見出し画像

普通から抜け出す切符 【短編】

 ザーッと扉が開き、無機質な人型ロボットから切符が渡される。扉をくぐると、多くの人がいて、皆片手に切符を持っている。 その切符には、一文、「普通から抜け出す切符」と書かれている。
 
 自分は気づいた時、扉でロボットに切符を手渡され、わけもわからずに大勢の中にいる。しかし、だ。普通から抜け出す切符を手に持つ理由は分かる。ここは夢の中かもしれないが、現世では僕は普通をはねのけて生きてきた。それとも、普通からはじき出されていたのかはわからないが、多くの人から普通になれという洗脳されるも、体の隅々までは染まらなかった。

 このように、普通になれない僕に、「普通から抜け出す切符」を渡す理由はわかる。しかし、どうすればよいのかわからず、周りのうっすらとした人影を目で追う。
 
 ある人は、切符をくしゃくしゃにして床で踏みつける。他にも、ゴミ箱に捨ててしまう人もいた。そのような人たちは、入り口のロボットを押しのけて、再び後ろに戻っていく。しかし、以前の僕もそうだったのだろう。この切符を手にしたところで自分と周りの差が意識に増す。

 ただ、ここ数十年普通と格闘してきた僕は、「普通から抜け出す切符」で新たな汽車に乗り、普通では成せないことをする人なるものを多分に頭に詰め込んできた。普通ではないということは、普通ではできないことができるということである。

 今まで、僕はこの切符を渡されても、後ろの扉に戻り普通から抜け出す切符を放棄してきた。しかし、今は「普通から抜け出す切符」を握りしめ、新たな汽車に飛び乗ってみようと思う。普通を後ろに差し置いて、僕は普通から抜ける道を走る。この切符を得るには、普通から離れる必要があるのだから、切符を生かすも殺すも、どの汽車に乗るか次第ではないだろうか。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?