頭の一文が「ぼくは二十歳だった…」という最高にシャレた始まりなだけに、違和感が大きい。

また、僕は勝手にこの本を「退屈のフランス人がアラビアへ行って自分探しの旅」くらいに考えていた。しかし何しろ「批判書」なので、知らない単語がたくさん出てくる。文字を追うだけで理解できていない部分も結構ありそう。特に中盤……

が、それでも一気に読んでしまったのは、やはりこの「ポール・二ザン」という作家の情熱が魅力だったからだ。
ウィキペディアで調べると、この本は二ザンが26歳の時に出した本らしい。僕は今年26歳。その情報のおかげで読むモチベーションが上がった。同い年の青年がフランスという国をこれほど真っ直ぐに、コテンパンに批評している。それが彼のデビュー作にして代表作になっている。で、僕は何をしてるんだ?というわけだ。

そう、これは「同族嫌悪」がテーマとなっている。やはりどの国の人も外国に憧れるのだ。そこを軸にして読んでいくと、置いてけぼりにされかけても多少軌道修正ができる。僕はフランス人のキザで天邪鬼な性格が好きだけど、自分がフランス人だとそれに腹がたつみたいだ。

また村上春樹の話になるが、「アデン アラビア」の終盤で見覚えのある文章を見つけた。「ブルジョワを成り立たせているのは奴隷制度」という部分だ。これは風の歌を聴け、のどこかで出てきた一節。気のせいか?とは思わない。村上春樹はこういう本が大好物なことくらいわかる。ただ、村上春樹が影響を受けた作家に「ポール・二ザン」という名前を見たことはなかったので、若い頃読んだお気に入りの本、というくらいだろう。

これまで僕は村上春樹が小説やエッセイの中で触れてきた海外文学ばかり読んできた。でも今回の「アデン アラビア」は村上春樹を経由せず、自力で見つけてきた本…だと信じていた。しかし、やはり先に読まれていた。

最初はあまりにも堅い本に思えた「アデン アラビア」。でも読み終えてちょっと一息ついた今、こう思う。これは後になってまた読みたくなる本だし、「20代で読んだ思い出の本」として将来も残り続けそう。

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