はーるになれば、らーくごを聴いて〜♪

令和四年、今年も早いものでこの原稿が皆様のお手元に届く頃には3月、春を迎える頃になっていると思います。この原稿を書いているのはまだ2月のあたま、蔓延防止の措置が延長される直前といった所です。コロナもいよいよ最後のヤマなのかなとも思いますが、本当に結果は3月中なのかも知れないですね。

我々噺家も長い冬眠の季節をようやく抜けられるのではと、先々の予定を企画立案しながら、冬眠明けの活動を夢見ている毎日です。

そうなると頭の中に浮かぶのは復活1発目に何を高座に掛けようかという事、客席も自分も心の底からスカッとする様な落語をお届けするべく根多選びをする事が楽しすぎて楽しすぎて…。

ではスカッとする落語というものはいったいどんな噺なのでしょう?内容、オチ(落語を最後の一言で終わらせる言葉、終わらせ方)ともに最高の噺はいったいなんなのか?
今回はそんなお話しをさせていただこうと思っております。

では落語にはいったいどんな「サゲ」「オチ」があるのでしょうか?

よく言われるサゲの種類と名前を列挙しますと、
地口落ち、拍子落ち、逆さ落ち、考え落ち、まわり落ち、
見立て落ち、間抜け落ち、とたん落ち、ぶっつけ落ち、
しぐさ落ち、冗談落ち、などたくさんの種類のオチを使った
落語の終わらせ方があります。

それではその中からいくつか有名な落語とともにご紹介していきましょう。
まずは地口(じぐち)落ち、
地口とは洒落、駄洒落の事で、落語の最後を駄洒落でオチをつける落語の事を言います。
千住でも商店街で地口行灯(じぐちあんどん)という古い有名な言葉などを駄洒落であらわすものを店舗に配布して飾りにしていた事がありましたね。
たとえば
舌切り雀を→着たきり雀 と言ったり、

お前百までわしゃ九十九まで→ お前履くまでわしゃ屑熊手

とやったり、
また韻を踏む地口もあります。

美味かった(馬勝った)牛負けた
とか
何か用か?(7日8日)9日10日(ここのかとおか)
などなど数限りなく存在します。

次に「まわり落ち」
まわり落ちというのは落ちが最初の言葉に戻ることを言います。
例えばこんな噺がその代表です。
猫の父親が子猫の名前を付けようと奥さんに相談します。猫より犬が強いから犬という名前にしようというと、犬より熊の方が強いから嫌だと奥さんが言います。じゃあ熊という名前にというと竜の方が強いから嫌だと言います。じゃあ竜という名前にしようと言うと竜より雲の方が強いと。じゃあ名前は雲だというと風の方が強いと。じゃあ名前は風だ。風より壁の方が強い。それなら名前は壁だ。壁よりネズミの方が強い。それじゃ名前はネズミだ。ネズミより猫の方が強いと奥さんが言うと、
「じゃあこの猫、猫だ!」

ばかばかしいけど楽しい小話です。

そんな中、今回は状況が逆転する「さかさ落ち」と仕草もオチに関わる「しぐさ落ち」の両方の要素を持つ「愛宕山(あたごやま)」という落語をご紹介したいと思います。
 

元々は上方(かみがた:大阪の意)で多く演じられている落語で派手で賑やかで華のある演目です。お店(おたな)の主人がお気に入りの芸者や幇間(たいこもち)を連れての京都散策の仕上げとして愛宕山(あたごやま)を登る、それだけの噺なんですが全編野外でのシーンという事も相まって、大らかな肩のこらないストーリーになっています。主要な登場人物は幇間の一八(いっぱち)とお店の旦那さんだけですが、チラチラっと出てくる芸者や後輩幇間がエッセンスを効かせてます。

旅の最後の山登りに備えて前夜の酒は控えていろと言われた一八ですが、やっぱり二日酔いで旦那の前にあらわれます。いざ山登りという段になって同行の芸者衆は着物の裾を摘んでひょいひょいと坂を登っていきます。山登りなんぞは朝飯前だと啖呵を切った一八ですが、なかなかうまくいきません。鼻歌を歌いながら登り始めるも途中から歌のテンポが遅くなり息絶え絶えになるという演出で徐々に疲れていく様を表現する、落語ならではの演出方法です。時間経過と状況がすぐに解るのと、疲れて曲調をゆっくりな物に変えていき、最後には歌が止まってもうこれ以上動けないという一八の様子を端的に伝える。
実際のストーリーには関係のない場面ですが、これを見た江戸観客は、まだ見ぬ上方の風情に思いを馳せ先の展開に心躍らせて聞き入ったに違いありません。

後輩の幇間の手も借りてどうには上まで登った一八ですが、旦那がこっちへ来い声をかけます。側まで行ってみると、そこでは山肌に的が仕掛けてありそこに焼き物の土器(かわらけ)を投げて輪を抜けたら願いが叶うという願掛けの場所でした。旦那が器用にかわらけを投げると、見事に輪の中を抜けていきます。簡単そうにやってる旦那の真似をして一八が投げるとかわらけは真っ直ぐに谷底に落ちていきます。それから旦那は前からこれがやりたかったと、懐から小判を30枚出してきて山肌のマトに向かって投げ始めます。手元にあった30枚はみるみる無くなって、気にする様も見せずに
旦那「さあ行くぞ」
と場を後にしようとするのを見て
一八「あの30両はどうします」
旦那「あのままだ」
一八「じゃああれを拾ったら?」
旦那「拾った人のもんだ」
一八「私が拾ったら?」
旦那「お前のもんだ」 

さあこれから一八はどうにか谷底に行く方法を考えます。
茶店であそこまでは歩いてどれぐらい掛かるかと訊いてみると、半日以上は掛かると言われ、傘を広げて飛び降りることを考えます。

まあ常識で考えれば危険極まりないことですが、そこが落語の楽しい所で勇気を振り絞りうっそうと茂る竹林の谷底に傘を拡げて飛び降ります。そこから30枚の小判を拾い集めると、谷の上から覗き込む旦那に
一八「金が全部ありました〜」
旦那「良かったなぁ〜、全部やるぞ〜」
一八「ありがとうございます〜」
旦那「どうやって上がる〜?狼に食われて死んじまえ〜」

急に現状を理解して慌てふためく一八が、急に着物を脱いで細く切り裂いていきます。裂き終わると今度はその着物を縄のように結い始め長い縄を結い上げてしまいます。
先の石つぶてを結びつけると石を重りにくるくる回し始め、1番背の高い竹の先っちょ目掛けて投げつけます。
うまく石は竹の先に巻きつきました。
今度はその縄をぐいぐい引っ張り始めて、もうこれ以上引けないほどに引っ張ると、竹は半円を描くようにしなっています。

ここで一八が旦那にいる場所を見て見当をつけると、縄をしっかり握ったままポーンと足を蹴り上げます。

すると曲がっていた竹がスルッスルッスルッと伸び始め、やがて真っ直ぐになったと思ったら旦那の前に谷底にいた一八が突然あらわれます。

一八「ただいま戻りました!」
旦那「おお、よく上がってきたな。それで小判は?
一八「あああ、忘れてきた」

文字だけでどれだけ伝わったかは難しいですが、ぜひこの噺は実際に落語を聞いてお楽しみください。

私もこんな落語でスカッとしたいものです。

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