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アルコール依存症とは?

アルコール依存症は、飲酒行動の自己制御ができなくなり、仕事や人間関係を犠牲にしてでも常に大量の飲酒を続けてしまう状態を指します。この状態になると、自分の意思だけで飲酒をやめることが難しくなり、専門的な治療やサポートが必要となります。

アルコール依存症の疫学・好発年齢
・国内の患者数は約107万人と推定されています。
・有病率は男性で約1.9%、女性で約0.2%(2013年の調査による)。
・中年男性に多い傾向がありますが、近年では女性や高齢者の患者も増加しています。

原因
・長期的な習慣飲酒:日常的に大量のアルコールを摂取することで、身体と精神がアルコールに依存してしまいます。
・遺伝的要因:家族にアルコール依存症の方がいる場合、発症リスクが高まります。
・ストレスや心理的要因:ストレス解消のために飲酒を繰り返すことで依存が進行します。

病態生理
・精神依存:飲酒への強い渇望や、飲酒中心の思考パターンが形成されます。
・身体依存:アルコールを摂取しないと離脱症状が現れるようになります。
・耐性の形成:同じ効果を得るために、より多くのアルコールが必要になります。

主な症状と所見
精神依存による症状
・飲酒の強い渇望:飲まずにはいられない強い欲求。
・飲酒中心の思考:生活の中で常に飲酒のことを考えてしまいます。
・生活の破綻:時と場所を選ばずに飲酒し、仕事や人間関係に支障をきたします。

身体依存による症状(離脱症状)
・自律神経症状:手の震え(振戦)、発汗、頻脈、悪心・嘔吐、頭痛など。
・不安や焦燥感:落ち着かない、イライラする状態。
・飲酒の渇望:離脱症状を抑えるためにさらに飲酒したくなります。
・けいれん発作:重度の場合、全身のけいれんが起こることも。
・振戦せん妄:意識混濁や幻覚が現れる重篤な状態。

耐性による症状
・飲酒量の増加:同じ酔いを感じるために、飲酒量が増えていきます。
・大量飲酒:短時間で大量のアルコールを摂取するようになります。

身体的な合併症
・肝障害:肝炎、肝硬変など。
・膵炎:急性または慢性の膵臓の炎症。
・心筋症:アルコール性心筋症による心臓の機能低下。
・多発神経炎:手足のしびれや麻痺。
・糖尿病:血糖値のコントロールが難しくなります。

検査と診断方法
スクリーニングテスト
・CAGEテスト:4つの質問からなる簡易な検査。
・KASTやAUDIT:より詳細な飲酒行動の評価が可能。

診断の流れ
1.聞き取り調査:本人や家族から飲酒歴や生活状況を詳しく聞きます。
2.身体検査と合併症の検索:血液検査や画像診断で身体的な状態を評価します。
3.総合的な判断:これらの情報をもとにアルコール依存症と診断します。

治療と管理方法
アルコール依存症の治療は、断酒の継続を目標に、心理社会的療法と薬物療法を組み合わせて行います。
1.心理社会的療法
・断酒意志の強化:カウンセリングや精神療法でサポートします。
・自助グループへの参加:断酒会やAA(アルコホーリクス・アノニマス)などで、同じ悩みを持つ人々と支え合います。
・家族のサポート:家族療法や教育を通じて、家庭内での支援体制を整えます。

2.薬物療法
断酒補助薬:アカンプロサート
・作用機序:アルコールにより亢進したグルタミン酸神経を抑制し、飲酒欲求を低減させます。
飲酒量低減薬:ナルメフェン
・作用機序:オピオイド受容体に作用し、過剰な快感や不快感を抑制します。
抗酒薬:ジスルフィラム、シアナミド
・作用機序:アセトアルデヒドの分解を阻害し、悪心・嘔吐などの不快な症状を引き起こし、飲酒を抑制します。

※注意点:これらの薬は、患者本人が断酒を決意し、薬の作用を理解していることが重要です。

離脱症状と栄養障害への注意
アルコール依存症では、離脱症状だけでなく、栄養障害にも注意が必要です。特にビタミン欠乏による精神障害が起こることがあります。

早期離脱症状:飲酒中止後数時間から出現します。
・自律神経症状:手指の振戦、発汗、頻脈、悪心・嘔吐、頭痛。
・不安や焦燥感。
・飲酒の渇望。
後期離脱症状:飲酒中止後2~3日で出現します。
・けいれん発作。
・一過性の錯覚や幻視。
・妄想
・意識障害
・見当識障害
・興奮状態
・発熱

主な症状
振戦せん妄(身体依存)
・意識の混乱:時間や場所、人がわからなくなる。
・幻覚:特に小動物が見える幻視。
・リープマン現象:目を閉じても幻覚が見える。
・作業せん妄:意味のない動作を繰り返す。
・パレイドリア:模様や形から幻影を見る。
・精神運動興奮:興奮状態になる。

ウェルニッケ脳症(ビタミンB1欠乏)
・意識障害。
・眼球運動障害:目がうまく動かない。
・失調性歩行:ふらついて歩けない。

コルサコフ症候群(ビタミンB1欠乏)
・記憶障害:新しいことを覚えられない。
・失見当識:時間や場所がわからない。
・作話:事実でないことを無意識に話す。
※ウェルニッケ脳症の後遺症として現れることが多いです。

ペラグラ(ナイアシン欠乏)
・皮膚炎。
・下痢。
・認知症:知的機能の低下。

アルコール依存症の薬物治療のポイント
・治療の主体は心理社会的療法:薬物療法は補助的な役割を持ちます。
・患者の意志が最重要:断酒への強い意志と薬の作用の理解が必要です。
・目的に応じた薬の選択:
・断酒補助薬:飲酒欲求を低減するアカンプロサート。
・飲酒量低減薬:ナルメフェンで飲酒量を減らす。
・抗酒薬:ジスルフィラムやシアナミドで飲酒を抑制。

まとめ
アルコール依存症は、自分の力だけでは解決が難しい病気です。しかし、適切な治療とサポートにより、断酒を継続し、健康的な生活を取り戻すことが可能です。

重要なポイント
・早期発見と治療開始:問題を自覚し、早めに専門機関を受診しましょう。
・家族や周囲のサポート:一人で悩まず、信頼できる人に相談を。
・断酒の継続:治療は長期戦です。焦らず一歩ずつ進みましょう。

もし心当たりのある症状やお悩みがある場合は、専門の医療機関や相談窓口にご相談ください。一人で抱え込まず、適切なサポートを受けることで、必ず改善への道が開けます。

最後に
アルコール依存症は誰にでも起こり得る病気です。大切なのは、問題を認識し、適切な行動を起こすことです。あなた自身や大切な人の健康を守るために、正しい知識とサポートを活用しましょう。


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