私たちのサイン

まぶたを3回閉じる時、私たちは嘘を吐いている。サヤカとアヤカだけが知っている秘密のサイン。

花瓶を割ったのは私たちじゃないよ。近所の猫が倒していったの。ねぇ、サヤカ。

男の子たちが意地悪するの。女の子だけの学校に行きたいわ。ねぇ、アヤカ。

私たちは私たちのために嘘を吐く。

双子じゃなくてもできることだけど、双子じゃないと思い付かないでしょ?

私たちはずっと、お互いのために生きて行く。そう思ってた。

だけど、双子だから上手くいかないことがあるのね。

とあるビルの屋上、私は姉を連れて来た。あなたの口から確かめたいことがあったから。

隣に座る彼女は、いつもより小さく丸まって、心なしか震えているように感じた。

世界が単調なセピア色に沈んでいくのかと思ってしまうほど、今日の空は重苦しく淀んでいた。

私たちに曇り空は似合わないのに。

「ねぇ、最近、体調でも悪いの?」

「そんなことないわ。今日だってちゃんと授業に出たじゃない。」

「ねぇ、どうして最近一緒にいてくれないの?」

「だって、私たちも大人なのよ。いつまでも一緒ではいられないわ。」

「ねぇ、それならどうして私に秘密にするの。」

「秘密って何のこと?聞かれたことは何でも答えてるじゃない。」

「ねぇ、もしかして、好きな人ができたんじゃないの?」

「どうしてそんなこと聞くの?私、毎日をこなすのでいっぱいいっぱいよ。」

「この前、私が好きだって言った人のこと、覚えてる?」

「覚えてるわよ。二人だけの秘密だって約束したわよね。」

「私が好きな人を、あなたも好きなんでしょう?」

「そんなことないわ。あなたが一番大切な人よ。」

「…嘘、吐かないでよ。」

「だから、嫌だったのよ。」

「まばたき3回、嘘の味。私たちだけが知っている。」

ごくごく自然に、当たり前のように、二人の声が重なる。

「私たち、これからどうすればいいのかな。」

私は彼女にそう聞いた。

「それは今から、話し合うしかないと思うわ。」

彼女は私の手を取って囁いた。

「私にとって、あなたが一番大切な人よ。」

そう言ってからもずっと、彼女の目はずっと開いたままだった。


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