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5月になりました

〜初夏ですね、着物と落語の衣替え(ころもがえ)〜

早いものでもう一年の半分、5月になりましたね。
梅雨前までの一年で一番過ごし易い、いい季節がやってきますね。

落語の方でも冬、春のネタから夏っぽい噺の準備をし始めるそんな時期の
落語と着物の衣替えとその歴史のお話しをさせていただきます。

〜季節の考え方、紋日(もんぴ)と言う区分〜

季節といえばいわゆる春夏秋冬、一年を四つの季節に分ける考え方が一般的ですが、この四季が
出来た原因は実は結構科学的な根拠に基づいているんです。
要因の幾つかを言えば、地軸が23℃傾いている事、太陽の周りを回っている時に、一番北にーなった時が夏至で低くなった時が冬至になる訳です。そしてその間にどちらでもない期間があり、
その区別がハッキリ出る地域が日本なんですね。
そうでない国がありまして、それが一番顕著な場所が日本という国です。

季節という気候の変化があれば、一年中同じ衣服を付けて る訳には行きません。
夏には夏の冬には冬の、そしてその間の春・秋も相応な服を着なくてはいけませんが、
エアコンのある現代ではない、そんな時代には「衣替え」という知恵で季節を乗り切った
日本人の知恵を感じながらお読みいただけたら嬉しいです。              21

〜衣替えの元となる「五節(ごせち)」という考え方〜

五節とは、中国から伝わった奇数が重なる日をめでたいとした考えで、農耕民族である日本
では稲作中心の生活様式をうまく適合させてきました。以前ありました、たくさんの節句を
江戸時代に幕府が節句を元に公的な祝日とした5つの節句が現代まで残っています。

その五つとは1月7日の人日(じんじつ)、3月3日の上巳(じょうし)、5月5日の端午(たんご)、
7月7日の七夕(たなばた)、9月9日の重陽(ちょうよう)の、皆さんも耳にした言葉が多いのでは
ないでしょうか。子供のお祝いになっている日が多いからこそ、耳覚えがあるんですね。

この五節の日を着物の着替えるタイミングとして利用していたのが、吉原などを代表とする
江戸時代の遊び場と言われた色街の世界でした。

昔の祝日である五節の日を紋日(もんぴ・ものび)とよんで、吉原などの遊廓では上げ代金(料金)を
倍額でお客様に請求するという、今でいう休日料金みたいな事を始めたため、お客様は紋日には
遊びに行くのを控えたい。しかしこの紋日を衣替えの日としたため、働く女の人は衣替えの為にー
お金がかかるからお客さんに困っているという内容の手紙を書いてこの日に来てほしいとお願いする。モテたいお客は高いを承知でお金を使いに来る。

なんとも引き交々(こもごも)の男女関係がおもがなしい(面白くて悲しい)噺ですね。
こんな風情を落語「品川心中」では細かく描いています。                

〜品川心中 映画「幕末太陽伝」のネタ元の落語〜

品川の遊廓で売れっ子だったお染(おそめ)、歳と共にお客が減り始め紋日に着物などを替える
お金に困り、みっともない思いをするならいっその事こと死んでしまおうと考えるのですが、
一人で死んだらお金の所為だと思われる、男と死ねば心中と浮名が立つと考えたお染が貸本屋の
金造を騙して心中させようとする物語です。

あれこれ心中の方法を考えるのもの、度胸のない金造は色々言い訳をつけて嫌がります。
じゃあ裏の桟橋から身投げをしようと二人で店の裏から桟橋の突端に行くものの、寒さと怖さで
金造がいっこうに飛び込まない、痺れを切らしたお染はその背中を蹴り上げて海に突き落とす。
さあ、自分もと飛び込もうとした所に店の若い衆がギリギリのところで止めにはいります。

きまり悪いお染が桟橋の上から「蓮の葉の上でまた会いましょう」と言って店に消えてしまい、
その様子を見た金造が悔しい!っと足を伸ばすと品川の海は遠浅で立ったら膝までしかない。
今に見てろと自分の親方のところに相談しに行って復讐を考えます。

日を改めて嘘の通夜にお染を呼び出したところに、お化けの扮装をしてあらわれて恨み言を
言い出すと、怖がったお染は親方にどうしたらいいでしょうと相談する。
恨み殺される前に頭の毛を剃って念仏を唱えなさいと言われ、やむを得ず頭を丸める。
そこに金造が飛び出して、仕返しのネタバラシを。
怒ったお染が「髪を切ったら仕事ができないよ」というと
金造が「お前があんまり客を釣るから比丘尼(ビク:釣り道具)にしてやった」

オチ、わかりましたか?
楽しい噺です。                                

〜時代は江戸から明治へ〜

衣替えも明治になると、衣服が着物から洋装に変わっていき、衣替えの仕方もかわりました。
役人、軍人が制服を着用する様になって、その衣替えが世の中の基準となっていきます。
制服が夏服と冬服と季節で着分ける様になりまして、その切り替え時期を6月1日、10月1日
と政府が決めて、その後学校など制服が広がるにつれてそれに従い、近代の衣替えが今の様に
変わってきたものと思われます。

〜それでは落語界の衣替えは?〜

洋服は夏用、冬用しかありませんが、着物となるともう少し種類が多くなります。
基本で言えば冬、夏、春秋と分ける事ができまして、その季節で生地もかわっています。
まずは冬、10月から5月まで袷(あわせ)という裏地付きで仕立てた着物を着用します。
重量感があって着映えすることから、オールシーズン着用する人もいる様ですが、さすがに
夏場は暑くて着ていられません。
6月中、9月中に着る着物を単衣(ひとえ)といいまして、裏地をつけずに仕立て上げた着物の事です。現在ではエアコンの普及から一年中単衣物を着る人が増えてきている様に思われます。
見た目は「袷」と変わりませんが、重みがない分着物の線が出にくいという欠点もあります。
7月から8月中までに着る着物を「薄物(うすもの)」といいまして、糸の密度を粗くした布地で
風通しを良くする工夫がされています。この着物を着る時は帯や襦袢(じゅばん)などの小物も
全て夏物にしなくてはいけないという決まりがあります。              

落語の衣替えはこの着物の変化と共に高座に掛ける噺も変わってきます。
基本ネタに関しては早め早めが決まりになっていて、5月になるとそろそろ夏用の落語を
やり始めてもいい事になっています。

落語と着物と季節の関係性、ご理解頂けましたでしょうか?
またこちらでお会いしましょう。






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